紙の本
「空海の風景」の背景
2007/03/03 22:27
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:GAWA - この投稿者のレビュー一覧を見る
永井路子氏の「北条政子」と「炎環」を続けて読んだ。非常に面白かったので永井氏のほかの作品も読んでみたくなった。次は何を読もうかと本屋をぶらぶらしていたとき、たまたま本書が目に付いた。背表紙のあらすじを見ると、平安遷都から薬子の乱の頃の話の様である。
この時期の話であれば自分にとっては司馬遼太郎氏の「空海の風景」(以下「風景」と呼ぶ)でなじみがあるので読んでみることにした。
本書の主人公は藤原氏北家の冬嗣である。
(藤原氏北家といえば「風景」(下巻25章)に南円堂のエピソードが紹介されている。)
上巻では主人公の冬嗣は終盤のほうになってようやく官位(しかも従七位下という末端に近い位)に就くぐらいでさしたる活躍はしない(長岡遷都の時で10歳だから当たり前な話ではあるが)。もっぱら一つ年上で早熟な兄の真夏から政治情勢の講釈を聞くなかで、自分なりの目を養っていく様子が描かれている。
空海が大学を中退して山野で修行に励んでいるころ、宮廷内では「なくよ(794)ウグイス平安京」などとのんきなことをいっていられない、骨肉相食む権力闘争が皇位の継承をめぐって行われていたことが強く印象に残った。また、空海と同じ遣唐使船に乗り漂着地で代筆を頼むことになる大使の藤原葛野麻呂が意外なところに出てきて、「風景」では語られなかった面を披露したりする。上巻は「遣唐使船が出る」という話題が出たところで終わり、「風景」読者としても大いに楽しめる内容であった。
紙の本
藤原冬嗣
2020/06/12 20:08
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投稿者:earosmith - この投稿者のレビュー一覧を見る
永井路子さんの「この世をば」、「望みしは何ぞ」が大好きで、前の時代にあたるこちらも読んでみました。藤原冬嗣に真夏という兄がいたとは全く知りませんでした。相変わらず、家族間の権力争いが凄いです。
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奈良から平安へ、その過渡期を生きた、北家・藤原冬嗣の、政争、兄弟の葛藤、そんな感じの物語。当に藤原北家の興隆の事始めが描かれています。
永井路子の平安朝三部作一つ。
道長を主役とした「この世をば」、次世代の「望みしは何ぞ」に続く。
冬嗣の異父弟・皇子でもある良峯安世の柔らかく優しいキャラクターが、妙に心に残るのです。
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主人公の藤原冬嗣の目線で描かれる桓武・平城・嵯峨の時代。冬嗣は目線が冷めてて野心があるんだかないんだかで曖昧な人間性。いまいち感情移入はできなかった。しかし桓武と安殿の衝突など皇族のどろどろは人間味に溢れてる。期待した種継暗殺事件〜早良の死まではあっさりすぎて残念。やや覇気に欠けながらも明るい嵯峨天皇と異母弟の安世辺りがほのぼのさせて好きです。
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桓武天皇と不比等の子が立てた藤原家(北家,式家,南家,京家)を中心に話は進む。
桓武は天智系であり,これまで天武系できた天皇家に対し競争心がむき出しになり,自我を通そうとすることが多かったような天皇である。
桓武の皇太子の安殿(あて。後の平城)に仕えた北家系の真夏と,安殿の次に皇太子となる賀美能(かみの。後の嵯峨)に仕えた真夏の弟の冬嗣の,兄弟と言えども仕える主人が違うことによる戦い(血みどろの戦いまでにはならないが,政争の戦い。)が繰り広げられる。
最終的には,嵯峨が天皇位につき,冬嗣が宰相のような立場で切盛りしていくが,嵯峨はいわゆる,象徴天皇の始まりと言うような感じの人で,それが故に,それから後数百年は,天皇位を血で血を争うような戦が無くなったという。毒にも薬にもならず,ただ,和歌などの文化面にのみ嗜好を走らせた嵯峨であったが,これはこれで,冬嗣が民衆のことを思いやった実際の政治をとるならばそれで問題なく世の中が収まるというようなもの。
著者の本は初めて読んだが,スピード感と言うか,動乱の描写が少し大人し過ぎるように感じた。
全2巻
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2023/6/16再読
ずいぶん読みやすいと思っていたら4年前に読んでいた
藤原冬嗣をもう一回しらべてみようっと(´・ω・`)
2019/6/21歴史小説家としてはダントツの永井路子先生ですが、最近読み漁っている杉本苑子先生の小説のほうがすごみがあり、事実を巧みにちりばめて物語を組み立てる感があります
檀林皇后すごかった!
さて、冬嗣があっさり、だけども現実はこんな風に動くよなと納得のいく展開で物語は進みます
真夏と冬嗣の男兄弟らしい背伸びによる関係が秀逸の作品
読後感は良いです
良岑安世の位置づけが憎い!
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長岡京への遷都、蝦夷出兵と大胆な政治を押し進める帝王桓武。しかし、蝦夷攻略は失敗、相次ぐ妃の死、大水害に見舞われ、かつて自らが宮廷から追放した早良親王らの怨霊に惑わされ、再び遷都を決意した。亡き母親への憧憬拭いがたい安殿は、後宮入りした娘の母・藤原薬子の身体にのめり込み、その関係を咎める桓武帝と相剋を深める。平安遷都七九四年、官等をめざして縺れあう藤原真夏、冬嗣兄弟の愛憎、皇太子・安殿との骨肉の相剋に命をすりへらしていく帝王桓武を描く、長編歴史大河小説の大作
2003年10月9日読了
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上巻
桓武天皇、そして平城、嵯峨へと続く平安初期の話
主人公は藤原冬嗣か?
