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ジョイスとケルト世界 アイルランド芸術の系譜 (平凡社ライブラリー)
著者 鶴岡 真弓 (著)
ジェイムズ・ジョイスが紡ぎ出す言葉の迷宮の根底には、眩めく装飾美術を生みだしたケルト的想像力が横たわっている。アイルランドの芸術家たちが螺旋的にたどった「魂」の航海譚。「...
ジョイスとケルト世界 アイルランド芸術の系譜 (平凡社ライブラリー)
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商品説明
ジェイムズ・ジョイスが紡ぎ出す言葉の迷宮の根底には、眩めく装飾美術を生みだしたケルト的想像力が横たわっている。アイルランドの芸術家たちが螺旋的にたどった「魂」の航海譚。「聖パトリック祭の夜」の改題。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
鶴岡 真弓
- 略歴
- 〈鶴岡真弓〉1952年生まれ。早稲田大学大学院文学研究科修了。ダブリン大学トリニティー・カレッジ留学。現在、立命館大学文学部教授。著書に「ケルト/装飾的思考」「古ヨーロッパの神々」など。
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ゆったり旅気分
2002/07/18 04:14
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:あおい - この投稿者のレビュー一覧を見る
この文庫の親本「聖パトリック祭の夜」が収録されていた岩波書店のImageCollection精神史発掘シリーズには、松浦寿輝氏の「平面論」やら平野嘉彦氏の「プラハの世紀末」やらとても面白い本がいっぱいあって、出来れば本書のように文庫で再刊してもらいたいものだとつねづね思っている。
鶴岡真弓氏についてはもはや現在ではケルト芸術について研究の蓄積から一般向けにとても親しみやすく、しかし通俗に堕しはしない清潔な文章を書く一として知らない人はいないだろうと思うのだけれど、ちょっとぼんやりしたところのある僕などには前著「ケルト的思考」よりもジェイムズ・ジョイスを中心として小説のように楽しげに物語る本書のほうではじめてその魅力に触れたのであった。
実際いま読んでもこの本の語り口のゆるやかさはそれ自体が旅のようであり、ウンベルト・エーコに倣った「ケルズの書」とジョイスの作品の関連を綿密に分析する核心部分をクライマックスとしながら、むしろ本読みとしてこの本に愛着を感じるのは誰か作家や作品について批評的に分析するようなところではなく、章と賞を繋ぐ柔らかな遊びのような文章の部分である。それは「漂泊」「エグザイル」「航海」という本書全体を貫く主題とも相俟って、決して悲劇的な、というよりもむしろ生真面目な深刻さとは一切無縁の高貴さのようなものを感じさせてくれ、とても感動的だ。
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私は鶴岡真弓ファンだ
2001/02/10 12:49
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オリオン - この投稿者のレビュー一覧を見る
私は鶴岡真弓ファンだ。以前、NHKの人間大学(1998年4月〜6月期)で「装飾美術・奇想のヨーロッパをゆく ケルトから日本へ」が放映されたときは毎回かかさず観たものだし、テキストはいまでも大切にとってある。(1998年4月から7月にかけて東京都美術館で開催された「ケルト美術展」も観に行ったたし、図録はいまでも大切にとってある。)
そういうわけで、鶴岡氏のケルト三部作(と、私が勝手に名づけている書物たち)──『ケルト/装飾的思考』と本書(岩波書店版の原題は『聖パトリック祭の夜』)と『ケルト美術への招待』──を、刊行された時期を逆行しながら少しずつ、年単位の時間をかけて読んでいる。
ラフカディオ・ハーン(第一章「漂白の亡霊」)にジェイムズ・ジョイス(第二章「エグザイル」、第三章「西方[ヒスペリア]の詩学」)、そしてオスカー・ワイルド(終章「女神モリガン」)の三人の文学者を大きくとりあげた本書の圧巻は、やはりウンベルト・エーコの議論に準拠しながらジョイスと「ケルズの書」の関係を論じた第三章だろう。
「『ケルズの書』のように書きたい」と独白したジョイス。どのように書いたらいいのかと問われて「『ケルズの書』を研究したまえ」と答えたジョイス。「…怪獣文字のごとく、「渦巻」「組紐」「動物」という、オーガニシズムを溢れさせ、のたうちまわり、融合し、変化し、無限循環的回転体と化す『ケルズの書』の装飾の奇想天外のイメージを借り」て、フィネガンズ・ウェイクの「カオスモスを疾走」したジョイス。
谷川渥氏が解説(「極大の渦を巻く」)で指摘しているように、本書自身がケルトの装飾文字さながらの構成をもち、またアイリッシュの饒舌を模した文体に彩られている。無限に「再生」するもの、原理としてのケルト。──そういえば『ユリシーズ』(丸谷才一他訳)が第二部の「12 キュクロプス」あたりで中断したままになっていた。再開しなければ。