紙の本
一種独特な名文
2019/06/20 19:34
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投稿者:たあまる - この投稿者のレビュー一覧を見る
『クラクラ日記』を、歯を磨きながら洗面所で読みました。
『ビブリア古書堂の事件手帖』でキーアイテムになる本です。
堂島のジュンク堂に本を買い込みに行くと、『ビブリア……』に出てくる本を揃えているコーナーがあって、そこにこの本もありました。
流行作家の妻だった坂口三千代という人の本です。
亡くなった夫の坂口安吾は『堕落論』で有名ですが、小説や評論やエッセイや旅行記と、マルチな活躍をした作家で、無頼派と呼ばれていた人です。
その呼び名どおりの破天荒な生活が描かれるのですが、素人っぽい筆致の中に、飾らない素直な流れのある文体で、一種独特な名文だと言えるかもしれません。
今で言うとちょっとテンネンみたいなところのある三千代さんの、安吾への細やかな愛情が随所に表れていました。
坂口安吾は昔よく読んでいて、私の本棚にも安吾コーナーがあったのですが、震災後に本を大処分した時に手放してしまいました。
『クラクラ日記』を読んでいるとまた読みたくなってきて、冬休みに角川文庫の『堕落論』を買いました。
『クラクラ日記』は巻末まで読むと、松本清張の「周辺の随想」という小文が収められていました。
清張ほどの大作家が「名文章」、「筆に抑制がきき、ムダがない」、「リアリティが底に光って、迫真力がある」と、三千代さんの文章を賞め、「そこはかとない哀調と、自然のユーモアがある。著者の人がらである。」と書いています。
文章に素人の私などがつらつら説明するより、これを引用した方が早かったですね。
そして、こんなことまで……。
「本書を読む中年すぎの男性の多くは、かかる女性とこそ結婚すべきであったと思うにちがいない。」……って、清張先生も、こんなこと書いちゃっていいのかしら。
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坂口安吾が精神を患っていく過程が壮絶なのだけど、
語り口は軽やか。
まるで死が目前に迫っているのを知っていたような安吾との、
最後の団欒が胸に染み入る。
クラクラとはフランス語で野雀のこと。
安吾の死後、バーのマダムになった三千代さん。
そのバーの名前がクラクラ。
三千代さんに頼まれて獅子文六が名づけたそう。
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坂口安吾の奥様著。
意外にもといっては失礼ですが大変面白い。安吾のプライベート資料としては右に出るものがないだろうな。
三千代さんが青鬼の褌を洗う女、のモデルだというのにはひどく納得した。そんなお人柄。
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坂口安吾の奥様である坂口三千代さんによる日記。
とにかく安吾との結婚生活が大変そうで,並大抵の女のひとではちょっと無理だろうなあと思う。
ある日,安吾の薬物中毒によるめちゃくちゃな生活に疲れた三千代さんは,安吾と一緒に死ぬことを決める。
死ぬ前にお前にチャプスイを食べさせてやる,と言う安吾に連れられて,二人は中華料理店で食事をするのだが,食事の後の,安吾の,ある発言から,三千代さんは「彼は,まだ勝てる,まだ生きていける」と悟り,泥酔した安吾を連れて家に帰るのであった。
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坂口安吾の奥さん、三千代さんによる回顧録。
無頼で鳴らした作家の人生はめちゃくちゃで、三千代さんは時にいたく傷つき、振り回されながらも安吾と添い遂げていく。
こういう女のひとのことを「たおやか」というのだろうか。頭がよく、感性がするどく、それでいてのほほんとした図太い穏やかさがあり、安吾に愛された理由がものすごくわかる。男が夢見る「運命の女」をかたちにしたという感じがする。
かわいい、かわいい、ラブストーリーだった。まさに「クラクラ日記」。
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男からしたら理想の”妻 ”なのかも知れないが、生んで捨てられた子供、生まれなかった子供、からすれば最低の女性なんじゃないかな。生んで捨てられた子供はこの本を読んでどう思うのかしら。
坂口安吾の妻、坂口三千代氏による安吾との家庭生活を主軸にした手記。
案外おもしろかったです。最後まできっちり読みました。たしかに、坂口安吾の妻はこの人でないと務まらなかったのだろう。
安吾のような人の妻となり、晩年、薬中に苦しめられた彼を見捨てずに最後まで付き添った苦労や大変さが描かれているが、愚痴っぽくなっていないところが本当にすごい。けど母親として最低だろうね。
この点、悪妻、と呼ばれている漱石夫人の方がはるかに尊敬に値するわけですが。
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作家の妻、というのは失礼だが、どっか一本キレてないと務まらないと思う。
なにしろ頭の中の世界を紙に書きだそうという変人と添い遂げなければならないのだから、下手したら作家本人よりも変人じゃないと厳しいんじゃなかろうか・・・とか思うわけである。
坂口安吾夫人のエッセイ、というと軽い感じがするが、存外ヘヴィー。
つうかむしろ「それそんなことサラッと言っちゃいます!?」的な奔放さに、若干引かざるを得ない。
本自体はとても面白い。
確かに面白いのだが。
うむ・・・。
いや、まあ、あれだ、うん坂口もあんな人だったからねえ仕方ないのかないや仕方なくもなかろう、とか色々思う所のある一冊。
