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ウォーレスの人魚 (角川文庫)
ウォーレスの人魚
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紙の本
新しい人魚像の登場
2005/03/13 01:46
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:まさぴゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
岩井俊二って、映画監督じゃないの?と思っている人、ぜひこのオリジナルな長編小説を読んでください。僕的には、近年稀に見る極上のエンターテイメントでした。
小説は、1884年の香港から始まります。人類の脳は自然選択の結果ではありえず「なんらかの高度な知性存在が、人類の発達の方向を決定づけた」と進化論のチャールズ・ダーウィンと対立した、謎の多いイギリスの博物学者アルフレッド・R・ウォーレスが、香港の地元で漁師が一匹の人魚を捕まえ、雑技団に売りつけたという眉唾な噂話を聞いたところから始まります。
そして、現代へ。あるとき主人公は、ヨットの沈没に遭遇し、数ヶ月間水の中で浸かっていたはずなのに、生きて発見されます。自分が、なぜ生き残れたのか。もしかしたら人間ではないのではないか、という不安と共に主人公は、自分探しの旅にでかけます。
進化論からサイエンティフィックに辿る人魚伝説。ミッシングリンクを追いかけながらフロリダ、香港、アラスカと世界を駆け巡るスケール感と、匂いの映像作家といわれ、映像に不思議な匂いを喚起させるその力量が加わっています。
もともとは元米米クラブのカールスモーキー石井が、監督業として映画ACRIの脚本に岩井さんを指名したところから始まった小説です。実際のACRIとは、全然違うテイストのものとなったのですが、正直な話、映画の数百倍はこちらのほうが好きです。映画は、ストレートなラブストーリーを描こうとしており、僕には陳腐な純愛ものの駄作に感じました。それは、人魚という「人間ではない生命体との愛」を、単純にありがちな「人と人との愛」として描いているからです。たぶんカールスモーキー石井さんは、スィートなロマンチストなんだと思う。しかし、こちらは違います。海洲化と人魚の愛は、美しかった。一言で言うと、ものすごくグロテスクで「残酷」なのです。でも、残酷で許されないつらさの中で行われる愛のほうが、美しいと感じてしまうのは、人それぞれかもしれませんが。あの天才永井豪さんの「シレーヌよ、お前は血まみれでも美しい」です。
人魚というとウォルトディズニーのかわいらしい人魚姫が、世界的に広まりましたが、これはそのイメージに真っ向からはむかう新しい人魚像です。でもこちらのほうが近代人には、誠実ですよね。人類と異なる人魚という生物の進化の過程は? 生殖は、感情は、寿命は、生態は、食料は、そういう科学的な背景をきちっと描ききっている「ホモ・アクアリウス」説も、興味深い。個人的には、マイクル・コーディーの『イエスの遺伝子』とかいわゆる遺伝子や生物学をモチーフにした世界観を連想しました。僕はかなり小説をを読むほうですが、その中でもなかなか出会わない極彩色で見たことのないイメージの数々が氾濫する読む価値ありの小説です。
紙の本
未知の自然と出会った作品
2003/09/19 22:46
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:紅桜 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ページをめくる手がもどかしかった。
主人公の青年は、常識では考えられない状態で発見された。彼は嵐で転覆したヨットから投げ出されてから2ヶ月間、海の底で生きていた。そして彼はその時の記憶を失くしていた。
自分が人魚の末裔だと聞かされる青年の、心の変化も体の変化も、とても繊細に描かれていた。肉親だと思っていた人が他人で、自分の知らない自分の事を他人が知っている。戸惑いながらも真実に向き合おうと、信じられないような出来事を受け入れていく。
人魚という幼い頃から触れている夢物語ようなテーマが現実に目の前に現れたとき、それはいつまで甘美なものでいられるのだろう。
もうひとつ、この本では大切な事が描かれている。
大量の人間によって人魚の発見は隠され続ける。
「人魚の発見」、「絶滅種の生き残りを保護している事」。
これらの世界的にも重大な発表を、世界的権威の研究者達は必死に隠す。
それはその報道が、その種の保存に危機をもたらすことを過去の例で知っているからである。これはとても現実味のある問題だと思った。平和な南の島に住む漁師は、人魚を知っても自然の神だと言って海に返そうとする。古来の人々は自然をあるがままの姿で受け入れていた。
実際に人魚が発見されたら一体世界はどう動くだろう? 実際にこの本のように、種の保存を優先させて発表しないでいられるのだろうか? それとも保護とは名ばかりの、種の解明による絶滅の時間を早める事になるのだろうか?
