紙の本
怒濤の「押しつけ自虐史観」
2002/03/12 04:23
6人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:於筋 揚羽 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「ヤプー」の世界にじっくり付き合ってみれば、「人のプライドや美意識がいかに政治的に操作されインチキにかけられるか」という事に色々と思い廻らせるだろう。だがサッパリと思考停止して、支配者を心から敬愛し素直に我が身を投げ出して、世の中の役に立つ喜びを教えられれば、抵抗するよりも救いを感じてずっと幸福になれる…。これが家畜人ヤプーこと、いさぎよくなった日本民族の姿である。
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二千年後の未来、白人の貴族を神と呼ばせる専制的な「イース帝国」がある。そこでヤプー:日本人は人類以下の畜生として見なされ、遺伝子操作や外科手術によって様々な畸形を加えられ「資源」として利用されている。それは、あたかもコンピューター内臓の家電のごとく知能と自意識を備えた、あらゆる家具調度品、ペット、果ては皮革用、食肉用として、である。要するに持ち主の面倒はかけず、常に有効、有用である為に最善を尽くして自己管理を行うという、ヤプーとはまことに繊細なはたらきをする、利用者には都合のいい道具・家畜なのである。
また、あらゆるヤプー達は「白人に服従している」とは考えていない。ヤプーとしての誇りでもって社会に貢献している。ある者は便器として、ある者は椅子として、ある者は犬として。
それぞれ決められた適正に沿って子供の頃から学校で神学、教養を身に付け職能訓練に励む。中でも大学を出て高いIQも備えた血統書付の者は貴族所有のエリートヤプーであり、最高の誉れとなる。そして何よりも、自分達の神妙な心がけと技能によってこそ、この神の世界は支えられているという自負がある。まさに帝国文化のにない手として、「美しいものを創りあげているのだ」という喜びで満ち溢れている。
実際にどんな階級社会でも支配側は、被支配者からの支持、つまり彼等の自発性からくる服従をのぞめなければ階層が成り立たない。そのために宗教や伝統、道徳が精神的規範として大いにはたらいてきたのだが、しかし未だかつてこの「イース」ほど、それら規範をあくまで操作技術として周到に凝らすことに成功した社会はなかっただろう。それが可能であったのは、イース貴族は人民、ヤプーを従わせる「白神神話」について、いかににおのれに都合良く調子良く創られているかを、どこまでも自覚的に捉えて快楽・利便追求を止まないからである。
しかしヤプー達はそうした白人側のごう慢さをも熟知しつつ、崇拝を惜しまない。もはや、「私は主人にどう思われているのだろうか」といった愛情不安にさいなまれる事もせず、ひたすらこの世界で繰り広げられる神話的美しさに陶酔している。そして与えられた「畜人論」や神学を我がものとしてより美学的に高めていく。
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奥野健男の第1巻解説によると、彼は雑誌「奇譚クラブ」で連載されていた当時(1957〜59年)ただ純粋に面白がって読んでたのに、その十年後、日本が高度経済成長を経てGNP世界第二位の先進国になって以降、「不愉快な日本人の劣等性が強調されていて不愉快」、となった心境の変化があったという。
現在のいわゆる「歴史教科書問題」の中で、右派は日中戦争からの日本国への歴史的評価はこれまで不等に自虐的であった、と主張している。しかし、実際その「自虐的歴史教育」を受けてきた世代の多くは、かつての日本の「戦争犯罪」は古い世代における問題であって、同じ日本人でも高度経済成長以降に生まれ豊かさを享受する自分達を“自”虐しているとは思ってないのではないか。
そんな一人である私はやはり、これを耽美小説としては読まなかった。奥野氏と同じく、不愉快なかつての日本人の「皇国の神話世界を生きる」生きざまと、それを受け継いで先進国の一員となった今を眺める、やはりそんな感じであった。
読めば、イース貴族の嘲笑が聞こえない日はもう無いかも知れない。
紙の本
おっかない文章
2006/09/16 23:44
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:不思議 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この小説下手なホラー小説よりよほど恐ろしい、というよりこんな世界観を作り上げた作者の思考形態に背筋が寒くなる。
一冊目を読む途中胸がむかむかし、気持悪くなり、この作者に対する殺意さえ感じたのに、なぜか読み続けるのを辞めることができませんでした。それだけのパワーというか歪みがこの小説にはあります。
戦後最大の奇書と評されるだけのことはあります。
書き方が古いため(文語体?)やや読みづらいので、マンガから入っていくのもいいかもしれませんが、江川さんのマンガより間違いなく小説には読みてを精神的に追い詰めるだけの迫力があります。
深夜一人で読むのは少々精神的にしんどいかもしれませんし、まちがっても幼いの少年少女に読ませてはいけません、人生観が変わってしまいます。
ですが自分の心をがっちり作り上げている大人にはこんな世界観を持った人物もいるんだということで一度読んでみることもいいでしょう。
くどいようですがこの本を買った場合保管場所には気をつけましょう、絶対に子供が読まないように手の届かない場所に・・・。
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これを読んで「おもしろい」と思うか「ウエー!キモ!」と思うか。あなたはどちらだろう。確かにキモイがそれがこの本の主題ではない。はず。
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なんとなく康芳夫つながりで次はこちら。この作品はナニやら凄すぎて到底自分ごときでは理解しきれないし評価などできない。素性が全く謎の著者・沼正三による「戦後最大の奇書」と確か「スタジオヴォイス誌」で紹介されていて軽い気持ちで読んでみたのだが。ヤプー=日本人が白人に家畜として飼われている未来世界を描いたマゾヒズムSF小説、で終われればいいのだが、そう単純なモノではない。著者の言語・医学・宗教など多分野にわたる圧倒的な知識が膨大な注釈とともに文章中に展開されて、読むのに非常にエネルギーを使う。面白いのだけど、投げ出しそうになった。こういう作品を書ける人の脳みそはどうなってるのだろう?日本人なのか?一人なのか、複数なのか?日本のサブカルチャーの深層のどの辺まで食い込めばこの作品・作者の正体を知ることが出来るのか?など興味は尽きないし、作品自体を読むよりこの作品についてあれこれ想像するのが楽しいかも。頼むから誰かアニメ映画か漫画にしてくれないか?と思っていたところ江川達也先生が目下やってくれており非常に有難い!活字が苦手な方にはまずはそちらをオススメ。
