紙の本
知りませんでした、こんなに面白いシリーズがあったとは。これだから児童書というのは馬鹿にできません。ついでに日本史のおさらい・・・
2007/03/24 17:54
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
1996年に初版が出版されたもので、私の手元にある本には2006年9月9刷とあります。で、この本ですが、デザイン的には古いっていう感を拭えません。ま、偕成社の社風みたいなところもあるんでしょう、外見はある意味、野暮といってもいいくらいです。なんていうか戦前からあるんじゃないか、って言いたくなるようなありふれたものなんです。しかもそこに描かれる武将の姿。で、タイトルが『源平の風』ですよ、源平。
前にも書いたと思うんですが、義経が嫌いです。ついでに書いちゃえば、聖徳太子が嫌いで、勿論、秀吉も嫌い、明治天皇や帝国軍人は反吐が出るくらい厭。でも『白狐魔記』っていうのが、何だか気になるし・・・とまあ、半信半疑で読み始めたんです。
ちなみに、装釘・挿絵は高畠 純だそうです。装釘です、装幀でも装丁でもない「釘」の一字の威力。ちなみに本の後に、このシリーズ全体の案内が出ていますので、写しておきましょう。
「人間の生きざまに興味を示した一匹のキツネが、仙人のもとで修行、数かずの術と共に不老不死と人間に化ける術も習得。白狐魔丸という仙人ギツネとして生まれかわる。このキツネが、日本史上の大きな事件や英雄たちと遭遇し、人間がなぜ人間同士殺しあうのかという疑問の答えを探し、時を旅する大河タイムファンタジー。」
だそうです。白狐魔丸は「しろこままる」と読み、作品中に出てくる白駒山(しろこまさん)に因んだもので、小説のなかでは12章の「名」というところに経緯が書かれています。
時代は、源平時代、義経のひよどり越え、あるいは都落ちが出てきますので1184〜1189年でしょうか。で、タイトルからガチガチに源平の話、特に義経のことが書かれているのかと思っていたのですが、これが全く違います。むしろ、主人公とすれ違う、そういった形でしか触れられることがありません。予想以上に少ないその場面が実に効果的です。
前後しますが、内容に入りましょう。
主人公のキツネは、歳は不明ですがまだ若く、親からひとりだちしたばかり、同じときに生まれた一匹の兄弟のことを思いながら、あての無い旅をしています。人間のことばも、話すことこそできませんが、聞けばその大体の意味は理解できるようになっています。そして、或る時、僧侶が子どもたちと、人間を化かすことのできるきつねについて話しているのを聞いてしまいます。
「白駒山に住む仙人のもとで、きつねは修行するのじゃ。それはそれはつらい修行じゃ。死ぬぎりぎりまで物を食べなかったり、冬に滝にうたれたり、気をうしなうまで、木からさかさづりになったりして、長いあいだ修行をつみ、やっと神通力がつくのじゃ」
化けることができるキツネとはどういうものか、白駒山とはどういったところなのか、仙人とはどのような人間なのか、興味を抱いた主人公は、自分の名前の由来となる白駒山に向かうのです。そう、これはまさに正統的ビルドゥングス・ロマンです。しかも、歴史を前面に出さず、飄々とした仙人との会話を通じて、生きていること、その対極にある死というものについて、それを生み出す人間関係というものを問い掛ける素晴らしい話です。
正直、舌を巻いた、といっていいでしょう。嫌いだった義経が、なんとも好ましい人間に見えてくるのです。この天邪鬼である私が、コロッと参ってしまう。日本のファンタジー史上ベストの一冊ではないか、私はそう思い、ファンタジー好きの高一次女に「斉藤洋って知ってる?『ルドルフとイッパイアッテナ』っていう作品を書いている人らしいんだけど」と聞いてみました。
「えーっ、私、大好きだったんだ、イッパイアッテナっていうのはね」と話はいつまでも続きます。知らなかったのは私だけ。でも、こういった驚きは嬉しいです。私が知らない傑作がまだまだ沢山ある、そう思うだけで人生が明るくなってきます。
紙の本
歴史の傍観人としての狐の目線。
2006/12/31 21:16
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Yumikoit - この投稿者のレビュー一覧を見る
人間臭いことを考えるきつねである。
ニンゲンの言葉を聞き、ニンゲンの社会に興味を持つ。
そして、「きつねというものは修行すると化けられるものらしい」ということを知り、仙人の元へ尋ねていく。
孫悟空とは違って、生真面目で、良識?あふれるきつねだ。
人間に化けられるようになった狐が、興味を持ったのは、義経だった。
歴史の傍観人としてのきつね。
けっこう好きだなぁ。
紙の本
『白狐魔記 源平の風』
2017/02/06 19:14
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投稿者:百書繚乱 - この投稿者のレビュー一覧を見る
白駒山の仙人に出会い化身の術をさずかったきつねの白狐魔丸
