「honto 本の通販ストア」サービス終了及び外部通販ストア連携開始のお知らせ
詳細はこちらをご確認ください。
このセットに含まれる商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
あわせて読みたい本
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
この著者・アーティストの他の商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
紙の本
「真実の恋が」運命を分ける
2002/06/16 23:39
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:讃岐P太 - この投稿者のレビュー一覧を見る
表紙に釣られてふらふらと買いました。松村センセごめんなさい(苦笑)。
作者の松村さんは芥川賞作家だそうで、読みはじめてすぐに「ああ、賞作家っぽい筆運びだな」と感じた覚えがあります。——そうはいっても感覚的なもので、誰かと比較したとかそういうわけではないですが。
紫の砂漠が広がる土地に住むシェプシは、神の領域と呼ばれる紫の砂漠に強い憧れを抱いていた。自分の足でその紫の砂漠を歩き、あるがままを感じたいとそう強く願っていた。
——だが、シェプシはまだ子供だ。
この国では、生まれた村で七歳まで育てられると、子供たちは「聞く神」の元に集められ、それぞれ運命の親の元へ授けられる。
子供たちは、運命の親の元で七年間仕事を学び、一人前になる。
その後の七年は、恩返しの期間として運命の親のために働き、それが終わるとようやく大人と認められるようになるのだ。
恩返しの期間が終わるまでは、誰も自由に旅をすることはかなわない。だが、日々高まっていく、シェプシの砂漠への想いは押さえようがなかった——。
というわけで、砂漠への想いに突き動かされてしまう子供、シェプシが旅をするお話。
読んでみて驚いたのは、なんと SF だったんです。
初めて読んだときは、設定を飲み込むのに必死で、特に展開に気を配らず読み進んでいたんですが、中盤以降から急に SF チックな設定が目白押しになってきます。
——とはいえ音響盤については、描写を読んだ時点で、判る人には「ああ、アレのことだな」と、見当がつきますね。
SF 描写はともかくとして、この小説の魅力は他にあります。
解説でも指摘されているんですが、作者の松村さんはジェンダー問題に関して一家言持った方で、性差についての作者の考えが多く盛り込まれています。
#gender:生物学的な性別を示すsexに対して、社会的・文化的に形成される性別のこと。
その最たるものが、この星の人々は「生まれながらの性別」を持たない——という設定。
人々は、「真実の恋」に巡り合うまで性別がなく、「真実の恋」に触れた時点で「生む性」と「守る性」のどちらかの役割を与えられます。
生まれつき性別が決まっていることに疑問を感じている人には共感とともに憧れを感じる設定なんでしょうね。
こうあるべきと「押しつけられる性」ではなく、自分で「見つける性」というのは確かに理想なのかも。
しかし、物語の展開はシェプシの冒険をつづったものではなく、悲劇的で切ないお話です。
序盤の辺りは、正直読むのがしんどかったんですが、中盤以降は普通のペースで読めました。……ちょっと、長ゼリフに疲れる部分もありましたけど (笑)。
この文章を書くときに最初のほうをパラパラと読みなおしていたんですが、この小説が楽しめるのは、実は二回目に読んだときなのかもしれませんね。
「真実の恋」と「運命の子」の設定と、神話についての設定を理解できているから、物語の流れを純粋に楽しめるということかもしれません。
——ということで、時間のある人は断然二度読がおすすめです。
紙の本
透明で、せつない物語
2001/01/05 12:57
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:十夜 - この投稿者のレビュー一覧を見る
生まれながらに性別がなく、たった一度の真実の恋によって「守る性」「生む性」の性差が決定するひとびとが住む世界。その世界そのものである〈紫の砂漠〉のはての塩の村に生まれた丸耳のシェプシは、砂漠に詳しい巫女や老人から砂漠の神話・伝説を聞いては、高い岩場に登って紫の砂漠を眺めるのが何よりも好きな風変わりな子どもだった。砂漠を侵すことを禁じた神の戒めを知りながら、なおも憧れてやまない紫色の地平線。砂漠には謎がある。そしてその謎に関わる宝物をシェプシは持っていたのだ。三神のうちの一柱、聞く神がずっと探し続けているとされる光る音響盤。この秘密を抱えて、どうしてじっとしていられるだろう。だがそんなシェプシもまもなく「運命の旅」を迎えようとしていた。
