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紙の本
後半に至ってはルポ&報告書を超え、濃い分析が展開される
2016/06/05 16:23
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投稿者:大阪の北国ファン - この投稿者のレビュー一覧を見る
下巻は南サハリンについての記述から始まる。土着人としての所謂「樺太アイヌ」についても述べられるが、江戸時代 松前藩の時代から”弱いものイジメ”の一つの対象として周辺の異民族に弾圧と搾取を繰り返してきたわれらが日本人のご先祖様の行状の一端が伺える記述がある。「南サハリンがロシア人たちに占められるまではアイヌ族は日本人の下で殆ど奴隷同様の地位に甘んじていたもので・・・(中略)・・・南サハリンを占領するやロシア人は彼らを解放し侮辱から擁護し、しかもその内部生活への干渉はこれを避けつつも最近まで彼らの自由を保護してきたのである」。ここには勝者の歴史観も混じっていようが、まさにこれがロシアの知識階級から見た北海道以北における日本人の「統治実態」であり、今日においてもなおロシア人が「日本人に土地を返すことの精神的違和感」を生む元凶になっているのではないかと考えるものである。今、世界で領土問題を考える時に、単なる縄張り争いと、経済的な得か損かの視野しかなく、そこに居住する人々の幸福や福祉が如何に実現されるべきかを第一に考えるという発想はあるのかと疑ってしまう。また、巨大になった隣国が、「台湾の土地は自分の土地」と言って憚らないのを失笑しながら見ている我々日本人も、「アイヌの土地は自分の土地」と言って世界から失笑を買っていないか、或いは過去そういう時期がなかったかよく点検すべきである。(私は交渉の前に自己の過去の主張内容や論点誤謬を整理し、そこから有効な展開を考えるべきと言いたいもので、国土を放棄せよなどというつもりはないので誤解されなきように)。
サハリン各地域の地誌観察と叙述を終えて、後半は社会体制(当然監獄島としての特質を含む)、イデオロギーや気候風土が引き起こしている「人間の健康や精神」への影響について論考が展開される。これはルポルタージュの範囲を超え、科学者としての著者のもう一つの顔を見せてくれる。医者としてのチェーホフの面目躍如であり、素晴らしい分析と帰納ぶりに胸がすく思いがした。
19世紀の著作であり、20世紀前半の訳と仮名遣いが読みにくくはあったが、大変内容の濃い充実した大作であった。