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- カテゴリ:一般
- 発行年月:1996.9
- 出版社: 新評論
- サイズ:20cm/302p
- 利用対象:一般
- ISBN:4-7948-0316-8
- 国内送料無料
紙の本
若者はなぜ大人になれないのか 家族・国家・シティズンシップ
著者 G・ジョーンズ (著),C・ウォーレス (著),徳本 登 (訳)
個人と国家の双方の対等な契約関係で生まれる市民社会精神を若者はどの様に獲得して行くのか。シティズンシップの提唱と青年の自立・権利・義務・責任を英国の若者の実態と照らし合わ...
若者はなぜ大人になれないのか 家族・国家・シティズンシップ
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商品説明
個人と国家の双方の対等な契約関係で生まれる市民社会精神を若者はどの様に獲得して行くのか。シティズンシップの提唱と青年の自立・権利・義務・責任を英国の若者の実態と照らし合わせながら解明。【「TRC MARC」の商品解説】
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紙の本
大人になることの困難をみつめよう
2001/01/06 23:42
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投稿者:野村一夫 - この投稿者のレビュー一覧を見る
今年も成人式がやってきた。たまたま20歳になった男女が集められて、税金でなにやらサービスを受ける日になっているが、むしろ今の世の中で「大人である」とはどういうことなのか、じっくり自称大人たち自身が考える日にしたいものだ。
さて、本書はイギリスの青年社会学の研究書。じつは近年大いに読書界をにぎわせた「パラサイト・シングル」論の知的源泉のひとつとなった本でもある。ちなみに『パラサイト・シングルの時代』(ちくま新書)の山田昌弘氏は、訳者の宮本みち子氏らとの『未婚化社会の親子関係』(有斐閣)という共同研究でヤングアダルトの生態を追っていた。「パラサイト・シングル」はその中で「発見」されたものだ。
『若者はなぜ大人になれないのか』によると「大人である」とは「自立したシティズンシップをもった状態」である。シティズンシップとは、言ってみれば「社会への完全な参加」のことだ。さまざまな権利と義務を果たす市民であること。雇用され、税金を払い、それなりの政治的権利と社会保障の対象となることを意味する。
日本では「成熟」という心理学的基準で「大人であること」を測ろうとし、一昔前の「アダルト・チルドレン」の流行に見られるように、内面的な負の記憶が「大人であること」を阻害するかのような語りが一般的だけれども、本書の著者たちはそんな主観的でナイーブな言説には一顧だにしない。
若者が大人になれるかどうかは、雇用・教育・社会保障といった公共領域、家族という私的領域との関係に大きく左右される。イギリスでは、雇用状況の悪化によって経済的自立が果たせず、教育課程の長期化によってますます宙ぶらりん状態がつづき、しかも離家してしまえば数々の保障が得られない社会保障制度になっている。若者に自己決定権があるようでいて、じつはアクセスの可能性が狭くなっているのだ。そのため大人への移行期間が長期化し、その分、家族への依存も長期化している。だから「大人になること」が困難になっているというのである。
要するに、ある程度恵まれていなければ大人になれない。これが著者たちの言い分である。その点で、女性や高齢者や障害者やマイノリティも、この点では若者と同様ではないかと示唆する。
この見方を日本に応用できるだろうか。日本では心理学的な「成熟」の基準で見るから「豊かであるがゆえに自立できない」とされてきたが、シティズンシップを基準とする本書の主張は完全にその逆になる。おそらく五年前であれば「それはイギリスだから言えるのさ」で済んだかもしれない。しかし、少子化が進んでほぼだれでも進学できる大学全入時代、ところがその出口では丸抱え的正規雇用がもはや高嶺の花になってしまっている現在、本書の分析は妙にリアルに思えてくるのである。大人になるのが困難な日本社会を若者たちは生かされているのかもしれない。ナイーブな若者たちの心象風景はその結果にすぎないと考えた方がよさそうだ。
では、この困難をどうすれば切り開くことができるのか。そんなことを考えるヒントとして、橋爪大三郎『幸福のつくりかた』(ポット出版)を最後に付け加えておきたい。あれこれ読書してこの社会について思いめぐらせるのも、ひとつの大人のつとめである。