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- カテゴリ:一般
- 発行年月:2000.9
- 出版社: 以文社
- サイズ:20cm/115p
- 利用対象:一般
- ISBN:4-7531-0213-0
紙の本
侵入者 いま〈生命〉はどこに?
著者 ジャン=リュック・ナンシー (著),西谷 修 (訳編)
「わたしの心臓がわたしにとってよそ者になっていた」 現代フランス哲学の第一人者が、移植後10年にして綴る「他人の心臓」で生きる体験。「わたし」はどこへゆくのか? 「命」と...
侵入者 いま〈生命〉はどこに?
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商品説明
「わたしの心臓がわたしにとってよそ者になっていた」 現代フランス哲学の第一人者が、移植後10年にして綴る「他人の心臓」で生きる体験。「わたし」はどこへゆくのか? 「命」とは何か? 訳者の「不死の時代」等を併録。【「TRC MARC」の商品解説】
収録作品一覧
侵入者 | ジャン=リュック・ナンシー 著 | 3-44 |
---|---|---|
ナンシー、他者の心臓 | ジャン=リュック・ナンシー 談 | 45-58 |
ワンダーランドからの声 | 西谷修 著 | 59-96 |
著者紹介
ジャン=リュック・ナンシー
- 略歴
- 〈ナンシー〉1940年ボルドー生まれ。現在、ストラスブール大学教授。「無為の共同体」「エゴ・スム」「声の分割」などが邦訳されている。
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紙の本
脳死者からの臓器移植、そして予見されるクローン技術を、フランス現代思想によって読み解く。
2000/10/09 00:15
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投稿者:井上真希 - この投稿者のレビュー一覧を見る
アニメ『ルパン三世』(モンキー・パンチ原作)の最初の劇場用作品『ルパンvs複製人間』には、「私の名前はマモー。君に永遠の命を授けよう」との言葉を発するクローン人間が登場する。
あのフィクションに肉迫する勢いで現代の医療テクノロジーは進展し、さまざまな臓器を移植することによって延命を可能にしている。脳死者からの臓器移植が法制化された前提である以上、脳の移植手術が行われることはないが、本書の著者が想像するとおり、脳はおそらく他者の身体システムがまるごとあれば延命できることだろう。いずれは身体の他の部分がなくても、脳だけで生き続けるマモーのような生命体が出現するかもしれない。
身体の一部である臓器が他者の延命のための「資材」として「活用」される時代を迎え、医療の現場でなされる延命治療が、人の生の終わりをできる限り先送りすることとなり、人はその状況に対して準備のないままに、死の「頃合の時」を失った。
現代フランスの哲学者ジャン=リュック・ナンシーは、本書で、自ら受けた心臓移植手術後の9年の体験を通じて、現代人が新たに直面している生と死を考察している。一般的になぜ延命すべきなのか。どうしてこの自分に臓器が移植されるのか。何のために自分を延命させなければならないのか。延命とは何を意味しているのか。なぜ生の持続は善なのか。死の適切な頃合とはどこにあり、誰がそれを測り、宣言するのか——。
さらに、移植手術の後には、移植された臓器に対する拒絶反応が始まり、それを抑止するために自らの免疫作用を人工的に抑えて免疫不全状態を作り出さざるを得ず、それによってそれまで体内で休眠していたウイルスが活性化して別の疾患を引き起こし、免疫抑制剤の副作用で悪性リンパ腫も発症、放射線治療や化学療法が必要となる予後が伴なう。この場合、守るべき自己とは何か。自己と他者とは、限りなく死の近くに存在している。
自分の肌に何かが触れているのを感じる時、触れているのが他者の肌であれば、人はその接触によって他者の存在に気づき、他を感じるものとしての自分に目覚める。他を意識することによって初めて自分の輪郭が浮かびあがるといえる。この「接触」こそが、ナンシーの思考する〈分有〉の瞬間であり、人はつねに何か〈と共にある(etre avec)〉存在——共存在であることを認識する局面だ。
彼は鼓動の乱れを覚え、心臓の存在を感じることによって自分自身を意識し、心臓移植手術後は、体内に移植された臓器をつねに意識して生活するという、まさに自ら〈分有〉を生き、他者(の臓器)と共にある事態となったのである。
移植臓器を外部から侵入したものとしてとらえたテクスト「侵入者」は、当初、雑誌『デダル(迷宮)』の外国人問題をテーマとした「よそ者の訪れ」特集号への寄稿依頼を受けて書かれたものだが、本書は訳者の計らいにより、『侵入者』が単行本化された時に日刊紙『リベラシオン』が掲載したインタヴュー「ナンシー、他者の心臓」、及び、日本の脳死と臓器移植をめぐって訳者自身が以前執筆したテクスト「不死の時代」も、解説「ワンダーランドからの声——『侵入者』の余白に」と共に併録されている。
脳死と臓器移植、さらにはクローン技術について、ナンシーの思想と体験を手がかりに読み解くことのできる今日的な書だ。(bk1ブックナビゲーター:井上真希/翻訳・評論 2000.10.09)