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雀の手帖 (新潮文庫)
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紙の本
ちょいと行っちゃ二つ
2023/07/12 20:19
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kisuke - この投稿者のレビュー一覧を見る
1話2頁の短いエッセイが百話収められています。
年中行事や季節の花、食、身の回りの出来事から皇室まで、様々なことについて幸田さんならではの言葉が書かれていて、何度読み返しても飽きません。
特に「女世帯」の留守番を頼まれた女性と和菓子のお話が、その人の楽しそうなイキイキとした姿が浮かんできて、一番好きです。
紙の本
野鳥の観察日記ではない。幸田露伴先生ご息女の新聞連載エッセイぴったり100回分である。日々の暮らしに見つける小さな幸せを大切にしたい人へ。
2001/08/30 11:34
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ(JPIC読書アドバイザー) - この投稿者のレビュー一覧を見る
「読書中」という札を下げるように雑事をシャットアウトして、本とはがっぷり四つに組むべきだという御仁もいると思うけれど、何かをしながらちょこちょこ合い間を見つけての本読みも悪くない。
それも、名文家や感性の鋭かったり豊かだったりする人の身辺雑記の類いを選ぶと、断片的に読んだ小さな文章のとある一節が、生活や仕事に思わぬリズムや切り返しを授けてくれることがある。
今上天皇と美智子皇后のご成婚の年、昭和34年の1月末から5月上旬にかけて西日本新聞に連載されたエッセイだそうである。少しはみ出したものもあるけれど、ちょうど100回分の文章は、この文庫本では、各々見開き1画面、つまり2ページの分量となっている。切りがいい。中断されても、どんな筋だったかと何ページも前をさかのぼって確かめる必要がない。
そんななかに収められているのは、日々の平凡な暮らしで生活者がふと気づく季節の移り変わりであり、懐かしい時代への思いであり、出かけていった場所での発見の喜びである。幸田さんの目線は、台所で夕げの仕度の大根を刻む人の高さであり、玄関前にふきだまった落ち葉をはいて集める人の高さであり、通勤の駅に向かう途中でたんぽぽに惹きつけられた人の高さである。ささやかで情のきめが深く細かい。
巻末の解説は出久根達郎さん。このエッセイの魅力を至れり尽くせりという感じで表現していて、「そうそう」といかにも首を縦に振りたくなるような、これも名文である。
まず、幸田家独特の言葉の魅力が語られている。当時、上京したての出久根さんは方言コンプレックスをもっていたが、幸田さんが東京の方言で書いていると勘違いして、それで励まされたという。「ぐうたらべえ」「ちゃらっぽこ」「ばかったらしい」「とぱすぱしている」など、活き魚がはねているような言葉を私も大いに楽しみ、元気をもらった。
「連想話法」「尻取り式語り口」とでも呼ぶべき巧みな手法で話がつながっていくという指摘にも肯ける。ほんの一言のタイトルが付された文章は、その言葉に関係なさそうなところから始まって、思わぬ世界に展開していき、その要素を掬いながら核に達していく。扱われる素材が、すぐ前の話題、あるいはその前の材料をぼんやりと思い出させるような箇所も多々ある。
強引に何かに集中して「さあ、書いてやるぞ」という姿勢ではなく、人の思いや記憶のあり方そのままに話は淀みなく流れ、よそから来た支流と合わさっていくかのようである。「名人芸」とはそういうものなのだろうな、稽古を積み重ねていくうちに身についてしまい、無意識の動作としてふっと出るものが型になっている−−そんな気にさせられる文章なのである。