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紙の本
セラフィムの夜 (小学館文庫)
著者 花村 萬月 (著)
私は一体誰なのか? 芥川賞作家が描く愛と暴力の逃避行。 天使のような容貌と肉体を持ちながら生まれつき生理がない人妻・涼子は、大学の後輩の大島に好意を寄せられ、凌辱されて...
セラフィムの夜 (小学館文庫)
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商品説明
私は一体誰なのか? 芥川賞作家が描く愛と暴力の逃避行。
天使のような容貌と肉体を持ちながら生まれつき生理がない人妻・涼子は、大学の後輩の大島に好意を寄せられ、凌辱されてしまう。さらに、病院へ赴いた涼子は、自らの性の驚くべき真実を知る。異常なまでにつきまとう男を殺めた涼子は、彼の腹違いのヤクザの兄・山本に助けを求めた。二人は山本の故郷である韓国へと向かう。そして、山本には恐るべき殺し屋が襲いかかった・。「性」と「国籍」。二人の存在の証をかけた逃避行の結末は?【商品解説】
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紙の本
ならず者のよりどころ
2001/06/16 09:51
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投稿者:旅歌 - この投稿者のレビュー一覧を見る
最近読んだエッセイ集『笑う萬月』に、この作品についての項があった。タイトルは「ならず者のよりどころ」。「愛国心は、ならず者の最後のよりどころである」という格言をもとに、ごく一般的な組織への帰属意識から、自己の存在に対しての哲学的な問いかけにまで言及している。「私は誰か?」。この永遠の命題について、本作では萬月さんなりの答えを出している。萬月さんなりというより、普遍的で明快であたり前過ぎる答えという方が適切かも。でも、このあたり前の答えを前にして、解説の薄井ゆうじさんじゃないけど、救われる思いがしたのは事実なのだ。
哲学的テーマだけじゃなく、ストーリィも非常におもしろい。人物造型が卓抜なのはいつも通りだが(韓国人の殺し屋がすごい)、萬月さんの作品では類を見ないほど筋立てがきちんとしているんじゃないだろうか。女としてのアイデンティティを揺さぶられる女と、日本人と韓国人の境界で揺れる男の逃避行の物語。途中に大きな地雷が仕掛けられ、読む者の目を釘付けにせずには置かない。
やれ純文学だ、やれエンターテイメントだ、と区別するなんて無意味だと思うけど、この作品は間違いなく純文学している。テーマはもちろんのこと、登場人物ひとりひとりが文学的で深い。それなのにこれは間違いなくエンターテイメント小説なのだ。まったく萬月さんは大変な作家だ。ただし、サービス過剰の面もかなり感じられて、思いっきり純文学してしまえばよかったのに、、などと言わずもがなのことを考えてしまうのだ。
最後に、気になったことをひとつ。表記のことなのだが、「韓国人」と「朝鮮韓国人」と2種類使われていたがどうしてでしょう? 萬月さんは常々「朝鮮人」と言いきっていたと思うのだけど。。ぼくの読解力不足で両者の違いを読み落としたのだろうか。それとも出版社の校閲と萬月さんが戦った跡なのだろうか。。謎。