紙の本
【名作巡礼】人の気持ちを押し上げる何かの力——「魔法」が支配する庭園にふたたび訪れる読書。
2005/06/10 16:54
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ - この投稿者のレビュー一覧を見る
子ども時代に読んだ名作って「面白かった」「ピンとこなかった」の印象の差はあっても、いざ人と話をするときのためにおおまかなプロットが教養として頭に残っていればいいや……ぐらいのつもりでいる。名作のブックガイドをのぞいてもほとんどがそういう内容で、あらすじが押えられ、作家のプロフィールや執筆された時代背景が説明され、どのように読み継がれてきたかの情報が提供されて埋められている。
何で自分はあの本にそう深く感動したのかということが、ブックガイドに盛られた内容だけではどうにも思い出せない。それで思い切って再び作品に当たってみたりすると、これが意外な発見の連続。子どもながらに作者の深い思索の入口に辿り着いていたのかもしれないと知らされる。
『秘密の花園』は、両親を亡くして健康のすぐれない女の子メアリーが伯父の家に引き取られる。歓迎ムードのまるでないその屋敷で、彼女は閉ざされた庭園へ入る扉を発見し、幸運にもできた親しい友だちと一緒に、病弱な従兄弟コリンをそこへ誘い出して元気を取り戻していく。
読んだ本が抄訳だったからなのかもしれない。そういう流れで、みんながハッピーになっていく良い話だったよねという程度の記憶で改めてこの本を読み進めていくと、小説の実りの豊饒に驚かされる。初読であるならば、「よく知られた世界名作だから」の前提を元に書き出した上のあらすじは余計なお世話だろう。「『秘密の花園』って、ただの少女小説でなく、骨格のしっかりしたいろいろな味わいのある小説ですね」ということになるのではないか。まぁ、みんながハッピーになっていく過程で、いささか偶然のもたらす幸運が多いのではないかと辛口コメントの1つ2つは出てこようとも……。
大きな舞台の真ん中にぽつんと大道具が置かれたように、「扉」が象徴的に用いられる。秘密の花園の扉だ。花園の扉を強調するためなのだろう。父の赴任地だった遠いインドからヨークシャーのヒースの荒野の屋敷にたどりついたメアリーには、緊張の目の前に立ちはだかるはずの大きくどっしりした扉の存在は、案外さらりと書かれて流されている。それゆえ、隠れて見えなくなっていた花園の扉の発見は劇的であり、そしてまた、その劇的効果は終盤の父子の対面にも生かされている。閉ざされた扉が開くという出来事は、親の育児放棄の犠牲となったメアリーとコリンに希望の「芽」をもたらす。庭園の植物の生長は、その芽をも静かに育てていく。
ワーズワースの有名な詩「Daffodils」に触れたとき、英国の春はクロッカス、スノードロップス、ダフォディルズと進み、そしてヒヤシンス、チューリッからバラへと引き継がれていくことを教わったが、園芸の伝統国に生まれ、その趣味に親しんだ作者の作品らしく、植物や自然の描写は、色と香りの楽しみを与えてくれる。
その恵みは、21章の冒頭に控え目に提示された作者の思いに注ぎ込まれている。そこには、さりげない日常の瞬間、おごそかな自然の変化に触れ「自分はいつまでもいつまでも永久に生きて行くのだ」と人が感じる不思議についての美しい思索が表出している。
この思索は、自分が病気だと思い込んでベッドから長いあいだ起き上がらなかったコリンへと引き継がれ、人の心を押し上げる「魔法」の力として語られていく。作者が言うところの「魔法」の力は、本作品を読み継ぐ人たちがいる限り、次々に花咲くことをやめないのであろう。
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「西の善き魔女」でも「嵐が丘」でもいい。なんでこんなに荒野の描写は魅力的なんだろう?って思う。ハリエニシダってどんな植物か分からないけれど、もうすごく親密にその植物と付き合えそうな気がしてくるから不思議。母と自然との愛にくるまれた一冊。ぱらぱらページをめくって、そこに書いてある言葉をちょっと読んでみるだけでも穏やかな気持ちになる。たまにとっても読みたくなる小説のうちのひとつ。
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ひねくれた子供だったわたしは、天使のような主人公に周囲が感化される話よりも、つむじまがりでも徐々に成長できるという、この物語が好きでした。
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『秘密の花園』
河合隼雄の解説が秀逸。是非ご一読。『子どもの宇宙』
子どもの成長にとっての秘密の大事さ。
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バーネットは大好きだ。秘密の花園という設定がものすごく好きで想像をめぐらせる。天国みたいな場所だと思う。亡くなった妻に囚われているお父さんが大好き。
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10/20開始。10/20読了。子供の頃に読んでいた本に帰りたくなる時の本。小公女と小公子もおさえてあります。全てが良い方向に良い方向に進んでゆく様はストレスがなくていい。
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よく、例えでこのタイトルが挙がったりしますが、
きちんと作品を読んだことがある人ってどのくらいいるのでしょうかね。
私はこの、最後には何もかも幸せになる、という話が嫌いではないです。
それに秘密を持つというわくわくした気分を味わうために、
たまに読みたくなります。映画も好きです。
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大好きな小説で、何度も読み返している本です。
岩波少年文庫の方は、訳がとても上品なので、ヨークシャー弁の感じとしては、こっちの方が好き★
なのですが、一箇所気になるのが、コリンが自分の父親のことを「おやじ」と最初から呼ぶところ。
いいところのお坊ちゃんで、絵本の世界しかしらない子供が、自分の親のことを「おやじ」とは言わないでしょう〜??
