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タイムスリップ・コンビナート(文春文庫)
  • みんなの評価 5つ星のうち 3.4 11件
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  • カテゴリ:一般
  • 発行年月:1998.2
  • 出版社: 文芸春秋
  • レーベル: 文春文庫
  • サイズ:16cm/178p
  • 利用対象:一般
  • ISBN:4-16-759201-0
文庫

紙の本

タイムスリップ・コンビナート (文春文庫)

著者 笙野 頼子 (著)

【芥川賞(111(1994上半期))】【「TRC MARC」の商品解説】

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タイムスリップ・コンビナート (文春文庫)

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タイムスリップ・コンビナート

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みんなのレビュー11件

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評価内訳

紙の本

マグロと恋愛する夢を見て悩んでいたある日

2003/07/08 09:30

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:king - この投稿者のレビュー一覧を見る

笙野頼子が芥川賞を受賞した短篇で、冒頭から勢いに乗って現実からはみ出していく。

「去年の夏頃の話である。マグロと恋愛する夢を見て悩んでいたある日、当のマグロともスーパージェッターとも判らんやつから、いきなり、電話が掛かって来て、ともかくどこかへ出掛けろとしつこく言い、結局海芝浦という駅に行かされる羽目になった」

もうここから読者を選んでしまう。しかも、ここから始まるのは、物語ではなく、すれ違う言葉たちの洪水なのだ。唐突な冒頭の文章の固有名詞、「マグロ」「スーパージェッター」「海芝浦」などは、普通なら与えられるはずの言葉の意味や奥行きではなく、新たな言葉を生み出す装置として現われているように見える。
この短篇を覆っている言葉の狂騒的な噴出と、なんらかの終局に到達しない横滑りぶりは、とにかく面白い。冒頭から続くのは三十頁ほどの電話の主との掛け合いなのだが、電話の主の正体は不明である。最初は、知人の一人かと思うのだが、それとも違うことがわかるのだが、だからといって正体が判明することはなく、誰でもない、彼でもない、とずれ続ける認識が掛け合いの妙味を演出している。
そして、語り手の「沢野」のうちでもさまざまな言葉がどんどんずれていってしまうのである。

なぜずれていくのか。

後書きの対話で、笙野は「もう一つの世界」という言葉を使っている。言葉のズレ、認識のズレとが、時空を超えて唐突に現われ出でる(タイムスリップ)ように、われわれの世界をぼやかしていくと言える。その根底には根本的な世界に対する違和があるのだろうか。ズレによって外と内との混濁を呼び寄せるのだろうか。そもそも、笙野頼子は「妄想」の作家として出てきている。妄想とは、現実と私とのズレから生まれるが、妄想こそがズレを生んでいるとも言えるかも知れない。

まるで夢のようだ! という感想私はを持つが、それはそれで正しいのだ思っている。語り手「沢野」は電車で「海芝浦」に行く途中、何度も「寝惚け」ているのであり、それによって時空の制度の外から何ものかを呼び寄せる。

おそらくこのズレの象徴として、「海芝浦」がある。「海芝浦」というのは実在の駅のようで、片方が東芝の会社、片方が全部海という聞けばなかなかファンタジックな立地であるらしい。
そこを見ると、「海に落ちてしまいそうな気が」するという特異な感覚を惹起する。
「タイムスリップ」する「コンビナート」とは、この「海芝浦」のことであるのだろう。「海芝浦」から引き出されてくる、言葉のズレが、原動力の片方としてあると思うが、もう片方の「マグロ」というのが実はもっと重要なのだと思う。「海芝浦」を引き寄せるのは、まず「マグロ」なのだから。

「恋愛には相手が必要なのか」というのがテーマだと後書きの対話でいっているが、そういえば、この種の視点から論じた笙野論というのは読んだことがないな、と思う。初期の「硝子生命論」でも、人形愛という対象ならざる対象への愛が出てきているが、笙野の「恋愛」というが何なのか、考えてみる必要がある。また、「タイムスリップ・コンビナート」と「硝子生命論」に共通する、水のイメージも。そういえば、「大祭」など初期作品の多くは、「水」を重要なエレメントとして成立している(本書所収の「シビレル夢ノ水」も)。特に初期作品集の「夢の死体」は著しい。清水良典は「タイムスリップ・コンビナート」を後に続く都市探訪小説(渋谷色浅川、東京妖怪浮遊)の走りとして捉えているようだが、水のイメージを用いた初期作品からの繋がりを見ることもできるのではないだろうか。

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