紙の本
細部を愉しめ!
2002/06/08 22:47
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:のらねこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
なんというか、この人の作品は、いつものことながら、あー、「凝っている」。ディテールが、半端ではなく、細かい。
例えばこの作品の主人公にして語り手、バスキ大尉は、ナポレオン軍の「工兵」なのである。マニアックというか、なんというか。だって、当時の「工兵」がどの程度の技術を習得していて、どのように橋をかけていたのかなんて、かなり周到な下調べをしなければ書き込めないのである。このバキス大尉は図面も書けば現場で陣頭指揮もとる。「スペンイ人の職人に侮られないためには〜」とかいいながら、氾濫して流れが急になっている川のなかにざぶざぶ突っ込んでいって、自ら架橋作業をしたりする。
そうしたディテールの細やかさが、とてつもないリアリティを産み出している。そうした「細かさ」が、一見、繁雑で読みにくい印象を与えかねないのも事実なのだが、いったん作中の世界にはいりこんじゃうと、クセになるんだなあ、これが(笑)。
それに、ある事件からバスキ大尉と親交を結ぶことになるウストリツキ公爵、公爵の弟夫妻などがからんで、いろいろあったりすんであるが、細かい経緯はここには書かない。ウストリツキ公爵と弟の関係は、どことなく、同じ著者の「バクタザールの遍歴」の例の双子の関係を、ちょいとだけ髣髴とさせる。
紙の本
けだるい悪意だ...梅雨時に読むならこの本だ
2002/04/20 01:16
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ゆたやん - この投稿者のレビュー一覧を見る
悪意が吸いこまれていく。けだるい。虚無感。
映像化し得ない映像感。そして絶対に僕らじゃわから無さそうなディテールを抱え込んだ複線の山・山・山!
でも、決して難解ではない。
なんだろう、この作品は!
カオスのヨーロッパ。ナポレオンがかきまわして作り上げた大ヨーロッパのそのまた中心ウイーンで繰り広げられる陰謀。
その理由は<退屈>....けだるく隠微で大きな陰謀。
あまりの現実感。
この本を読めば、19世紀初頭の欧州をリアルに漂うことが出きる。
漂い、たどり着くのは何か? あなた自身が見つけるのは闇。そして、限りなくけだるい悪意。
紙の本
ナポレオン期のウィーンの歴史活劇
2001/03/04 16:10
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:太田コロ - この投稿者のレビュー一覧を見る
18、19世紀ヨーロッパを舞台にした小説を書かせて佐藤亜紀の右に出るものが日本に何人いるだろうか?
ナポレオン時代のウィーン。主人公はナポレオン率いるフランス軍の工兵隊のパスキ大尉。ある酒場での殺人容疑をかけられた所を助けられたのが縁でパスキはオーストリア貴族ウストリツキ公爵と出会う。そしてウストリツキ公爵の陰謀に巻き込まれていく…。軍の裏方ともいうべき工兵隊のドナウ川架橋作業の描写、息づかいを見てきたかのように書く著者の博識。また、オーストリア貴族の乱痴気騒ぎや、パスキ大尉のフェンシングでの決闘の場面の迫力。栄光の絶頂にいるナポレオンを暗殺するという大それた計画をどうやって行おうというのか。
本当の意味で本書を読み終えるには18、19世紀ヨーロッパの十分な知識と複雑に絡みあう糸をもつれさせずに読み解く読書力が要求されるであろう。しかし、知識がなくとも面白く読むこともできるだろう。
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予想外の殺人事件が起きてからグーンと引き込まれました。うさんくさい貴族やら秘密警察やら、美男美女ときなくさい企み頻出でウキウキ。とくにウストリツキ公爵に夢中。本気でファンクラブに入りたい。骨太なストーリーをはじめ、人物全てが魅力的。大好きです。
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フランス占領下のウィーン。フランス軍工兵隊のパスキ大尉は一人の貴族と出会うことから始まる物語は、一言「壮大」という言葉に尽きる。
それはまず、圧倒的な世界観の深さにある。ヨーロッパ中世の中で、「工兵」というところにスポットを当てたところからもそれが判るだろう。その知識の深さには頭が下がる。しかもそれが嫌みになることなく自然に文章に溶け込んでいる。言葉の一つ一つも凝っていて、上質な作品と言えるだろう。
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これも設定だけ考えれば萌え要素満載なんですが、相変わらずがっつり深いので呑気に萌えてる場合じゃありません。
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歴史の知識がないので、主人公の置かれた状況がよくわからないまま読みすすめました。
わからなくても、十分面白かった。
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佐藤亜紀2作目。あんまりナポレオン関係ない。暗殺もあんまり関係ない。
やっぱり設定と文章は非常に好みなんですが、ストーリー自体に好感を覚えない作家だなあと再確認。
登場人物がいちいち一癖も二癖もあるからかなあ。あ、でも公爵とその愛人はなんだか好きでした。
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佐藤亜紀独特のヨーロッパ貴族の敗退的な感じは健在だがオーストリアとフランスの戦争.ナポレオンの暗殺計画に関しては緊張感が無く文体との隔たりが否めない.
