「honto 本の通販ストア」サービス終了及び外部通販ストア連携開始のお知らせ
詳細はこちらをご確認ください。
読割 50
那覇心中 (講談社文庫)
那覇心中
ワンステップ購入とは ワンステップ購入とは
このセットに含まれる商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
収録作品一覧
那覇心中 | 7-62 | |
---|---|---|
スワッピング心中 | 63-106 | |
ケロイド心中 | 107-182 |
あわせて読みたい本
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
この著者・アーティストの他の商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
紙の本
旅立つ二人のこと
2008/02/11 21:49
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
心中ものをシリーズというわけでもなく、長さもスタイルも、書かれた時期も数年にまたがってばらばらな5編をまとめている。とはいえ、5編も心中小説を書くのは普通だろうか。ルポライター稼業の中で様々な現実を見てきた作者にとっては、書かなくてはならない題材があったのかもしれない。作者が引き揚げ後に育った広島の被爆者の物語「ケロイド心中」は、原爆をライフワークの一つに自ら挙げていた作者が遺した数少ない作品の一つでもある。人類に先駆けてこの破滅を経験した人々にとって、世界は他の人々にとってとは違うものになってしまった。その二つの世界を往還する中で磨耗していく「原爆乙女」の姿がある。ここに登場するのは一つの可能性に過ぎない。発表当時は偏見を助長するといった批判もあったらしいが、このような破滅が偶然の産物ではなく、今でも繰り返され続けている悲劇である以上は、歴史の過去として閉じ込めてしまわれることがないよう、人類普遍の悲劇として語られえないだろうかと思う。
「那覇心中」では本土復帰を果たしたばかりの沖縄の青年が、70歳の老女と心中するという物語。政治性が語られる作品ではないが、島津、米国、また日本と支配され続けるという観点や、米軍が撤退すれば仕事も減るというジレンマを背景に抱える中で、間隙に陥る青年の苦悩。手放しで復帰を喜ぶばかりの本土の人間の思わぬところでも、様々なドラマが生れていたということだ。
占領下日本でのGHQの報道統制問題が顕在化されるのが「綱島心中」。言論統制はは戦時中の日本だけの問題ではないし、おそらく似たような事例があったのを小説化したものと想像するが、こんな心中事件までも統制せざるを得ないほど、民衆の心から乖離した権力の醜いあがきだ。事件を追うジャーナリストよりも、ほんの少しずつ露出する米軍側の人間性の方が赤裸々に暴かれているようにも見える。
「スワッピング心中」「紀伊浜心中」の2作は、現代(昭和40年前後)の風俗模様を反映させた「奇妙な」心中事件。経済の発展と共にどんどん進行して行く、モラルの変化についていけない男たちの哀愁とでも言うべきか。個人の解放なのか、モラルの崩壊なのか、文明の頽廃というべきなのか。いずれにしろ、刻々変って行く時世のどの瞬間でも、この世界から離れることを選ぶまでに追い込まれた人々はいた。そのことは忘れがたい。