ふるさとに帰る途上で出会ったのは
兄頼朝に追われ山中を逃げる源義経の一行八人だった
義経の窮地にかつてのの恩義から白狐魔丸はある決断をする
人間に興味をもったきつねの目を通して描く斉藤洋の歴史奇譚
1996年初版、既刊6冊の長寿シリーズ第1作
紙の本
半人前きつねの冒険
2002/06/27 00:52
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投稿者:さくらまち - この投稿者のレビュー一覧を見る
母きつねのもとを旅立ったばかりのきつねが、人間に化ける術を身につけ、兄頼朝に追われ落ちのびてゆく源義経と出会う…
義経と兄頼朝の争いは、縄張り争いでしかないと言いきってみたり、戦いをうまく避けるのが大将のつとめだと考えたり、歴史上のお客様としての視点のきつねの率直過ぎるほどの言葉の数々はまさに目からうろこ。失ってしまった何かを取り戻せるかも。
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さほど期待しないで読み始めたんだけど、これがなかなか面白い!(笑) 人間という動物がどんな生き物なのかを狐目線で語ってくれちゃうというあたりが、なかなかいいなぁと思うんですよね。
「狐が人を化かす」とか「霊験あらたかな白狐」といった日本人が古来から大切にしてきた伝承をベースにしつつ、そこに源平合戦の「鵯越え」のシーンを挿入(しかもそれをあからさまには書いていない)してみたり、「義経千本桜」という歌舞伎演目に登場する「狐忠信」をいやでも思い出しちゃう「キツネと佐藤忠信の友情(?)物語」が描かれたりと遊び心も満載です。
この第1巻では巣立ち(独り立ち)を始めたばかりのフツーのキツネがどんな風に「人に化身できるようなフツーではないキツネ」になったのかにもかなりページを割いていて、その過程で人間の言葉を解するようになったり、人間に「狩られるもの」として追われたりと様々な経験をするんだけど、その一つ一つの経験の中でキツネが考えたり感じたりすることが実に「それらしくて」いいんですよね~。
かなり面白いのがキツネが白駒山でとある仙人と出会い修行に励む(?)日々の描写の部分です。 「人間を理解するために人間に化けられる狐になりたい!」という一途な思いでやる気満々のキツネをこの仙人が茶化したり冷やかしたりするんですよ。 でも決してキツネをバカにしているわけではなくて、そこにはキツネの想いを真正面から受け止めている懐の深さがあります。 人里で聞いたお坊さんの説教から「人間に化けられる狐になるためには人智を超えたような修行が必要」と思い込んでいる狐に対し、この仙人は
「ぼうずのようなきつねだな、お前は。 こんなところにくるより、寺にでも行った方がよかったのではないか? とは言え、この頃では、したい放題、やりたい放題の坊主が多い。 お前のような真面目な狐に来られては、坊主も迷惑するだろう。」
などとのたまい、「修行第一とそれを誇るようなヤツは厳しい修行を経たという自己満足に浸っているにすぎない」とバッサリ・・・・。 ことあるごとに「修行」というキツネを仙人は「坊主のようなヤツだ」と笑うんだけど、ちゃんとキツネの望みどおり、化身できるように導いてゆき、最後は「白狐魔丸」という立派な(?)名前まで授けてくれます。
この第1巻では修行の末にようやく自力で人に化けられるようになった狐だけど、最後のクライマックス・シーンまで、どうしても尻尾だけは消すこと(空にすること)ができずにいます。 その話が何気に説得力があると思うんですよね。
「狐の前足が人間の手に、後ろ足が足に、胴体が人間の胴体に、毛は着物に、そして頭と顔が人間の頭と顔に、それぞれ化身させることは、うまくできるものなのだ。 だが、尾はどうだ。 尾は何に変わるのだ?」
そしてこの問いの後、仙人が語ることは日本の宗教観の中ではか☆な☆り重要な「空」とか「無」という言葉で、「それがわかるには、お前(狐)はまだ若すぎる。」と言うんだけど、これってキツネに語っているのと同時に読者である子供たちに���語っていると思えちゃうわけです。 で、禅問答みたいな「空」や「無」の講釈の後、又仙人は言うんですよ。
「ほら、おまえの好きな言葉があったろう。 修行と言う言葉。 お前は修行が好きなのだから、尾が『空』に変わるように修行してみたらどうだ。」
などと仰います。 この緩急の付け方が実に素晴らしいなぁと感じました。
ふとしたきっかけで義経の都落ち一行と出会った白狐魔丸は多くの疑問を感じます。
平家を滅ぼしたと言われる大将でも平家を皆殺しにしたわけではなさそうだ。 人間の、それも武士と呼ばれる人々がする戦とはいったい何なんだろう??
兄弟に追われるとはどういうことなんだろう?? そんな人間の兄弟と言うものはどういうものなんだろう??
人殺しを平気でやった武士が、落ちのびる過程で騎馬を放ち、「長生きしろ」などと言うのは、どうしてだろう??
忠信の兄は屋島の合戦で義経の身代わりになって死んだという。 主人の身代わりになって死ぬのが、どうして幸せなんだろう??