途中、ヨークシャー弁を話し出してからなるならわかるけど・・・
それ以外は、とっても楽しくって、花園を見つけるところとか、花園での秘密の行動とか、もう、真似したかったです!!
あと、春が来たところ!!!!
何度読んでも、わくわくしちゃいます。
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この手の小説の中で珍しく主人公がいわゆる「いい子」じゃありませんw
そういう意味では本当の成長物というか?
わがままお坊ちゃんとわがままお嬢の意地の張り合いは見もの♪
だからこそこの先の2人も見てみたかったなぁ・・・・・・。
あ、ディッコンも好きですよw
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小さい頃大好きだったこの本を大人になって読んでみるとどうかなと。
大人になると昔の風習などお話以外のところも面白い。
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小公子は気難し屋の貴族の祖父と純粋で優しく、頭の良い少年が繰り広げる心温まる物語。
小公子は穢れ無き、気高き、心の優しい美少女が苦難を乗り越えて幸せになる物語。
いずれも主人公が優しく・賢く・勇敢でした。
でも秘密の花園の主人公は違います。わがままでヒステリックでやせっぽちで貧弱な少女が主人公として魅力あふれる友人ディコンたちと一緒に自らも成長し、まわりをも幸せにしていく物語です。
けれど、どれもこれも魅力にあふれていて、最後には涙と笑顔があふれます。
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荒地の雑草を抜き、土を耕し、種を蒔き、水をやり、やがてきれいな花園になる。
こどもたちの心の荒れた畑も、動物ややさしい人たちの愛情などから徐々に、少しづつ成長し、豊かになっていく。
読みすすめるうちに、こちらもとても晴れ晴れとした気持ちになっていく作品。
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自然が好き!花が好き!
生きるって、こういうこと!!
そんな大切なことを教えてくれる本。
しかし、話筋はわりとぼんやりしている。
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NHKで「ひみつの花園」が放送されていたのは私が小学生の頃だった。アニメに関しては父が紹介してくれて一緒に見るのが決まりだった。もっと小さい頃は、絵本で色々な世界へ探検したものだが、幼児期から児童期へ移り変わるうちに私は本離れをしていったように思う。その代わりアニメで色々な世界を旅したことを覚えている。世界名作劇場も懐かしいし、BSやNHKで見た物語は今でも覚えている。その中でも自分と等身大の少女が出てきて、何か大人は相容れない世界を持っているお話は大好きだった。不思議の国へ行くことが出来るものは一番好きだったが、こういった現実世界ではあるけれど、秘密の世界を持っている物語には強く憧れた。物語として「秘密の花園」を読むのは初めてなのだが、その切欠は河合隼雄氏の著書「子どもの宇宙」だった。その中で紹介されていたことから懐かしく思い、ちょうど新潮文庫で「おとなの時間フェア」というものが行われていて手にすることが出来た。頁数にすると思っていたよりも長いのだが、あっという間の素敵な時間だった。こちらまでも秘密を共有し、その時の胸の高鳴りや変化していく私、そして主人公メアリーが感じ取る初めての春の香りや日光の暖かさ、自然の息吹を感じとることが出来る。小さい頃、「春なんだ」と感じた地元での僅かな時間を思い出す。まるで自分だけが発見したかのように嬉しく、誰かに知らせたいのに教えたくない。あの気持ちを久しぶりに思い出すことが出来た。「秘密の花園」を読んでいて一番思ったのは私も花を植えたい、つまりは土にさわりたい、あの暖かくて何か包み込む大地に再び手を置きたいということだろうか。小学生までは私も一生懸命土いじりをしたものだ。休みの日になれば父が庭に出て何かしら花や木を整えていたのを思い出す。季節はすぐそこにあり、私は一歩外へ出ることで感じることが出来た。空気の香り、風の暖かさ、土の匂い、自分の身近には自然があり、私は体いっぱいで自分が生きていることを感じることが出来た。あの何ともいえない心地よさをしみじみと思い出すことの出来た一冊。今私の近くにはないけれど、本を開けばそこは一面に広がる秘密の花園。なんて甘美な響きなんだろう。
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去年「光文社」の『秘密の花園』を読んでどうしても違和感があったので(子どものころ読んだ物と余りにも違う印象だったので)どうしても気になって訳が違うものを。。。と今回新潮文庫をよんでみました。しっくりきた。これこそ秘密の花園だと感じられた。