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作家のおやつという本で坂口安吾のエピソードを読んで
その奥さんが安吾について本を書いていると知って読んでみる。
安吾の荒唐無稽の無謀さに、奥様の三千代さんの切迫しつつもどこか
のんきさのある雰囲気がすごくマッチして、面白かった。
きっと安吾の奥さんは三千代さんにしか努められなかっただろう。
もう驚くようなエピソードがてんこもりで、その辺の退屈な本を
読むよりもよっぽど面白くてあっという間に読める。
以前高峰秀子さんのわたしの渡世日記を読んだ時もおもっけど
戦後を生き抜いた女性はバイタリティが全然違うと思った。
先日読んだ渋澤龍彦との日々は、奥様と渋澤龍彦との
のどかで優雅な時間の流れを感じられたけど、こちらは
渋澤夫婦とは対極をなすくらい、激しい夫婦生活だと思った。
とにかく面白い、最近本がつまらないなと思う人に読んでほしい。
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坂口安吾の奥さんの回顧録です。とりあえず読んで心に残った一文。
「母はだんだん混乱して、さじを投げた。そして、『あとで泣かないようにしておくれ』ということになった。
あとで泣くなというけれども私は泣くことは覚悟している。人を愛して泣かないで済むことを想像する方が難しい。」
個人的に実際近くにいたら苦手だろうなあという感じの人ですが女としては太刀打ちできなそうな人だなあと思いました。ほんわりと柔らかく書いてらっしゃいますが一本芯があってそこはぶれない感じです。そこが愛する男への愛なんだろうな、と。
彼女にとっての世界は坂口安吾と彼女とその他、ぐらいの分類だったのではないだろうかと。凄いなあと素直に思います。自分はそうはなれないだろうしなりたいかと言われるとなりたくないと言うと思うけれども。
でも前夫のお子さんは可哀そうですね。あと、買ってきて性格が合わない、と女中さんに押し付けた犬とかも。自分が愛する対象だけで心が一杯になると他の存在が目に入らなくなるのかな?そんなところも非常に女性らしい方だなあと読んでいて思いました。
それにしても作者が命を削るようにして書いた文章を今度のはわりと面白い、つまらないと軽く読んで偉そうに批評している読者というのは良い御身分だなあと思いました。ありがたいことです。
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横山泰三の表紙につられてジャケ買いしたのだが、滅法おもしろくて思わぬ拾いものをした。
語りに深沢七郎のような雰囲気を感じた。
多分坂口三千代さんは、天真爛漫というのにふさわしい人なのだろうが、その一方で(だからこそ??)、考えが深いなぁ、とも感じる。
例えば、安吾が堂々と浮気を繰り返すことについて、三千代さんは相手の女性には嫉妬は感じないという。なぜならば、安吾のような浮気者の夫をもった妻にとっては、世の中すべての女性は潜在的に彼女のライバルになってしまうからだ、と。
そういえば、クンデラも『存在の耐えられない軽さ』で同じようなことを言っていたような気がする。
これもひとつの諦念なのだろうか。
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ビブリア古書堂で取り上げられいた本。恥ずかしながら坂口安吾の本を読んでいないのに、先に奥方のお話から読んでしまった。次は安吾の作品をよもうとおもう。
どうしても、 残された最初の子供の事を考えると、男との愛に生きた女の話は辛く、反感を持ちながらも、また壮絶な話なのにも関わらず、ユーモアと明るさに溢れた文章で、スラスラ読み終えてしまった。
ただどうしても、自分にとって酒や薬に溺れ周りを傷つける人間は、許し難くその狂気をも愛したような感じが取れてしまう文章には、腹がたった。が、その部分の表現が素晴らしいかったのも事実でした。
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安吾がこんなに悪いやつだとは知らなかった。見つけたら平手打ちにしてやりたいものだ。
ただ、それでも、やっぱり、青褌の鬼は引きこまれる。桜の森の満開の下も。安吾はこわい。
と思ったら、結局は子煩悩になってしまっていた。たった一年半だったが。
激しいな、安吾。壮絶だなぁ。
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坂口安吾の奥さんの本。
まぁ、よく安吾と一緒にいたものだなと思いました。
本の感想からずれますが:
この時代近辺の文筆家のほとんどは、スキャンダル、女、酒、ドラッグ、精神病、貧困を糧に作品を書いている印象が非常に強いです。
そうでない小説家もいるでしょうが、有名どころはもっぱら人間のクズやエゴの塊が多く、だからこそ恐いもの見たさで現代に作品が残っているのだろうか?と感じることもあります。
時代の流行の文体とでもいうのでしょうか?多くの作品に、自分の人生をなにかの実験台にして、その研究成果を書き記しているような印象を受けます。
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戦後活躍した作家、坂口安吾。この小説を読んで初めて知った。これは、安吾と妻の三千代の夫婦として歩んだ時期のエッセイ。普通の夫婦は此処まで波乱万丈ではないだろうが、色々起こる中でも夫婦愛はなくならずお互いを思い合う気持ちがある。読んだあと、坂口安吾の小説を読んでみたいと思う。
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坂口安吾の妻の回顧録。出逢いから夫の浮気、薬、病を中心に死まで。
夫が結構にむちゃくちゃで自分勝手な人物に思えたが、奥さんへの愛が感じられた。
ビブリア古書堂の事件簿でとりあげられた本。安吾の本も読んでみよう。