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収録作品一覧
転換期の大正 | 7-218 | |
---|---|---|
日露戦争後における新しい世代の成長 | 219-258 | |
『吉野作造評論集』解説 | 259-306 |
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紙の本
昭和の悲劇の種は、すべて大正時代にあった
2005/12/29 16:58
11人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:塩津計 - この投稿者のレビュー一覧を見る
何の気なしに岩波書店で全集を買い、しばらく積ん読しておいたままだったが、いや素晴らしい本でした。大正時代といえば、あんとなく谷間の時代というか、大正デモクラシーの一言であとは何も印象的な事件が無かった時代という漠然とした印象しかなかったが、今回、岡義武先生のこの著作を読み、ある意味で昭和の悲劇の種は、すべて大正時代にまかれていたんだなあ、歴史は明治、大正、昭和で断絶しているのではなく、すべて連綿とつながっているんだなあということが実感できたという次第。まず内政面で言うと明治以来続いた藩閥政治・官僚政治を何とか打破し、政党政治を日本に根付かせようとした政治の天才・原敬は山縣有朋を懐柔しつつ徐々に権力への階梯を登りつめていくが、彼が政治勢力を結集し藩閥を打破するために用いた手法は、元祖田中角栄的なバラマキ政治だった。我田引水ならぬ我田引鉄と呼ばれた鉄道利権重視の彼の手法は、優れた効果を発揮したが「腐敗」という非難を浴びた。原敬自身は清廉潔白で、金銭をわたくしすることは無かったが部下は違った。このポイントを新聞は突き、政党政治をクソミソに書いた。政治家・政党を犬畜生以下であるかのように書いた。これが昭和に入って政党政治の全否定・大政翼賛会結成への導火線となる。山本夏彦さんは「果たして代議士は犬畜生か」というコラムを「茶の間の正義」の冒頭で書いているが、マスコミの過度の政治腐敗非難が政党政治・民主制自体の崩壊をもたらしたという話はなんとも皮肉ではある。次に大正では軍隊への嫌悪感が日本国中を覆った時代でもあった。とにかく軍人は役立たずで能無しで無駄飯食いと罵倒され、職業軍人は外出時は軍服を着替え平服で出歩いたという。粛軍が実施され、失業した高級軍人は民間へ転職するが、どこへいっても「軍人上がりは、これだから使い物にならないんだよ」と罵倒されすぐ解雇されたという。先輩軍人が流す悔し涙を見た後輩の軍人は、その恨みつらみを昭和になって晴らした。昭和の軍人が威張り散らしたのは故なきことではなかったのであって、ちゃんと理由があったのである。第三は外交で、第一次世界大戦という欧州を襲った大波乱がそれまでの世界秩序を根本から変えたわが国はその渦の中で翻弄され漂流を始める。欧州のアウトサイダーだった日本は無傷で生き残ったどころか第一次大戦で大儲けしのぼせ上がるが、その油断を米国に突かれる。かねてより日本の増長を危険視し警戒していた米国は、日本の増長の基礎は日英同盟にあるとしてあらゆる手段を尽くして日英同盟を破棄させようとし、これに成功する。それでも米国は飽き足らず日本に備え大軍拡を始めるが、これが日本の警戒心を煽り、これにカリフォルニアでの排日移民法案の成立などがあいまってだんだんだんだん「日米必戦論」が日米両国で高まっていく。最後が中国で、日本は第一次大戦の混乱の最中に敗北したドイツが中国に持っていた山東省の権益を奪取しようと露骨な帝国主義外交を展開するのだが、日本は19世紀的感覚で従来のゲームのルールにのっとり大国として当然の権利を行使したつもりだったが、大戦後世界のムードはがらりとかわり、帝国主義を否定する風潮が米国のみならず欧州でも台頭しつつあった。このあたりの感覚の変化に日本はついていけなかった。そこへ中国民衆の覚醒=中国におけるナショナリズムの台頭が重なって、日本はやがて中国にとっての不倶戴天の敵として位置づけられ、今につながる日中両国の間によこたわる大きな傷、深い溝がこのころに出来始める。学術論文ゆえ、やや読みにくい部分もあるが大正時代を活写して完膚無しの岡論文を一度あたなも読んでみてはいかがかと思う。