紙の本
トラウマになりうる事例とそこからのリカバリーに関する書
2023/03/15 22:48
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投稿者:ぶんてつ - この投稿者のレビュー一覧を見る
中井久夫先生が翻訳されているということで手に取った。
まだトラウマを「心的外傷」と訳すことが適切だった時代の壮絶な事例の数々。
第一部は、ベトナム戦争、レイプ、児童虐待、ホロコースト、家庭内暴力など、
様々な症例におけるトラウマの諸相が描かれている。
そして、残念ながらこれらの事例は決して過去のものではない。
戦争は各地で起きているし、レイプもアメリカのみに限ったものではない。
家庭内暴力に至っては、日本でも育児放棄を含めて聞かない日がないくらいだ。
第二部は、回復の諸段階として、どのようなことが必要かが述べられている。
「心的外傷体験の中核は無力化と離断であり回復の基礎は有力化と新しい結合である」
ということから、有力化の一環として損なわれた心的能力を創り直すことが目指される。
再形成が望まれる心的能力は次の6つ。
「基本的信頼を創る能力」
「自己決定を行う能力」
「積極的にことを始める能力」
「新しい事態に対処する能力」
「自己が何であるかを見定める能力」
「他者との親密関係を創る能力」
これらの能力が私に備わっているだろうか。考えさせられる本である。
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烏兎の庭 第三部 書評 7.29.06
http://wwrw5e.biglobe.ne.jp/~utouto/uto03/bunsho/harman.html
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立命館大学gacco講座「法心理・司法臨床:法学と心理学の学融」Week2第10回「被害者支援と支援者支援」参考文献
https://lms.gacco.org/courses/course-v1:gacco+ga100+2018_03/about
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Child AbuseやSexual Abuseを考えるうえでは、定番中の定番である1冊。
定番であるだけに、書いてあることは非常に重く、生々しく、正直なところ、
「ひとりでは読まないでください」
という注釈をつけたくなるほど厳しい本でもあります。
「現在では治療法として現実的ではない」
という批評もありますが、それでも知っていただきたい1冊。
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PTSDについて過不足無く纏めている。被害者への寄り添い方と客観のバランスがとても適切と思ったら、やはり著者は女性だった。
勉強になったのは以下。
・心的外傷は被害者から力と自己統御(セルフ・コントロール)を奪う。治療の基本原則はそれを被害者に奪回する事にあるが、その為に最初の課題は安全確保である。安全が十分確保いないのに治療が成功する事はありえない。
・家庭内暴力にあってパートナー双方が共に和解を願っても内心の目標ははっきり食い違う事が少なくない。虐待者は通常相手を強制的にコントロールするという関係を取り戻したいと思っており、被害者はそれに抵抗したいと思っている。虐待者が暴力を振るわないと誓う事は良くあるが、大抵裏の条件があって、暴力を振るわない事を誓う代わりに被害者に自己決定権を放棄してほしいというのである。
・絶望との対決ともに、少なくとも一過性に自殺の危険が増大する。患者な自分には自殺を選ぶ権利があるという不毛な哲学的議論を始めるかもしれない。絶対にこの知的防御の向こう側に出て、患者の絶望の火に油を注いでいる感情や空想にかかわるようにしなければならない。よくあるのは、自分はすでに死者であるという空想である。それは愛の能力が破壊されたからだというのである。この絶望の底に降りていく過程で患者を支えとおすものは、どんなにささやかでもよい、愛による結びつきの力が残っているという小さな証である。
・心的外傷の核心は孤立(アイソレーション)と無縁(ヘルプレスネス)である。回復体験の核心は有力化(エンパワメント)と再結合(リコネクション)である。回復の第三段階になると、外傷を被った人も自分が被害者であったことを認識し、自分が被害者となっていたための後遺症がどういうものであるかを理解するようになる。これは外傷体験の教訓を人生に組み込む準備ができたことである。自分の力量感、自己統御感を大きくし、これからもあるであろう危険に対して自らを守り、そして信頼できるとわかった人々との同盟関係を深める準備ができたことでもある。児童期の性的虐待の生存者の一人はこの段階に達した感じをこう記している。
「私は決めた、そうだ、私を白眼視している奴らを皆メタメタにやっつけてやりたいと同じ事ばかり考えていたが、もうたくさんだ。もうそう思う必要は無いんだと。それから考えた。じゃあ、どう感じればいいんだろう、と。私は世界の中にいても安全だと感じたかった。私には力があるんだと感じたかった。そこで私の人生の現在活動しているものに心の焦点を合わせて、現実生活の場で力を持とうとした。」
