「honto 本の通販ストア」サービス終了及び外部通販ストア連携開始のお知らせ
詳細はこちらをご確認ください。
紙の本
われらが〈他者〉なる韓国 (平凡社ライブラリー)
著者 四方田 犬彦 (著)
韓国は、実のところ、内側でもなく外側でもなく生きられた体験のなかからのみ浮かびあがってくるものにすぎない。韓国の人・文化・出来事についての現場感覚に溢れたレポート。Par...
われらが〈他者〉なる韓国 (平凡社ライブラリー)
このセットに含まれる商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
商品説明
韓国は、実のところ、内側でもなく外側でもなく生きられた体験のなかからのみ浮かびあがってくるものにすぎない。韓国の人・文化・出来事についての現場感覚に溢れたレポート。Parco出版87年刊の改訂。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
四方田 犬彦
- 略歴
- 〈四方田犬彦〉1953年兵庫県生まれ。東京大学大学院で比較文化・比較文学を専攻。明治学院大学文学部芸術学科教授。「月島物語」で斎藤緑雨賞を、「映画史への招待」でサントリー学芸賞を受賞。
関連キーワード
あわせて読みたい本
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
この著者・アーティストの他の商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
紙の本
鮮やかな青春の韓国体験
2000/08/25 09:15
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:野崎歓 - この投稿者のレビュー一覧を見る
十三年前に刊行された四方田氏の重要なエッセイ集が、増補版で蘇ったことを喜びたい。スウィフト『ガリヴァー旅行記』に関する浩瀚な修士論文を書き上げた25歳の四方田氏は、ソウルの大学に客員教授として招かれ、さして年齢の違わない学生たち相手に日本語や日本文学を講じた。KCIAの部長による朴大統領暗殺事件が起こったのは、著者滞在中のことである。政情不安が人心に深い翳りを与え、危機の緊張がはりつめるソウルの日々、書物を読み映画を観、そしてさまざまな人々との邂逅を重ねるうち批評家の精神に刻まれた韓国体験の精髄が、情熱あふれる文章によって語られる。読む者を引きこまずにいない力をもつ青春の一巻である。
「どうして韓国に行く気になったのですか」と、当時著者は多くの人たちに質問されたという。著者によれば、その問い自体がある無意識的倣岸さを露呈している—「なんとなれば、質問者は自分の立っている場所の不動の安定を素朴に信じたまま、いかなる動機もなく言葉を発しているからであり、みずからの属しているイデオロギーに無頓着であるためだ。」
この切り返し方に四方田氏の批評精神がみごとに表れている。自らの立つ場所を常に問い直しながら、〈他者〉の領域に向けてあくなき越境を試みること。それがきわめて高度な知性の営みであるとともに、キムチの「エロティシズム」に惑溺するような肉体的実践でもあることを、ここに収められたテクストの数々がみごとに証明している。
民族仮面劇から張本勲まで、夭逝した映画作家・河吉鐘から「巨大な物語そのもの」のごとき生涯を全うした詩人・金素雲まで、惜しげもなく投じられる素材の新鮮さは今なお少しも失われていない。そのなかでも、「境界性を潜在的に乗り越えてしまう」ことを本質とする映画をめぐる思考は、本書の最もスリリングな部分をなす。一本のメロドラマを日本、韓国、北朝鮮のそれぞれの観客がまったく異なった見方で受容する事実の分析は、映画を観ることの政治性を鋭く解き明かす。しかしまた、「韓国人が好きになるとき」のようなさりげない印象記にこめられた、〈他者〉なる韓国への真率な思いにも胸をつかれずにはいられない。
そしてまた、最新刊『日本の女優』などではすでにヴィルチュオーゾというべき練達の語り口で圧倒する氏の、若き時代のみずみずしく詩的高揚に満ちた文章を読むたのしみもある。「朝の鮮やかな国から」と題された一篇こそは、若き批評家にのみ許された抒情の美しい結晶ではないか。
著者は近々ふたたび韓国に長期滞在する予定だという。本書の続編が今から待ち遠しい。 (bk1ブックナビゲーター:野崎歓/フランス文学者・東京大学助教授 2000.08.20)