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これはもっと前に読んでおけばよかった。
1950年代に書かれたようだが、おそらく当時と今とでは時代性が多いに違うのだろう。その辺りは奥野健男氏の解説が時代の変化をよくとらえていてわかりやすい。特に発表当時は絶賛していた三島が後に否定的になったというのは納得。
しかし、この強烈な人種差別的な内容がよく出版されたものだと感心する。黄色人種が黄色人種差別を書いているからまだ許されるのだろう。そして、何となく「たぶん白人って世界をこう見てるんだろうな」って思えてしまう。いや本当にそうかもしれないけど。
ふと倉橋由美子の「アマノン国往還記」を想い出したりしたけど、「アマノン〜」はエンターテイメントでありアイロニーがあり、「往還記」なので戻ってくるのだが、本作は救いもないしブラックだし果たして戻ってくるかもよくわからない(未完だし)。
これを白人、黒人が読んだらどう思うか、また最近の自尊心の肥大化した日本人が読んでどう思うかは興味深い。
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すごい。としか言えない。笑
5巻続けて読むのは私の精神的に不可能です。いやーすごい。笑
文章は比較的読みやすかったです。ピグミーが可愛い。笑
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小説です。前五巻所持、未だ三巻で止まっています。万人に受け入れられるような内容ではないが、その発想力には恐れ入る。白人・女性絶対優位の未来のお話。日本人は家畜となり、白人の椅子からペット、はては便器など、改造を施され、道具として扱われます。ただただ、そんな発想がどこからくるのか知りたい。驚嘆するばかり。
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マンガ持っている、江川の表現にすこし首を傾けるが、原作に興味がわいてきた。いつか見ようっと決めました。
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よくもまあ、こんなすごい小説が書けたもんだと感心します。
超アナログSFSM小説。
後にも先にもこんな小説読んだ事ない。
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しかし「良質な悪書」と言う言葉がこれほどぴったりくる小説を他に知りません。究極のマゾヒズム文学とか言われてますが正常な人間が読めば気色悪いだけです。だがそこがいい。少々右に寄ってる方は回避推奨、かもしれない。
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世界をつくるというのはほんとうに大変なことで、骨身をけずってもけずっても時間が足りない。この本だって読んでる最中から足りない足りないというイメージがこぼれでてばかり。ほんの中身がどうこうというよりは、情熱とイメージ力にこころうたれる。偏執的な部分はあるけど、非常に冷静。でもイース人とヤプーと黒奴の関係性・歴史など説明部分が長くて、もうちょっと読みたかったです。
人の肌の着物とかどんなかんじだろう。2000年後の未来、楽しみです(でもわたしはヤプーだから、人の肌の着物はきれなくて、ヤプムになるしかないのか。)
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結婚を控えたドイツ人女性のクララと日本人男性の麟一郎のカップルは、ある日ドイツの山中で未来人の墜落現場を目撃してしまう。帝国EHS(イース)から来たと名乗るその未来人は、アクシデントにより身体が硬直してしまった麟一郎を治すため、二人をイースに連れていく事を申し出る。あらゆる技術が発展したその国は、アングロサクソン系の白人を頂点に、黒人の半人間の奴隷、そして様々な肉体改造を施され字義通りの肉便器や性玩具に身を変えられてしまったヤプーと呼ばれる日本人により形成された完全なる格差社会であった。また、徹底的な女権主義国家でもあり、権力は全て女性が握っていた。そうとも知らず麟一郎と二人、イースに行く事に同意したクララ。初めは麟一郎の容態を気にかけていた彼女だったが、次第に権力と暴力の甘美なる魅力に陶酔していく。知ってはいたけど内容はかなりえげつない。だいぶ人を選ぶので要注意!ヤプーと言われる日本人があらゆる肉体改造を受ける様子や、白黒黄色人種からなる格差社会の様子など、イース文明を科学的文献を参考にしている体でつまびらかにしている。私達が日々家畜に行っている事と、かつて奴隷や穢多非人と呼ばれる人々に対して平気で行っていた(現在も一部行っている)行為の残虐性を思えば、本作で描かれた世界もあながちあり得なくないのかもしれない。どーーーっしても拭えなかった疑問は一つだけ。「ヤプーの加工にそれだけの労力をかける意味はあるのか?!もっと楽な方法あるだろ!」ただ暇で裕福な人間が行い得る悪行の例は歴史の貴族を見れば枚挙にいとまがないので、こちらもあながちあり得なくもないのか…。
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SM小説。戦後最大の奇書という呼び名の通り,独特で壮大な世界観が楽しめるオススメ作品(・∀・) 全五巻。
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つまんなくて読みきれなかった。
うーん。真性の人が読めば楽しめたのかな。
発想力はすごいんだけど。
きんもい!
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すごい作品です。ただこの一言に尽きます。こんな作品があるなんて初めて知りました。内容が凄すぎます。自分はこのようなSFグロテスク小説ではΑΩが一番の好みですが、この作品はこれに匹敵するぐらい面白いです。