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収録作品一覧
O侯爵夫人 | 19−81 | |
---|---|---|
チリの地震 | 83−105 | |
聖ドミンゴ島の婚約 | 107−157 |
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紙の本
女性たちの言動が斜め上過ぎる小説
2021/08/07 23:26
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投稿者:コピーマスター - この投稿者のレビュー一覧を見る
そもそもの事の発端は川上未映子の『夏物語』に主人公が少女時代に読んだ海外古典の文庫本を眺めるシーンがあって、見知ったタイトルに交じって「チリの地震」とあるのが気になったからである。おそらくその「文庫」は実体としては河出文庫であろう。そしてクライスト短編集のもう一つの翻訳がこの岩波文庫である(本書にも『チリの地震』は収録されている)。岩波文庫でよくある戦後間もない翻訳の復刊で旧字体、活版印刷のキヨズリでやや読み辛さはある。ただし訳文は実に秀逸で、読み始めるとクライストの文章の勢いに気圧されてどこまでもグイグイ読ませるのだから凄いものである。基本的に人間の業(ごう)をあぶりだす破滅型文学。ジャーナリスティックな真実さとそこはかとなくただよう宗教性やヒューマニズムに独特な味わいがある。古典一般は登場人物の心情を自然描写に仮託することを好むものも多いと感じるが、クライストは自然描写一切ナシ。語る言葉と行動のみで人物の本質を生き生きと描き出す刑事ドラマの脚本家である(実はクライストの肩書は戯曲作家である)。本格推理のようなトリックも鮮やかで芸術的にキマっているし、時代を先取りした新しさときたら、誤解を恐れずにあえていえばもはやSF的ですらある(なんとゲーテと同時代)。ストーリーの推進力は息もつかせぬほどなのだが、なぜか女性たちの言動でかなり理解しがたい斜め上を行くものがあり「えええっ?」と二度三度読み返してしまうことがあったことは附言しておきたい。表題作の『O侯爵夫人』然り、『決闘』然り。さて読者諸賢はどう読まれるだろうか。これは個人的な読書体験ではなく、ワイワイ仲間うちで読んで語らって楽しさ倍増タイプの小説ではないだろうか。川上未映子としては、まあ若いうちに一度読んどきなというメッセージであったと私はそう受け止めている。