思い起こせば、子供時代に KiKi は白狐魔丸と同じような疑問を感じたことがありました。 そして、未だにこれらの疑問に上手く答えられる自信はないんだけど、そうであるだけに知らず知らずのうちに白狐魔丸の気持ちを我が物としていることに気が付かされました。
忠信の首を賞金稼ぎの山伏どもから守り抜こうとする白狐魔丸の想いは「人間とは摩訶不思議な生き物よ」と考えていたキツネのものではなく、人間、それも武士っぽくなってきているように感じられます。 そして忠信の遺志を受け継ぎ、義経に偽装して賞金稼ぎどもを翻弄しているうちに、白狐魔丸は「尾を空に化身させること」ができるようになります。
まだまだ「霊験あらたかな白ぎつね」白狐魔丸としての人生(狐生?)は始まったばかりです。 彼がどんな風に「人間とは○○な生き物だ」という結論にたどり着くのか、興味は尽きません。 これは次作も楽しみな1冊だと感じました。 そのためにも今回、間違えて借りてきちゃった第3巻「洛中の火」に行く前に第2巻「蒙古の波」を読んでみたいものです。
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白狐魔が本当に可愛い!そして、同時に一緒になって、切なかったり。「蒙古の波」「洛中の火」と現在(2006)三部目までは出ていますが、続きが気になるところ。(仙人さんがエr…げふん、よね、という評判もちらちら見かけたり見かけなかったり、私もそう思ったり/笑)
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キツネが仙人のもとで修行を、人間に化ける術を取得し、人間とは何かと答えを求めるファンタジー。
キツネは一度義経に命を助けられ、そして後に頼朝から追われている義経に巡り合い、キツネは義経とは
一体どういう男かと興味を持ちます。
そしてなぜ人間は殺しあうのか・・と疑問を感じます。
キツネを主人公に、キツネの視点からの義経達、人間の争いは読んでいて新鮮でした。挿絵もあり嬉しい。
一番印象的だったのは忠信の最期です。キツネと忠信は一番仲良しなのです。
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人間の生き方に興味を持った狐。
彼は仙人の弟子となって日々修行に励み、数々の術とともに化け術を会得する。
不老不死の仙人狐「白狐魔丸」がここに誕生した。
この「源平の風」では源義経主従の奥州への逃亡につき従い、義経の身代わりとなって死んだ佐藤忠信の最期に立ち会う。
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めっちゃおもしろかったーーー!!きつねが人間の考えてることに興味を持ってるのもおもしろいし、その後出会う仙人も楽しいひとだし、ファンタジーなんだけど本当にあるかもしれないって思わせてくれるのがすごいなあと思いました。1巻は半分くらいが人間の姿になれるまでだったのでもっと義経のはなしを読んでいたいなっていう気持ちになりました!でも義経のところをしっかり史実にそってやってくれて、読んでてすごい楽しかったー!続きも読みたい!
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<白狐魔記1巻>
普通の狐が仙人に出会って、化け方を教えてもらって人間と関わっていくシリーズ。
出会う人間というのが歴史人物が多くて、小学生が読んだらいい歴史の勉強になると思います。
1冊目は源義経と弁慶と佐藤忠信が出てきて、狐は「なぜ人間同士が戦うのだろう」「武士ってなんだろう」ということに疑問を持っていきます。
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義経を扱った物語は星の数ほどもあるが、これはその中から拾ってきて読むに値すると思う。児童書侮り難し。
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斉藤さんの本は、読みやすい。メッセージが理解しやすいですね。
私も全巻読みました。
主人公は、狐。
白駒山の仙人の弟子となり、修行ののち、人間に化けることができるようになります。
仙人から白狐魔丸という名前をもらいます。
そして、戦国の世のなかで、戦い続ける人々と知り合い、人間とは・・ということを知ろうとしていきます。
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白狐魔記シリーズ第一巻。
【同族同士で殺しあう人間たちに興味を持った狐、白狐魔丸の物語。
時は鎌倉時代、仙人のもとで術を習った白狐魔丸は、人を探るうちにある武士と親しくなる。その武士は源義経の家臣、佐藤忠信。義経一行は頼朝の放った追手から逃げる途中であった…
人間はなぜ争うのか。人間のエゴをさらりと問いかけるファンタジイ。】
児童書なのに、何てテーマが重いんだ…。読み終わって、そう思いました。人間の争いを狐の視点で描いていて、おもしろいです。歴史も少し学べます。大人の方にもお勧めですよ♪
白狐魔記、大好きです!!しかしこのシリーズ、続きが出るのが悲しいほど遅い!!最低2年は待たせます……
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白駒山の仙人の弟子となり、修行ののち、人間に化けることができるようになったきつね、白狐魔丸の人間探求の物語。第一巻にあたる本書では、世にいう「源平の戦い」にまきこまれたきつねが、兄頼朝に追われ落ちゆく源義経一行に同行、武士の無情を目のあたりにする。
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狐が、修行をして、いろんなものに化けられるようになる。そして、歴史上の人物に関わっていきます。人間の愚かさとか忠誠心とか、狐が出会う感情に寄り添いながら、進んでいくのが面白かったです。