藤原兄弟そして天皇の親子と兄弟、そして皇室から外される皇子等久しぶりの平安初期の話
憶えていない点もあるが、思い出しつつのんびりと
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永井路子って、エッセイはあんなに楽しいのに、小説は……。
藤原北家の礎を築いた冬嗣を主人公にした本は珍しいので、
その意味では読む価値があった。けど、エッセイにしてほしかった。
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まったく本編の内容に関係ないけれど、武智麻呂の名前にいちいち反応してしまう。むちまろって。関係図は凄くありがたいのにね。関係図がないと継縄と種継がごっちゃになる。
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愛憎、相剋、無慈悲、ついでに冷酷。でも阿弖流為物語のスピンオフ的視点で見ると憐れ。遷都で失敗と成功の両方を体現した天皇の物語は不思議な時代感を漂わせる。でもよく見ると冬嗣の成長記なんだよな。
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平安初期の貴族たちのドロドロ人間関係を描く。藤原薬子のことを詳しく知りたいならぜひ。昔の人はもうスケベすぎ!
桓武天皇は最澄や空海の本を読んだ時に出てきて興味があったのだが、ここまでドロドロの時代を生きた男だったんだな。甘く見ていた。
この頃人間の下半身の事情がひどすぎて、「人間」という獣って感じがしてよい。殿上人が笑わせる。
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p36 辛酉の年
桓武天皇が即位した年は、中国の暦で言う辛酉の年だった。この年は革命を司る年とされていて、勢い勇んで天皇に即位したのに、桓武の時代はぼろぼろだった。
p57 早良親王の死は…
早良親王は桓武によって島流しにあった。その背景には、桓武の子息である安殿親王が次期天皇に付けるようにする世襲問題があった。
藤原冬嗣の母:永継(ヨウキョウ)と桓武天皇のただならぬ関係の子:安世も私生児ながら皇位継承権を持っている。歳の離れた弟も早良親王と同じような立ち位置に立つとわかった冬嗣は、生まれながら死ぬ運命を背負った弟を可愛いと思いながら複雑な思いだった。
p107 薬子は母のよう
藤原薬子と安殿親王がただならぬ関係になったのを、永井路子は、安殿の性癖の異常性として描いている。
安殿の母:藤原乙牟漏は早良親王の祟りで病没したとされている。早くに母を失った安殿は、母の愛に異常な性癖を持った。という設定である。そこで、年上の包容力のある藤原薬子に溺れてしまった。
p133 孤悲
万葉人は、「恋」を「孤悲」と書いた。シャレ乙。
離れている者同士が、それに耐えられず身悶えするという、激しい意味を込めている。安殿の薬子を求める気持ちも、恋よりも孤悲である。
p221 桓武という男
冬嗣の兄:真夏の桓武評、冷酷な帝王・権力欲の権化・人間性への無理解。
桓武は色々と政策に積極的だった、だから冷徹にならなければいけないところもあったのだろうが、、、そういう人物だったのだろうな。
p225 怨霊の使い方
早良親王の祟りを実質認めてしまった桓武天皇。これがいけなかった。これ以降怨霊というものが悪用されるようになった。
荘園の年貢の横領のために、「今年は天候不順で…。祟りのせいでしょうか…。」という言い訳が起つようになったし、陰陽五行の胡散臭い霊媒師が金儲けをできるようになってしまった。それに仏教の坊主も儲けられるようになった。
日本は長く怨霊信仰から抜けられなかったというが、それは誰かが無くさないようにしていたということである。ここになぜ怨霊信仰が無くならなかったのかの片鱗が見えた気がする。
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これはマニアックな歴史小説。一般人受けはしない本でした。
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桓武天皇の時代、藤原冬嗣(北家)が主人公。
兄・藤原真夏や、皇太子・安殿、冬嗣の異母弟・良峯安世が
物語の主軸に登場する。
上巻は、桓武天皇の即位、長岡京、平安京への遷都、
蝦夷地の攻略、水害の発生などを背景にしつつ、
桓武天皇とその皇太子・安殿の相剋が描かれる。
桓武天皇と最澄との親交が少し描かれていたが、
こちらも下巻でなにか発展するのだろうか。
下巻ではどのような展開になるのか楽しみ。
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この本は藤原不比等の子孫である藤原冬嗣を主人公にしながら桓武天皇~嵯峨天皇の時代を描いた歴史小説です。
中国の皇帝を理想とした権力者桓武天皇、父親(桓武)への反発心と怨霊におびえる平城天皇、権力から距離を置き文芸に秀でた嵯峨天皇。
権威と権力が分離する、という日本独特?な「象徴天皇制」という政治形態は、この3人によってうまれ出たものだととても説得力がありました。
また、この先の藤原道長が全盛時代を迎える平安時代の基盤を作ったともいえる時代のこの小説の名が「王朝序曲」とは!
ぴったりすぎるネーミングに読み終えた後あらためて感動しました。
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時は奈良時代末期から平安へ。桓武、平城、嵯峨と移り行く時代を、のちに左大臣まで昇り詰めた藤原冬嗣の視点で描く。
帝位を巡り疑心暗鬼になる王族たちとそこに群がり覇権争いを繰り広げる貴族たち。出世街道からやや逸れたところにいる冬嗣は、遷都や政変の動きを冷静に見つめるが、やがて立場の異なる役職についた親子、兄弟は、腹の内は見せずに目の奥を探り合うようになる。
教科書のなかで知った人物たちに血が通い、それぞれの立場から必然的に歴史的事件は起きる。久しぶりに古代史を舞台にした小説を読んでその楽しさを改めて感じた。