子どもたちは七歳になると生まれ育った町村を離れ、聞く神に仕える書記の町で神の定めるところに従い、運命の親のもとへ授けられる。それから七年間は仕事を覚える期間で、続く七年間を運命の親のために働き、独立する。
運命の親が砂漠を渡る商人だったら、とシェプシは思う。そうでなかったとしても、独立した後に一度でもいいから砂漠のなかを歩いてみたい。だがそれはシェプシには、あまりにも遠く先の出来事のように思われるのだった。
そしてシェプシの運命の旅がはじまる……。
----------------
1993年に新潮社よりハードカバーとして刊行された作品の文庫版です。
男女の性差なしに生まれてくる子どもと、その後の性分化システムは解説にあるようにル=グィン『闇の左手』を思い起こさせますが、本書が決定的に違うのはその性差を決定づける「真実の恋」と呼ばれる瞬間が一生にただ一度、ただ一人の相手にのみ起こるということでしょう。これは詩人が歌う真実の恋の歌の数々を知ると、別に不思議でもなんでもないあたりまえのことのように、すとんと腑に落ちます。語られる感情の普遍性に納得してしまえば、むしろ何の不都合もないのでは、とさえ一瞬思えてしまいます。
そして極め付きが「静かに笑いながら生まれてくる赤ん坊」(P261)です。この驚きは忘れられません。物語から見れば枝葉末節の部分ですが……これには理想郷という言葉を強く感じました)
全体を通してみると、とても透明で切なくて痛い物語です。印象的な場面は数多いですが、光る音響盤の「声」は不意打ちでした。いちばんお気に入りのシーンかもしれません。
初出(URL)http://www14.big.or.jp/~touya/books/200010.html#desert_violet
紙の本
ジェンダーとアイロニー
2000/12/19 22:31
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちゃぼ - この投稿者のレビュー一覧を見る
『真実の恋』を知るまでは性別が決定されないという世界で、禁断の地とされている砂漠の外れ、大人たちが塩を採ることで生計を立てている塩の村のシェプシは、誰よりも砂漠を眺めていることが好きな七歳の子供だった。『聞く神』の持ち物であるという光る音響版を砂漠で見つけたシェプシは、それを村の巫祝に見せ、神の元に返す約束をしていた。ある日、シェプシは砂漠からやって来た『聞く神の使い』である詩人と出会い、自分の運命が大きく転換することを知る。
タブーを犯し砂漠を旅するシェプシは、やがて自分を見つめる数々の眼差しに気づく。砂漠を旅することでこの世界の秘密を知り、そして自分のために払われた犠牲を知った時、シェプシの心は壊れてしまうのだった。
この作品は『ジェンダーに対する反旗』という著者お得意のテーマを掲げつつ、血縁による家族制度に対するアイロニーを示し、何よりも『人を見つめる眼差し』の大切さを説く。家族や血族の結束に対するアイロニーに対しては、アレルギーを起こす読者もいるかもしれない。だが、考えてみてほしい。家族は血の繋がりではない。人を見つめる温かい眼差し、人を思いやる愛情こそが家族を保証する唯一無二の存在であるはずだ。我々の世界では、どんな社会においても血縁による家族制度と血族による結束が正義として受けとめられている。しかし、そんな行き過ぎた家族制度が排他的な民族主義を支えているという事実に思い至れば、誰もこの世界の掲げる理想を笑うことはできなくなるだろう。
紙の本
運命に従えば
2001/01/22 19:47
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:にむまむ - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本は昔、婚姻の為、いいなづけ制度によって、生まれた時点で、運命として、生きていく事になるのだが、この本の主人公も一定年齢にして運命づけがなされている。様々に展開していく中で、いきいきとキャラクターが動いていく。これは著者の文体のうまさだと思う。ただ やたらと話が枝分かれしすぎている面もあるように思える。主人公の年齢にあわせて心の動きを追いかけているので、読み物としてはかなりでしたが、引き込まれるように、読めてしまう。運命に従ってしまうのか、それともしきたりや諸事に対して疑問を持って生きていくのかが、読んでいくと一番興味深かったです。