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真剣師小池重明 (幻冬舎アウトロー文庫)
真剣師 小池重明
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書店員レビュー
太宰治、三島由紀夫の作品を彷彿とさせるくらいのダメ男...
ジュンク堂書店岡山店さん
太宰治、三島由紀夫の作品を彷彿とさせるくらいのダメ男。酒に女に博打。できることはただ、「将棋」のみ。
もうこりゃ手遅れだ、と誰もがさじを投げる中、主人公の人生に近付いた故団鬼六先生の彼への愛がこの作品いっぱいに感じられます。
真剣師とは賭け将棋でお金を稼ぐ。ものすごい境遇に生まれても、主人公はなんとも明るく我が道を行く。真面目さなんかがこの人にあれば、もっと違う人生を生きたろうに。でも、それがないからこそ、この人の儚さ愚かさ、弱さ。そして強さが読者の心を打つのだろう。
将棋を全く知らなくても彼の強さはひしひしと伝わってくる。勝って稼いで、すって一文無し。その繰り返し。なんとも文学に名を刻む男にふさわしい人物である。世の中に振り回されたのか、彼が振り回したのか。ともあれ魅力と言うものは不思議なもので。読了後に残るのは近しい人を亡くしたような静かな悲しさ。すごい作家がすごい人間に出会ったものですね。忘れられない作品になりました。 文庫担当 中原
紙の本
すごい男の物語です。一ページ目から本を離せなくなります。
2001/11/07 22:14
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:茶羅 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ふと気づくと物語にのめり込んでいる自分に気づく。時間を忘れ、自分を忘れてこの小池の生き方に唸ってしまうのである。小池の息吹を感じ、自分もアウトローの端くれの存在であったかのように勘違いしてしまうのである。何しろ小池重明という男は破天荒である。対局(将棋)の寸前まで酒を飲み、そして勝負に挑んでくるのだ。将棋以外には何も出来ない男。生活は果てしないほどにだらしなく、自分をかばってくれる人たちをことごとく裏切ってしまう。だが、そんなだらしなさを差し引いても彼には人を引きつける魅力がある。何しろ勝負師なのである。天才なのである。コンピューター全盛の世の中に血の通った勝負師の姿。これは読む者を引きつけるはずである。かくして私も一気に読み終え、一気に疲れてしまった一人です。
電子書籍
新宿の殺し屋 小池重明
2015/10/24 21:06
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:okadata - この投稿者のレビュー一覧を見る
団鬼六と言えばSMというイメージしかないのだが、趣味の将棋では89年から将棋ジャーナルのオーナーとして93年まで私財をはたいて発行を続けた。その団が6年ぶりに小説家として復帰したのが92年に亡くなった新宿の殺し屋こと真剣師の小池重明の「流浪記」を基にした本作だった。余命1年と宣告された小池にざんげ録を書かせ将棋ジャーナルに連載したのもその団の仕掛けだった。団と小池の付き合いが始まったのが88年ごろで、冷静に見れば団はいいカモにされているのだが、破滅型の小池を見捨てきれなかったようだ。
中学生で将棋を覚えた小池は高校に入ると学校に行かずに将棋にのめり込む。ほぼ一年で三段になり中部日本学生将棋選手権では大学生も破り優勝した。小池の最初の真剣(賭け将棋)は通いつめた将棋クラブで席主の娘に片想いし、その娘と仲の良い大学生に彼女をかけての勝負を挑んだのがきっかけだった。結局不良高校生の応援団を引き連れた小池は勝負には買ったが真剣禁止の将棋クラブからは出入り禁止にされ、彼女はのちにこの大学生と結婚している。
高校を中退し売春宿の番頭を振り出しに喫茶店、酒場などで働くが長続きしない。岐阜のホテルに勤めた際には浮気をするオーナーの当て付けにとオーナーの奧さんに誘惑され関係を持つのだが、わざわざそのことをオーナーに言いつけ、逆にそのまま関係を続けろと言われたのに逃げ出してしまう。後にも度々仕事場から金を持ち出したり、未亡人や人妻と3度駆け落ちしているが金と女にはとにかくだらしない。
酒にもだらしなく団には娘に会いたいと泣きつきもらった金をその日のうちに飲んで使い果たしてしまうなど、飲みだすとコントロールが効かなくなる。大山名人との対局前夜には深夜営業のスナックでビールを飲み始めて口論になったボーイを殴り、留置場から対局場へ二日酔いで向かうのだが角落とは言え大山名人の考慮時間74分に対しわずか29分しか使わず完勝してしまう。この辺りが破滅型の天才と言われる所以だ。
岐阜から戻った小池は名古屋の将棋クラブに居候をしながら真剣師と交流を持ち始めこのころ将棋の腕を上げていく。21歳でアマ名人戦の愛知県代表になりこの年名人になった関則可を頼って東京に出将棋修行を始める。奨励会入会試験の口利きを松田八段の推薦を取り付けたのはいいがキャバレーの女に入れ込んで道場の金を使い込み、名古屋に逃げ帰ってしまう。
小池が新宿の殺し屋として名を挙げ出したのは名古屋で働いた葬儀屋をその仕事で知り合った未亡人と駆け落ちし再度東京に出てきてからだ。32歳になった小池は鬼加賀と呼ばれるアマ名人にもなった大阪の真剣師と死闘に挑んだ。初日勝てば50万円の5番勝負、二日目は1番10万の10番勝負を戦い、トータル7勝7敗ながら初日の勝ちが効いて加賀は小池を日本一の真剣師と認めることになった。翌80年からは2年連続でアマ名人を取り表の世界でも日本一となるとプロにも連勝し1982年には棋聖を取った森に角落、香落ち、平手と3連勝をする。将棋は勝ち続けるが生活は破綻しており出入りしていた将棋酒場の金を持って女と逃げ出し、さらにはサラ金地獄。賞金百万円の大会で優勝してもその場で借金取りに抑えられてしまう。
小池の最後の公式戦は亡くなる前年で相手は竜王戦でプロ相手に3連勝をしたアマ名人の天野高志、結果は小池の2連勝だった。すでに肝硬変を発症していた小池は対局数日後にまた血を吐き、負けた天野は準決勝で丸山忠久相手に必勝の将棋を落とした。今やコンピューターが強くプロでもなかなか勝てなくなってきているが20年前はまだこういう時代だったのだ。