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紙の本
三人三様の成長物語
2004/03/15 08:14
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:紫月 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『月の影 影の海』にて玉座についた陽子ですが、登極後、異世界について無知な故、また、暗愚な女王が続いた後ということもあって、諸官の不満を集め、苦悩します。
しかし、自らの国について学ぶべきだと気がついた陽子は王宮を出奔し、景麒(けいき)によって紹介された不思議な人物、遠甫(えんほ)について国の成り立ち、王の責務について学びます。
また、陽子と同じように日本から異世界に流れ着いたすずは、言葉が通じないことに苦しみ、徐々に卑屈になっていきます。
しかし助けを求めた才国の王に諭されるのです。
——なまじ言葉が通じれば、分かり合えないとき、いっそう虚しい。必要なのは相手の意を汲む努力をすること、こうだと決めてかからずに、相手を受け入れてあげる努力をするとこ。
それでもまだ目が覚めなかったすずですが、旅の途中に知り合った男の子に、己の至らなさを指摘されます。
——自分だって辛いのに、横から同情してくれ、なんて言ってくるやつがいたら、嫌になるよ。
清秀はこうも言います。
——人の泣くのには二つある。自分がかわいそうで泣くのと、ただもう悲しいのと。自分がかわいそうで泣くのはさ、子供の涙だよな。
一方、芳の国の公主(王の娘)、祥瓊(しょうけい)は突如父王が討たれ、仙籍を剥奪されて市井に下りねばならなかったことについて恨みを持ちます。しかし彼女もまた、逃亡の果てに知り合った楽俊(らくしゅん)に諭されるのです。
——責任を果たさずに手に入るものなんか、ねえんだよ。あったとしたら、それは何か間違ってる。間違ってることを盾にとっても、誰も認めちゃくれないんだ。
三人が三人とも師となるべき人物とめぐり合い、心を改める機会を得るあたりはファンタジーですが、三人が歩む道、直面する現実はファンタジーとは思えぬ過酷なもの。
三人三様の試練、成長する過程が、ともに見所です。
本書ではまた、『図南の翼』に登場した朱晶が本書では九十年の後、といった設定で再び姿を見せ、祥瓊に苦言を与えています。
紙の本
心はただひとつ…この国を救いたいという力が集まったとき
2001/09/15 12:58
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:あき - この投稿者のレビュー一覧を見る
十二国記シリーズ、第四作目です。「慶国」の王は若き女王。しかし、その若さもさることながら、先王の女王が無能だった為に、またも女王かと嘆く声が渦巻いていました。
そんな中、もっと市中の様子を知りたいと、王自らが下界へと赴いていきます。そして、そこで見たものは、想像を凌ぐ貧困と、先王から仕えている官吏たちの悪政でした。
身分を隠したまま、民の様子に愕然としている景王は、芳の国を追放された元皇女と、日本からこちらの世界に流されてきた少女とに出会います。若き女王を含めた三人の少女が、慶の国を救うべく立ち上がりますが…。
読後感爽快です! 特に景王と後々出会うことになる芳国の皇女が、ただのわがまま姫から聡明な少女に変わって行くさまは見所ですよ。年代の近い(←心だけは 笑)女性が活躍する為か、ものすごく感情移入して読んだ作品でした。
十二国記シリーズに出てくるキャラクターたちは、誰もがイキイキとしている印象を受けるのですが、この三人は更にそう感じました。
紙の本
世界で一番かわいい自分
2001/02/16 02:25
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:taigo - この投稿者のレビュー一覧を見る
「世界で一番かわいい自分」私の師匠がよくおっしゃられる言葉だ。
「自己憐憫は気持ちがいい」私の好きな脚本家横手美智子の言葉だ。
自分がつらいとき、なぜ人は助けてくれないのだろうと思う。「世界一かわいい自分」なのだから助けてくれるのは当たり前だ。「世界一かわいい自分」の苦しみは他の誰とも比べものにならない。そう世界中の「世界一かわいい自分」を持つ人々が思う。だから、人と人はわかりあえない。絶対に。
だが、その「世界一かわいい自分」を持つ自分を冷静に見つめることができたなら。他の人々も、自分と同様に「世界一かわいい自分」を持っていると気付くことができたなら。
人と人とは、結びつくことができるのかもしれない。
己と同じところに嵌っていたふたりの少女を見て、陽子は何を思ったのか。ふたりの友を得て、これからどこへ行くのか。
陽子の物語ははじまったばかりである。
紙の本
ラッキーストライク
2004/01/20 23:04
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:湯渡 - この投稿者のレビュー一覧を見る
黄色の二本の線が引かれた電車の中から。
三人席の左端に座り、一冊の文庫を開いた。
この本を電車の中で
開くのもこれで四回目になる。
ゲンジツに浸かっていたくないとき。
アタラシイものをゼロから造るとき。
感情にパンチが足りないとき。
なんとなくタバコの銘柄を変えてみたとき。
両眼に映し出される一語一語が乱雑に重なりあわされた
記憶のフィルターで濾過され頭の裏へ画像として投影される。
一度も見たことのない仮想のセカイとは言えず、プレ現実セカイ。
所詮我国と片手で数えられる私の海外経験では映し出される映像は
たかが知れている。
一人一人のキャラクターから発せられるコトバが
自分自身の回顧に重なる。
ジグソーパズルのように一ピースずつゲンジツと入れ替える。
痛ささえ感じる隙のない筆力。
文庫にならなかったら手にしなかった一冊。
本を閉じカバンにしまいながら周りを見渡す。
改札に定期を通しヨメさんの待つ自宅へ歩を進める。
左手の先から銘柄を変える前の「ラッキーストライク」の
薄い白煙がゆれる。
40分弱の小さなゲンジツ逃避の終焉。
紙の本
少女たちは慶を目指す
2023/01/01 17:41
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:咲耶子 - この投稿者のレビュー一覧を見る
置かれた境遇を嘆いてばかりの二人の少女、二人はそれぞれの思いを抱えて景王陽子に逢うため旅立ちます。
二人の思いが独りよがりで、それを向けられる陽子が気の毒に・・・。