紙の本
魔の山上
2001/06/19 14:36
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:55555 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ドイツには古くから教養小説という伝統的な分野がある。それはどのようなものかというと、主人公が色々な人に出会ったり、色々な体験を経て大人に成長するというものである。
そんな、ドイツの教養小説の枠をトーマス・マンは「魔の山」で破壊した。
何故かというとこれまでの教養小説は少なくとも主人公が遍歴を経て成長するというストーリーであったが、「魔の山」の主人公ハンス・カストルプは移動することなく療養所に何年間も居ることによって肉体的に精神的に成長するのである。
ドイツ教養小説の新たな地平線を切り開いた傑作。
紙の本
病気と死、そして生と愛
2017/02/28 23:29
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:コーチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
長いながい小説である。どちらかというと、変化に乏しく、つまらない内容である。それでも、読んでいる途中でいろいろな箇所に引き込まれ、読後もいろいろ考えさせられるのは、名作の名作たるゆえんだろうか。
青年技師ハンス=カストルプは、数週間の予定でやってきたアルプス山ダボスにあるサナトリウム(療養所)で、結核にかかっていることが判明し、そのまま入院が決まる。彼は、さまざまな人びととの出会いと別れを繰り返しながら、結果的に7年間山上で過ごすことになる。ハンス=カストルプの従兄で、彼が来る前からそこで治療を続けていたヨーアヒム。ともにクセのある、しかし憎めない二人の医師、ベーレンス顧問官と代診のクロコフスキー。進歩思想の擁護者で人文主義者のセテムブリーニ。彼の対立者でイエズス会士のナフタ。そしてハンスが思いを寄せるロシア人女性ショーシャ夫人。その愛人のオランダ人ペーペルコルン...
セテムブリーニ、ナフタが繰り広げる政治談議は、現代の日本でも見られそうな左翼と右翼の不毛なやりとりを彷彿とさせる。語彙が稚拙で、話に論理性に欠けるが、鷹揚な親分肌のペーペルコルンもまた、わが社会に見出すことのできる人物の典型である。後半ではオカルトにはまる療養所内の興奮が描かれるなど、まさに現代社会に共通する事象にあふれている。
しかし本書における最も重要で根本的なテーマは、病気と死であり、それらが襲いかかる肉体と魂の問題である。また病気や死によって浮き彫りにされるのは、生であり愛である。
だから、上巻最後に描かれるハンス=カストルプのショーシャ夫人への愛の告白と、後半の佳境で描かれるヨーアヒムの死とが、最も人間的かつ最も劇的な場面として私の心に残ったとしても不思議ではあるまい。前者は、フランス語を交えながら語られる魂と魂の美しい交流であり、ハンス=カストルプにとっては決して実ることのない、しかし最も満ち足りた、最も幸せな瞬間である。感極まったハンス=カストルプがフランス語で叫ぶのが次のせりふだ。
「アア、愛ハ、君...。肉体、愛、死、コノ三ツハ一ツノモノナンダ。ナゼナラ、肉体ハ病気ト快楽デアッテ、肉体ガ死ヲ招クノダカラ。愛ト死、コノ二ツハドチラモ肉体的デアッテ、ソコニコノ二ツノオソロシサト偉大ナ魔術トガアルノダ。シカシ、死ハ…金モウケシ、腹ヅツミヲ打チ、笑イ興ジテイル生ヨリモズット高貴ナモノナンダ...同ジヨウニ肉体モマタミダラデイマワシイ性質ノモノデ...同時ニ肉体ハマタ偉大ナ尊敬スベキ光輝デアッテ...ソレヘノ愛ハ...世界ノスベテノ教育学ヨリモ教育的な力ナンダ...」
後者のヨーアヒムの死においては、物理現象についてのごとく淡々とした死の記述が、妙に涙を誘う。その涙だが、ハンス=カストルプが流したそれについては、こう述べられる。
「それは、世界のいたるところでどんな時間にも惜しみなくさめざめと流されていて、詩人にこの世を涙の谷とうたわせた透明な液体であり、心身のどちらかが激しい苦痛をあたえられたときに、神経の衝撃で肉体からしぼりだされる塩分をふくんだアルカリ性の腺分泌物であった。ハンス=カストルプは、粘液素と蛋白も少量含まれていることを知っていた。」
投稿元:
レビューを見る
有名な古典なので敷居が高いと思われがちだが、純粋にエンターテインメント小説として楽しめる。そこそこ長いが、肩肘はらずに読んでほしい。
投稿元:
レビューを見る
この物語はハンス・カストルプの成長の物語と言われている。
名作と言われているが、私は途中読むのがつらくなってあきらめてしまった。なぜなら、話が平たんな部分(大きな盛り上がりがないので)が長かったからだ。
しかし、死、時間、音楽と時間、自然と人間の関係といった観念が、ハンス・カストルプが出会う不思議な人々とともにちりばめられている、壮大な物語だと思う。
またしばらく別の本をはさんでから呼んでみようと思う。