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図書館
オトコマエと美女がいっぱい出てきて目の保養になった。
・・・・・・世界史の授業、も少しちゃんと受けとけばよかった。
暗殺が成功するのか失敗するのかドキドキしてしまったじゃないかw
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先日レビューした「天使」と同じ作者。
いかにも同じ人が書いた、っていう感じなので、両方好きか、両方嫌いかどっちかだと思います。
舞台は1809年のウィーン。フランス軍工兵隊(橋を架けるのが専門だってよ)のパスキ大尉が、ナポレオン暗殺計画に巻き込まれていきます。
暗殺計画の中心にいるらしい、ウストリツキ公爵がいいキャラ。
中産階級的倫理感とは別世界に生きていて、でも彼なりの貴族的倫理感みたいなものはあって、エレガントで頭がよくて乾いたユーモアのセンスがあって、男も女も周りの人がみんな彼に振り回されてしまうのも納得の魅力。
ある意味少女マンガっぽいキャラ(美形率高し)と、若干の歴史的知識を要求されるサスペンスと、無駄を省いた文体の取り合わせが全部好きな人が意外と少ないのか、2000年文庫初刷なのに8年目にしてすでに入手困難。
図書館で借りました。
確かにおもしろかったけど誰に勧めていいのかよくわかんない…。
「バルタザールの遍歴」「天使」が好きな方ならぜひ。
「天使」の星5つがややおまけだったので今回は4つで。
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読む前は、歴史物だと思って躊躇していた(歴史に無興味なので)のですが、こりゃあ歴史小説ではなく、その舞台を借りたハードボイルド風味のイケメンエンターテインメントだった(笑)
筆者の作品の中では、かなりわかりやすい方だと思うので、入門にはこれをお勧めします。
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渡米時、「文庫は3冊まで!」と決めて持って行った一冊。著者の1番好きな作品はどれかと聞かれれば答えられないこと必至だが、連れていきたい作品は間違いなくこの作品。
世界にどっぷり使って感性を研ぎ澄ませて読むことが求められる作品が多い中、1番ソフトでエンターテイメントとして読める。その為、短い時間でも気軽に手に取れる。
私自身は「天使」で佐藤亜紀デビューだったが、順番が勧められるならこれをデビューにオススメしたい。
絶対して欲しくはないが漫画化なんてしたら、キラッキラした美形が立ち並ぶキャラクター設定だが、その容姿の造形よりも癖の強さが魅力的。
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1809年、オーストリア。工兵である主人公が不思議な陰謀と争いに巻き込まれていく。
ストーリー展開に驚きが隠されているわけでは無いが、テンポよく描かれていく世界観に巻き込まれていく。
主人公の心情が理解出来ないことがあるが、そんなことは捨て置いて力強い文章に魅了されてしまうのだ。
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何年か前に読了。佐藤亜紀さん2冊目。
天使の後に読み始めたのだが、文体はともかく物語の序章が長く長く時代背景や人物の設定を語られて洋画の画面を字幕スーパーで観ているような気で読んでいた。そのうちに主人公が動き出し周囲の人と関わっていく。長編洋画を観ているように読み進めていった。クライマックス、エンディングと華麗に流れ幕が降りた。