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収録作品一覧
勝負事 | 9-17 | |
---|---|---|
三浦右衛門の最後 | 18-32 | |
忠直卿行状記 | 33-86 |
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紙の本
菊池寛が紡ぐ物語の素朴な「成長」を愉快に愉しむ
2021/07/03 16:34
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投稿者:永遠のチャレンジャー - この投稿者のレビュー一覧を見る
書棚に“積ん読”状態のままだった本書を、ふとした切っ掛けで読んでみた。菊池寛の作品が『文豪の名句名言事典』に度々引用されるのを目にしたからだ。
本物を読んで驚いた。例えば大正八年の発表作「恩讐の彼方に」の文章に、全然古めかしさを感じなかったからだ。現代仮名遣の文字表記という編集のお蔭かも知れないが、漢字の振り仮名や難語の注記と相俟って意外に読み易かった。
前非を悔いて仏門に入った市九郎(出家僧了海)は、危険な絶壁の鎖渡しの難所に洞窟を開削して道を開くという困難な作業を独り始める。放埓な悪行三昧の利己を償う意味で、“利他行”の実践だ。
年齢を重ねて禅僧語録や公案集に興味を持ち始めたことも一助となった。「衆生済度」(しゅじょうさいど)、「帰依」(きえ)、「法名」(ほうみょう)、「行住坐臥」(ぎょうじゅうざが)、「回向」(えこう)、「誓願」(せいがん)、「沙門」(しゃもん)等々、違和感を感ぜずに読み進められる。
出版社の文藝春秋を起業し、芥川賞・直木賞という新たな後進才能の“登龍門”を創設した事業実績で知られる菊池寛の、作家としての確かな力量と視点を感じ取ることができた。
なかなか帰結点が見えぬ「ある抗議書」や「島原心中」、様々な仇討ちに纏わる「仇討三態」や時代と人間の機妙と結末に唸らされる「仇討禁止令」、伝奇的な「弁財天の使」「好色成道」「女強盗」など、実に趣向に富む。
なかでも「大力物語」は著者自身が伝承話の「誇張」を指摘して熄まないのだが、大風呂敷を広げながら人から人へと伝えられる、そんな物語の素朴な「成長」を愉快に愉しむのが正解なのだろう。
旧制一高同窓の芥川龍之介、久米正雄らの友人、脇役たる文学史の知識で終わるのは勿体ない。作家=菊池寛として再評価されるべき人物だと実感した。