投稿元:
レビューを見る
生とは、死とは、愛とは、理性とは。思考の実験採択と病の誘惑に溺れ、魔の山の虜になったハンス・カストルプ。感心するほど“単純さ”を貫き通す彼の姿を、ユーモアとアイロニーをたっぷりこめた目線で描いたこの作品、素材の小難しさを超える文章の面白さが楽しめる。全二巻。
投稿元:
レビューを見る
ハンス・カストロプみたいな境遇にあった当時過剰に感情移入して夢中で読んだ。隠遁に近い生活の中で彼は何を見、何を知ったか。全てが非人間的なまでに高速処理される社会において一見何の役に立ちそうも無いこういった経験を、多角的に見つめなおす事ができる稀有な書。
投稿元:
レビューを見る
ドイツを代表する教養小説の超大作。平凡な青年ハンス・カストルプとその周囲の人々のおりなす人間模様が多彩。上下巻。
投稿元:
レビューを見る
実はこれもまだ読んでない。いっつもナフタ出てきて暫くしたあたりで止まっちゃうのは何でだろう。つーか新潮で買えば訳者高橋義孝だったんじゃないかそっちのがよかったな・・何でこれに限って私岩波の買ったんだろう。いつも紐しおりのついている新潮文庫をこよなく贔屓にしている私なのに。オオ。
投稿元:
レビューを見る
時々、こういう長い長い小説を読みたくなる。
主人公ハンスが山上のサナトリウムに到着し、そこでの慣習を笑い、自分はそうならないと言いつつ少しずつ慣れ、染まっていく上巻。
ハンスがショーシャ夫人のことをつい気になって見つめてしまう描写を、「不潔な関係」と表現する辺りが好き。不潔なプラトニックさってあるよね。
投稿元:
レビューを見る
山の上の世界と下の世界。
平凡に育った若者が隔離状態にある山の上で急進的な政治思想や哲学、覆った道徳・宗教、性、友情、死、自然に触れある種の光明を見出すまでの話。青春小説でありながら完璧な教養小説。政治・哲学・宗教についてはやや難解。社会全般に係る普遍的主題を全て盛り込んだ長大な小説は「実際的なファウスト」といった印象。
投稿元:
レビューを見る
フリーメイソン会員やイエスズ会の人が重要人物として登場しているが、その辺の西洋の背景知識を持たないわたしには読み解けなかった。前提がわからなくてもお話として楽しめたが、内容は理解していないので評価できないです。
投稿元:
レビューを見る
カラマーゾフ読んでたら、無性に魔の山を詠み返したくなったのでのっけてみた。でも再読してないので、詳しいことがさっぱり言えない(笑)
カラマーゾフ2巻読んでたら、コレは結局のところ人間群像が織り成すユーモア小説かいな?って感じがしてきて、ユーモア小説だったら、なんつっても魔の山だろー!!と思ったんで。カラはまだシリアスに話が展開するんだろうか?ってのが読めなくって、どうもその中に差し挟まれるキャラのお茶目ぶりの処理がよく分かってないんですけど、魔の山は全編渡って皮肉な笑いに満ち満ちてる。
隔絶されたサナトリウムに集う特権的なイっちゃった人たちが、ひたすらなんの特にもならない世間になんの寄与もしないアイロニーに満ち溢れた会話を延々繰り広げる話、だろうか。(てかだったっけ)
とりあえず主人公のハンスくんがもってもてで、色気おばはんショーシャ夫人とか、ホモおっさんとかに取り合われる話。だけど本命はいとこくん。って、そんな話だったかと・・・。
ショーシャ夫人とそうなるとこの描写がまたセクシーだった気が。
ラストは壮絶。デミアンは叙情に溢れてたなあ・・・。
とりあえず全編多少分かんないとこがあろうが、ユカイ小説として楽しく読める。
投稿元:
レビューを見る
学生から職場に勤務するようになる直前、ぼんやりと無気力に陥っているハンス・カストルプは、気晴らしと療養を兼ねて、従兄弟の居る山奥のサナトリウムに滞在することを勧められる。
魔の山では下界と違った時間が流れ、病人たちが日々独特の生活を送り、その大抵のものは長く留まりすぎて下界に帰るところをなくし、魔の山の住人となってしまう。
山を下りたがる者、山を出入りする者、山で死ぬ者、山で諭す者、あらゆる登場人物がそれぞれ教訓となっている。教養小説と言われてますが、正直難しかったです。大半は山で繰り広げられるドタバタコメディーだと思って軽く読めます。
投稿元:
レビューを見る
マンの超大作の前半部分。中心的な登場人物は、ハンス・カストルプ、ヨーアヒム・チームセン、セテムブリーニとマダム・ショーシャ。
ヨアヒムの付き添いで結核療養所に入院したハンスの「成長」の物語。結核療養所という特異な空間において、セテムブリーニとショーシャとの関係がハンスに複雑な「成長」を遂げさせる。セテムブリーニはハンスを理性的に成長させる。だが同時に、ショーシャとの神秘的な関係を通じて、ハンスは理性的には解決できない自己のありかたに直面する。
ハンスとマダム・ショーシャの神秘的な関係に心底魅了された。
投稿元:
レビューを見る
大学時代に購入して、何度も何度も挫折しながら読み進めた本。スイス高原にあるサナトリュウムでの奇妙な療養生活を描く。時間感覚や死の神聖化など哲学的な内容を多く含む。一生かけて付き合って行きたいと思う本。