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- カテゴリ:一般
- 発行年月:1998.1
- 出版社: 筑摩書房
- サイズ:20cm/210p
- 利用対象:一般
- ISBN:4-480-83175-4
紙の本
草原に落ちる影
感動の名作「アフリカの日々」で一躍文名を馳せた著者の最後の作品。ソマリ族の召使いファラー、ライオンの毛皮を献上しその返礼に頂戴した王さまの手紙の意外な効用などケニアのコー...
草原に落ちる影
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商品説明
感動の名作「アフリカの日々」で一躍文名を馳せた著者の最後の作品。ソマリ族の召使いファラー、ライオンの毛皮を献上しその返礼に頂戴した王さまの手紙の意外な効用などケニアのコーヒー園での日々を回想する心暖まる短篇集。【「TRC MARC」の商品解説】
収録作品一覧
ファラー | 5-64 | |
---|---|---|
王さまの手紙 | 65-94 | |
大いなる仕草 | 95-128 |
著者紹介
カーレン・ブリクセン
- 略歴
- 〈ブリクセン〉1885年生まれ。デンマークの作家。英語版ではイサク・ディーネセンの筆名をもつ。知性派の物語作家、二重物語作家として知られる。作品に「アフリカ農場」他。1962年没。
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紙の本
『アフリカの日々』の作者が晩年に残した拾遺集。言葉におんぶしない原初的な異文化理解へのヒントが、現地人たちとの交流の場面で美しくも確かに表現されている。
2005/02/25 11:32
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ - この投稿者のレビュー一覧を見る
作者は、コーヒー農場の女主人として17年間ケニアに滞在した。アフリカの核とも言うべきものをつかみ執筆された『アフリカの日々』は、20世紀最高の文学に数えられる。その拾遺集とも呼ぶべきものが本作である。体裁としてはごく小さな本だ。それほど文字量の多くないエッセイが4篇、収まっただけの……。
しかし、この本はある意味、世界的な成功を収めた本編よりやるせない読後感が尾を引く。『アフリカの日々』を書いた当時の彼女は、成功次第で、破産して帰国した自分が再びアフリカに戻れるかもしれないと大いに期待していた。だが、脊髄神経を切断し体重激減のなか75歳で本書を出した彼女には、もうアフリカは記憶のなかでしか眺められない存在だということがはっきりしていたことだろう。
「ファラー」という最初の1篇は、彼女の執事として勤めたソマリ族の男性の名から取られている。自尊心が高く、野生動物のようなしなやかさ、高い能力と威厳でもって農場を支えたこのイスラム教徒の男性と自分を、彼女は「統合体」と捉えている。差異があり、相対する異質な存在だからこそ統合体を構成し得るという考えの下、自分たちを文学上の有名なペアにたとえ、いかに彼が自分を救い支えとなって働いてくれたか、分析的、叙事的に表している。
「王さまの手紙」は、サファリで狩ったライオンの見事さに故国デンマークの紋章を連想した彼女が、毛皮を王さまに献上した。その礼状が、農場の使用人の大ケガに際し、痛みを抑える魔術的効能を発揮した話。「ライオンの毛皮」「王さまからの手紙」「手紙による鎮痛という発想」——1910〜1920年代のこととはいえ、皆、古くから伝わる昔語りの香りがする。屋敷から離れてケガした農場の善き働き手にモルヒネを施してやれず、「王さまがご自分でお書きになった手紙は、どんなひどい痛みでもとってくれるって、みんなに知られているの」と言い聞かせる。
のちに美しいゴシック物語集で一躍人気作家となる彼女は、日々そのようなアフリカへの働きかけで、物語を自分の内にはらませていった。アフリカが彼女の内に眠る物語を揺り起こしていったと言えるかもしれない。
3篇めの「大いなる仕草」は、多々ある異文化コミュニケーションを描いた文学作品のなかで、「可能性」を極限まで追いかけた非常に優れたものの1つではないか。互いの民族の事物に対する価値観を理解し合うことでなく、また、それを言語の助けによって行うことでなく、「理解」にはもっと原初的なものがあるという考えを提示していると受け止められた。
西洋の医薬品を用いて農園の使用人たちに治療を施し、この女主人は高い評判を得ていたのだが、経過順調だった火傷の少年が通ってこなくなる。集落まで出かけていくと、少年の患部には民間治療の牛糞が湿布されていた。虚無感に襲われた彼女が、農場の住人たちの出方に対し、いかなる寛容を示したか。
西洋とアフリカが互いの歴然とした差異に突き当たり膠着する場において、両者は安易な「理解」を求め合うのでなく、体の底から湧きあがる悲喜の表情によって、つまり人類共通の原初的な感情発露によって歩み寄る。ここには各自が自分の文化のなかでプライドだと認めるものを、ほんの一時手から離してみることにより、局面を変え得ることが静かに証明されている。プライドを手放す謙虚がどこから訪れるのかというと、人知を超えた神々しいものとに結ばれる関係であろう。
こういった現地の人びととの交流は、アフリカを離れてからも文通や言づてによって保たれた。それが4篇め「山のこだま」に記されている。そこでは、この偉大なる物語作家がアフリカで受けた恵みに対し、いかに恩を返そうか真剣に考えつづけていたかが分かる。恵みは読み手にも降り注ぎ、新たな地平を覆う。