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100分で名著のジェンダー版の紹介本である。最初の部分は番組で紹介されていた部分である。フロイトが精神分析における貴族の女性のヒステリーの原因が幼児の性虐待であることに気づき、出世欲のためにこれ以上女性のヒステリーを扱うことを断念したことが書いてあった。これは心理学の教科書にはほとんど書かれていないことである。
PTSDの教科書であるという。戦争のPTSDについては、グロスマンが書いているが、児童と女性の性被害のPTSDについてはこれが第一の本であろう。卒論でPTSDについて書くためには基本書となるであろう。
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心的外傷についての文献的レビューから始まり、実に多くの臨床例を生々しく列挙した『熱い』一冊。読み進める苦しさに生き残れなければ、決して臨床には活かせないように思う。
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私自身が加害者である。
意識的にせよ、無意識的にせよ、人を傷つけるということは、その相手にこんな思いをさせるということだ。
そして、ただ助けたいという思いだったとしても、その方法を間違うと、共倒れをする。
専門知識のある治療者ですら、こうしていくつもの失敗を積み重ねているのだから。
でも、知らないふりも、見ないふりもできない。
そんな時、頼るべきは専門家なのだけど、その専門家がもし失敗をしたら…心の傷に関しては、その恐れが本当に大きくて難しい。
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目次
謝辞
序
第一部 心的外傷障害
第1章 歴史は心的外傷をくり返し忘れてきた
ヒステリー研究の英雄時代
戦争(外傷)神経症
性戦争の戦闘神経症
第2章 恐怖
過覚醒
侵入
狭窄
外傷の弁証法
第3章 離断
損われた自己
易傷性と復元性
社会的支援の効果
社会の役割
第4章 監禁状態
心理学的支配
全面降伏
慢性外傷症候群
第5章 児童虐待
虐待的環境とは
ダブルシンク
二重の自己(ダブル・セルフ)
身体への攻撃
子どもが成人すると
第6章 新しい診断名を提案する
誤ったレッテル貼りとなる診断
新概念が必要となった
精神科患者としての被害経験者
第二部 回復の諸段階
第7章 治癒的関係とは
外傷性転移
外傷性逆転移
治療契約
治療者へのサポート・システム
第8章 安全
問題に名を与える
自己統御の回復
安全な環境を創る
第一段階を完了するには
第9章 想起と服喪追悼
ストーリーを再構成する
外傷性記憶を変貌させる
外傷性喪失を服喪追悼する
第10章 再結合
たたかうことを学ぶ
自分自身と和解する
他者と再結合する
生存者使命を発見する
外傷を解消させる
第11章 共世界
安全のためのグループ
想起と服喪追悼のためのグループ
再結合のためのグループ
付 外傷の弁証法は続いている
解説 小西聖子
訳語ノート
訳者あとがき
原注
人名索引
事項索引
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本書は性的及び家庭的暴力の被害者を相手とする著者の、臨床及び研究の二十年間の果実であり、あらゆるトラウマの諸相とその治療への方向性を具体的に示している。著者はフェミニストであるとともに、非常に優秀な学者かつ臨床家である。
第一部は、外傷的事件への人間の適応のスペクトルの輪郭と範囲とを書いている。特に家庭内暴力と児童虐待について詳しく記載されており、長期反復的虐待の生存者に見られる心理学的障害に「複雑性外傷後ストレス障害」という新しい診断名を与えている。
第二部は、被害後を生きる者にエンパワメントを行い他者との新しい結びつきを作る、回復の三段階について、順に解説している。各段階にいる当事者の事例が豊富に記載され、トラウマ体験者の回復過程が具体的に伝わってくる。
PTSD治療にかかわる者だけでなく、トラウマを受けた人、ストレスによって無力化されている多くの人にとって、様々な指針を与えてくれる一冊。
400字の紹介文ではとても説明しきれないほど、質・量ともに重厚な一冊です。読んでみるとトラウマに関する“バイブル”と呼ばれている所以がよく解ります。特に、虐待&DV被害者にとってとても参考になるものだと思います。
サバイバーにも支持されていますが、被害直後や抑うつ状態の強い時期には、ページ数も多く、難解で専門的であるため、なかなか読めないと思いますので無理をしないようにしてください。
戦争参加帰還兵についての記載は、平和ボケしてしまっていて全く想像が及ばない点も多く、一度目以降は読み飛ばしてしまっていますが、レイプ後生存者と被殴打女性についての章は何度も読み返しました。私自身の回復にも役立っていてエンパワメントされ、気付きを得ることが出来る一冊です。
性暴力被害者の支援者を名乗る人で本書を読んだことがない人がいれば、即刻読み、かつ“理解するよう”勧めたいです。
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全くの門外漢、素人ですが、中井久夫さんの著書を、ただ、ただ楽しくて読んでいて出合いました。今やトラウマ論、PTSD理解の基本の書だそうです。
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メモ→ https://twitter.com/nobushiromasaki/status/1624313456173387777?s=46&t=HYgec9Xgvp8wFQmaFIX63w
