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  • カテゴリ:一般
  • 発行年月:1993.5
  • 出版社: 講談社
  • レーベル: 講談社文芸文庫
  • サイズ:16cm/317p
  • 利用対象:一般
  • ISBN:4-06-196224-8

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蜜のあわれ・われはうたえどもやぶれかぶれ (講談社文芸文庫)

著者 室生 犀星 (著)

蜜のあわれ・われはうたえどもやぶれかぶれ (講談社文芸文庫)

1,134(税込)

蜜のあわれ・われはうたえどもやぶれかぶれ

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評価内訳

紙の本

「老い」ということの意味と迫力

2010/03/29 10:56

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:analog純 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 上手なタイトルだなーと、思います。
 特に『われはうたえども……』のタイトルは、まさに迫力満点ですね。この迫力はいったいどこから来るのかというと、もちろん「老人文学」ゆえ、であります。

 「老人文学」という言い方が、確か、あるように思います。
 近年これだけ日本人の平均寿命が延びて、作家も長寿の方が沢山いらっしゃいますから、このジャンルの作品も少なくないですよね。

 私の読んだ小説で、本ジャンルにあたる作品はと考えてみますに、まず耕治人の『天井から降る哀しい音』。だいぶ前に読んだ本なので、内容はほぼ覚えていません。しかしかなり印象的だった記憶があります。

 次に古井由吉の『白髪の唄』。これは朦朧として内容がよくわからなかったところがいかにも「老人文学」っぽくて(?)、よかったですね。

 川上弘美の『センセイの鞄』なんかも一種の老人文学ですよねー。

 「老舗」で言えば、谷崎潤一郎の『鍵』とか『瘋癲老人日記』などもこのジャンルの草分けになるのかも知れません。
 ただこれらの小説は、老人の「性」をテーマに絞り込んでいますから、少し「特殊」な感じもします。

 とにかくそんな「老人文学」の白眉の一冊が、この作品集です。
 ここには4つの小説と1つの詩が入っています。少し異色な感じのする『老いたるえびのうた』という詩が筆者の絶筆だそうですが、この詩がまた絶品であります。

 そしてこの詩も「やぶれかぶれ」なんですが、4つの小説の「やぶれかぶれ」が、とても強烈な迫力を持っています。

   ---------------------

 咳が酷いのでその反射痛が左の背中にあらわれ、物をいうと咳きこんで言葉がきれぎれになった。まるで言葉がまとまらない、私は、ばばばといったりひぃひぃ言ったりするだけで、腰を折り手で畳をささえ、咳のおさまるのを永い間待ったが、その苦しい間に煙草の要求が烈しく起った。ひどい心配事のあるときに煙草がのみたくなる、あの心理なのだ。咳の小止みのあいだにただ一つの救いである煙草を一服やろうと、私は煙草に火をつけた。そんな物をうけつける筈がないのに、それをとおそうとするのだ。馬鹿の骨頂なのだ。間もなく煙にむせ返って咳は巻き返して、のた打ち廻った。(『われはうたえども…』)

   ---------------------

 この小説は、主人公の老作家が排尿のできない病になり、その治療の経緯を語るものですが、まさに全編「やぶれかぶれ」の迫力に満ちています。

 例えば円地文子に、『朱を奪うもの』という老女が自らの半生を語る小説がありますが、その冒頭には、片方の乳房を失い、子宮を取り除き、そして今度は歯をすべて抜き去った主人公の、鬼気迫る語り出しが描かれていました。

 一体に「老い」を語る小説には、どこか一種偽悪的・露悪的な迫力を持つものが多いと私は思います。

 それは言うまでもなく、人生のゴールがさほど遠くない視野の中に見え始め、なにより日々不如意になっていく、加速度的に老化していく肉体を見つめ続ける作家の、強靱な精神が紡ぎ出すものであるからです。
 それに私たちは、迫力を感じずにはいられないわけです。

 さてそんな老化をダイレクトに扱った小説も面白いですが、残りの3作は、直接老化を取り上げたのではなくて、自らの「嗜好」を描いた作品です。

 陶器、金魚など、どれも筆者自身の実際の嗜好を描いたものでしょうが、それが一般的な程度を越えて、まさに「淫する」ように、舐めるように愛する様が描かれます。
 これは、老人のエロスとも関係してくるのだと思いますが、ここにも迫力満点の「やぶれかぶれ」が読みとれます。

 しかしこういった、人生の終盤における「やぶれかぶれ」の生命の炎のようなものを眺めていますと、「老いる」という状況が、まさしく人間精神の一つのありようであり、そしてそこにはやはり、例えば「若さ」と全く同等な豊饒さがあるのだと、つくづく感じます。

 老いることもまた、人生の豊かさの一つの表現であります。

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