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紙の本
樹影譚 (文春文庫)
著者 丸谷 才一 (著)
【川端康成文学賞(第15回)】【「TRC MARC」の商品解説】自分でもわからぬ樹木の影への不思議な愛着。現実と幻想の交錯を描く、川端康成文学賞受賞作。これぞ、短篇小説の...
樹影譚 (文春文庫)
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商品説明
【川端康成文学賞(第15回)】【「TRC MARC」の商品解説】
自分でもわからぬ樹木の影への不思議な愛着。現実と幻想の交錯を描く、川端康成文学賞受賞作。これぞ、短篇小説の快楽! 「鈍感な青年」「樹影譚」「夢を買ひます」収録。(三浦雅士)【商品解説】
収録作品一覧
鈍感な青年 | 7-48 | |
---|---|---|
樹影譚 | 49-142 | |
夢を買ひます | 143-184 |
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紙の本
儚さの中にあるもの
2021/10/31 15:15
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
「樹影譚」建物に映る木の影が好きなのだという。それも大人になってそうと気づいた。いつから、なんのきっかけでそうなったか、思い当たる節がない。そういう作家が主人公なのだが、それは彼にとって人生の謎というものであり、その謎をテーマに小説を書く。その小説の主人公である作家は、故郷の血縁らしき老婆に、彼の作品中のエピソードから幼少時の嗜好をほのめかされる。メタフィクションどころか、メタメタフィクションだかわからなくなって来るが、自分の精神の奥底にある謎を、記憶の底から一枚、一枚と皮を剥ぎ取るようにして、核に近づいていくのは、直接手で触れると痛いので、架空の人物に託して探っているかのような感触だ。樹影という風景には、ほのかな懐かしさを感じる、誰にでもありそうでなさそうな絶妙な線を突いていて、自分も幼少期の記憶を追いたくなりそうな錯覚に誘われる。このアイデアを思いついただけで大勝利だと思うが、愛だの人生だのには関わりのないテーマでありながら、深掘りしていくと今まで意識していなかった自分の過去が露わになってきて、不安感が醸し出されてくるのは不思議だ。
「夢を買ひます」なんか自分が見た夢の話する人っていますよね的なところから始まって、整形したと嘘を言ったら、宗教学者の「パパ」がちょっと変な人で、とこれはなんでしょう。意識の流れってやつなのかな。ユーモラスでもあり、ちょっと哀愁ただよう、普通に聞いたら面白い話です。ホステスさんとお話しするとこういう感じなんでしょうか。あるいはモーパッサンの短編のような風情。語りが巧すぎて、誑かされたような感じもある。夢とか嘘とかの、現実でない話に振り回される浮遊感が楽しいかもしれない。
「鈍感な青年」若い恋人同士が、ちょっとだけ関係を進める時間。うまくいくことも、いかないこともいろいろあるけど、人生で一番いい瞬間。東京の下町の風景と重なって、いくども思い返されることになるだろう。鈍感とか皮肉を言われてもまったく腹も立たないのだ。
夢や幻、虚ろな記憶といったはかなく非現実的なものが、人の気持ちを大きく動かしてしまうこともあるが、確かな現実がささやかな幸せを紡ぐこともある。そんな対比が、こうして並べてみると垣間見える。泣いたとか感動したとか言わずに、ユーモアにくるんで表現されるところが、大人の読み物として出来上がっている。それってつまり中間小説の復権ってことなのかしら。
紙の本
樹影譚
2021/01/29 20:07
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:雄ヤギ - この投稿者のレビュー一覧を見る
丸谷才一の三本の短編小説が収録されている。中でも面白かったのが、表題作「樹影譚」。壁に映る樹の影を愛する小説家が、その「性癖」の由来や自身の出生にまつわる出来事について、郷里の旧家に招かれ、老人に知らされる。小説家は狂人の妄想と決め付けてこの話を信じないその様子や、何が本当のことで何が嘘なのか分からない様子が面白い。
紙の本
この短編小説には長編小説を読んでいるような面白さがある
2018/06/28 16:02
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
初出は昭和62年(1987年)の文芸誌「群像」4月号で、丸谷才一氏はこの作品で第15回川端康成文学賞を受賞している。
丸谷氏の作品の中だけでなく、現代文学の中でも評価の高い作品で、短編というより短めの中編ぐらい。
どうして、この作品の評価が高いのか。
おそらく極めて文学的な、つまり人工的に創られて、何ごとかを伝えようとしている意識が強い作品ではないでしょうか。
この作品は村上春樹氏の『若い読者のための短編小説案内』でも取り上げられていて、その中で村上氏は丸谷氏の文学について、「登場人物を設定し、そこに自らをはめ込んでいくことによって、小説を作り、自己のアイデンティティーを検証していこうとしているように見える」と書いています。
それはこの短編でも踏襲されていて、ここでは古屋逸平という明治生まれの作家、しかもこの作家は全20巻にもおよぶ全集まで出しているから大家である、を村上氏のいうところの「そこに自らをはめ込んで」いき、さらには古屋氏が書いたという作品をさらに重ね、その重層感は最近の作品ではなかなか味わえないのではないか。
そして、その重層感は長編小説の面白さでもあって、この作品が短編小説ながら評価が高いのは長編小説の面白さを内包しているせいではないだろうか。
そのいう点では村上春樹氏の文学に似ている、年代的には逆で、村上春樹文学は丸谷才一氏のそれに似ているといえる。
それにしても、この小説はうまい。
こういうのがやはり文学といえるのだろう。
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ひきこまれ惑わされる心地よさ
2009/10/05 00:54
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:k** - この投稿者のレビュー一覧を見る
読み始めてまもなく著者がとんでもなく才覚あふれる人物だということがわかります。
3つの短編が収められているのですが、いずれも物語の展開が面白いというよりは彼の文体が作り出す空気のようなものが心地よく、その空気に浸された物語は否応なく目が離せなくなるような、そんな感じ。
ポカポカ晴れた日にふと大学に行くのが面倒になって、適当な駅で途中下車してお散歩した日のことを思い出します。ありふれた景色なのに、現実から少し浮遊しているような感覚が本書に漂う空気に似ているからかもしれません。
特に表題作「樹影譚」は題名からして素敵すぎです。
入れ子細工のように小説の中にまた小説があり頭がいい感じにぐるぐるしてきて、樹の影にどうしようもなく惹きつけられる男の過去がめぐりくる様に幻惑させられました。
解説もすばらしいので、読み終えるとまた、最初から読み直したくなります。
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別に「上手い小説」が読みたいわけではなく「良い小説」が読みたいだけだ
2022/04/02 09:48
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:まなしお - この投稿者のレビュー一覧を見る
全く面白くありませんでした。何故んなものを書いたのか、意味不明です。「笹まくら」なんかはすごく良かったのですが。解説で三浦雅士が、上手い小説だと褒めているが、別に「上手い小説」が読みたいわけではなく「良い小説」が読みたいだけだ。