この本の中には、自分が人間ではない、正確にはホモ・サピエンスではないのではないのかという青年の葛藤と共に、自己顕示欲と戦う学者の姿がとても繊細に描かれていた。
人間が未知なる自然に触れた時に出会うであろう様々な葛藤が、あらゆる角度から描かれていた。一体自分はどの人物と重なるだろう?
この本を読み終わった時、自分の中に残ったのが暖かいものだったことは確かだ。疲れた心を癒してくれる作品だと思う。
紙の本
帰海
2003/11/12 15:39
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:川内イオ - この投稿者のレビュー一覧を見る
生まれたばかりの人間の赤ん坊は、泳ぐことができる。
地上で暮らす他の動物は、生まれて数時間で立ち上がり、走り出す。
それは、外敵から身を守るために必要だからだ。
人間の赤ん坊は立ち上がるまで1年もかかる。
それは、自分で外敵から身を守る必要がないからなのだろう。
生まれたばかりの人間の赤ん坊が立てないけど、泳げるのはなぜだ。
遺伝子だけが記憶する太古の時代、人間は生まれた瞬間に
「水の中」で外敵から身を守る必要があったのかもしれない。
私は『ウォーレスの人魚』を読んで、こんなことを考えた。
この物語は、遠い昔、ある1匹、いや1人の人魚が香港で捕獲され、
ウォーレスという名の学者がそれを記録に残した、という歴史から始まる。
「人魚は実在する」「人魚が人間と結婚した」「人魚が子どもを生んだ」
突拍子もないこの記録は、世の中のほとんどの人間に呑気なおとぎ話として
一笑に付されたが、その数十年後、南洋で人魚が捕らえられる。
人魚が持つ「特別な何か」に魅せられ、群れ集まる人間達。
そして、一つの可能性が浮かび上がる。
あの記録が事実だったら……。
あなたは、生まれたままの姿で泳いでみたことがあるだろうか。
私は、ある。
波打ち際から小さな魚が泳ぎ、水は胸までつかっても足の先が
見えるほど透明、そんな「生きた海」で友人達と水着を脱いで裸で泳いだ。
なんでそんなことをしたのだろう。
なんとなく気持ち良さそうだった、としか言いようがない。
そして本当に、最高に、気持ち良かった。
どれくらい気持ち良いか? もう水着を着て泳ぐのが嫌になるくらい、だ。
あなたも機会があったら、是非試して欲しい。
人目のあるところでそんなことをしたら「捕獲」されてしまうが、
誰も見ていなければ、何も気にする必要はない。
裸で海に潜って仰向けになり、水の中からきらきら輝く太陽の光を
眺める、そんな不思議で心地好い気分を「ウォーレスの人魚」は
教えてくれる。
紙の本
迷宮の向こうに
2022/07/23 18:50
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:るう - この投稿者のレビュー一覧を見る
海底の生臭ささえ感じるねっとりした迷宮を思わせる作品。
その迷宮の向こうにひどく美しいものがあった。
残酷でさえあったけど、美しい。
読み終わった後何日も海の中を彷徨ったような、奇妙な酩酊感がある物語。
紙の本
ウォーレスの人魚
2001/08/14 01:34
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:麻田 - この投稿者のレビュー一覧を見る
話の設定がとても面白い。本当に人は進化の過程で人魚だったのかもしれない。だから海がこんなに好きなのかもしれない。これは映画では表現できない。