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著者のハーマン医師と、女性たちの「対話」による、「性暴力」の「体験」を分かち合う・回復する過程を丁寧に記した著。「性暴力」からの「回復」について、きちんと記した書は珍しい存在。だいたいの図書館にあるので、関心のある方にはおすすめです。けっこうなページ数で、「専門書のようだし、最後まで読めるだろうか…」と危惧したが、女性たちの語る事例が、「私の話を聞いて…こんなひどいことがあったの。」と語りかけてくるし、ハーマン医師の説明が「このことをなかったことにしたくない。女性たちに『自分自身』を回復してもらいたい」と語りかけてきて、どんどん引き込まれていった。
女性たちの語る内容は、性暴力に関することなので、読み手にも、つきつけられるものはあります。が、著者はあくまで冷静で抑制された表現を貫いているので、読み手も冷静に読めると思います。
特に心に残ったのは、
後半の、女性たちの自助グループワークで、それぞれの体験を話す場面。
「私にひどいことをしたやつらをこらしめてやりたい」
「いいね!もっと言って」
「あいつのひざをぶっ叩いて立てないようにしてやる」
「いいね!でも、ひざだけでいいの?」
「本当は目玉をくりぬいてやりたいけど、あいつがやった行為がどんなにひどいものだったか、目に焼き付けてやりたいから」
「同じ体験をした仲間」と一緒に、「何を言ってもいい」という安心安全な環境のもとで、「自分のひどい体験」を語り聞いてもらう…これまで孤立していた人たちにとっては、本当に「私に起きた この ひどい体験は、ほんとにあったことなんだ!(過酷な体験を受け入れがたいために記憶がない場合も少なくない)」
きっと、「受け入れてもらえた!」という瞬間だったのでしょう。読んでて心のなかで拍手した。サバイバーの女性たちに向けて。
そうなってくると、PTSDなどの症状も改善されてくるそうです。
「なかったこと」には、ならないけれど、「ひどいことをした相手に対して、No!と、ちゃんと怒ることができた」ことで、無力感ではなく『自分にも力があるんだ』と実感できたのだと思う。
「性暴力」だけでなく、「戦争帰還兵」「ホロコースト生存者」についても触れられていて、『暴力による支配』の『影響』(PTSDなどを引き起こす)は共通するんだな…。支配し、支配される関係の歪さ・おぞましさを書面で擬似体験できました。擬似体験でも つらかったので、実際の体験者の苦痛はいかほどか…(..)_| ̄|○
だけれども、きちんとした医師や自助グループの、仲間の、助けがあれば、『傷を癒し、回復できるのだ』という実践記録なので、『希望はあるのだ!』と、一筋の光を感じました。ハーマン医師と勇気あるサバイバーたちに大きな拍手と花束を贈りたくなる。ひどい体験からの回復の様を証言してくれて、そして、書いてくれて、ありがとう。肉体的・精神的な「暴力」や「支配」はどこにでも存在する。一見平和そうな家庭にも。まともそうな会社、学校、コミュニティ…など、人間関係あるところには、だいたい、ある。「善意による支配」「無意識な支配」関係、「パワハラ、セクハラ��モラハラ」…冷静に分析すると思い当たること、多いのでは?だれにとっても。
本書をしっかりと読み、理解し、よくよく検証すると…、そういう、人間関係のトラブルにも、必ず、役立ちます。
ちなみに、2023年2月100分de名著「フェミニズム特集」にて、上間陽子さんが紹介されていた本。上間さんは社会学者で研究を続けながら、沖縄で女性たちのシェルター活動をしている。著書は「裸足で逃げる」「海をあげる」。自分は、Etv特集で上間さんたちの活動のドキュメンタリーも見て、上間さんに注目していた。「今まで大切にされた経験がなかった若い女の子たちにとって、安心安全な環境を作ってあげたかった」「ほんとうは行政のやる仕事だけど、待っていたら間に合わない」という上間さんたちの語りに、心をうたれた。そういう上間さんがすすめる本ならば、まちがいない、っておもった、のです。
上間さんたちみたいにはできないかもしれないけれど、本を読んだり、こうやってシェアしたり、日々の生活のなかで、「できる範囲で」行動することで、しんどい思いをしている人の応援はできるかな、っておもいました。自分の小さな世界ですけど。なにもやらず諦めるよりはいいかな、って。
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私は、被虐体児童であった。
加害のメカニズムがすごく丁寧に描かれていて、まるで自分の起きたことを知っているかのようだと思った。
監禁状態と児童虐待の章は、フラッシュバックをともないながらなんとか読み終えた。被害者を徹底的に無力化し徹底服従させようとする様は、パワハラの上司のあり方そのものだった。児童虐待も、虐待を受けた子供がみずからを悪いと責めてしまう部分もそうだなと思いながら読んだ。
後半にかけて、回復についての精神的治療のところで、自分が経てきたことをふりかえった。この先もなんとなく見えたりもした。それは微かな希望にもなった。
心的外傷を持った人のトラウマに向き合うことは、虐げられた人の声を聞くことでもあり、フェミニズムなのだとも思った。私個人が持っている興味の連なりも感じた。
傷ついたことによって、そのことによって、より人生を見いだすことはありえるだろうか。誰かの力になれることもあるのだろうか。
まずは自分の回復が大切。と思いながら、そんなことがあったら素敵だなと、思えた。