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紙の本
共生の法律学 (有斐閣選書)
著者 大谷 恭子 (著)
様々な人々が共に生きるということとは。障害者・病気の人々・心を病む人々・少数民族・外国人・部落・性的マイノリティーらの人々が一歩ずつ権利を広げてきた道筋を紹介。事実を知る...
共生の法律学 (有斐閣選書)
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商品説明
様々な人々が共に生きるということとは。障害者・病気の人々・心を病む人々・少数民族・外国人・部落・性的マイノリティーらの人々が一歩ずつ権利を広げてきた道筋を紹介。事実を知ることから始めよう。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
大谷 恭子
- 略歴
- 〈大谷恭子〉1950年生まれ。早稲田大学法学部卒業。弁護士。日本女子大学・東京女子大学非常勤講師。著書に「死刑事件弁護人」など。
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紙の本
障害者、外国人、ホームレス、同性愛者。私たちは様々なマイノリティの人々と「共に生きる」ことができるか
2001/01/12 18:15
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投稿者:挾本佳代 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「共生」という言葉を聞いて、何を真っ先に思い浮かべるだろうか。そもそも「共生」とは、生物のある生存様態を示す時に用いられる生物学の用語である。それを大きく分類するならば、相利共生、片利共生、寄生の3つになる。文字通り、異なる種が相互に、または一方が他方に、栄養や生息場所といった利益・利便を与えることによって生存している状態を「共生」という。
例えばアリとアブラムシ。アリがアブラムシから出る甘い分泌物を食べる一方、アブラムシはアリに冬の間卵をその巣の中で保護してもらい、春になると羽化した幼虫を植物の葉の上などに運び出してもらう。アブラムシもアリの出す分泌物を栄養源にしている。アリとアブラムシの間には、互いの種の「生命」をかけたギブ・アンド・テイクの作用が働いているのだ。その状態は、アリとアブラムシで1個の「生命」を維持しているといってもいい。「共生」とは、生物界で作られた実に巧妙な生存様態なのである。
別に「共生」とは昆虫種だけに限った生存様態ではない。例えばチベット高地の遊牧民と羊はどうだろう。遊牧民が高地で生きていくためには、羊の肉、乳、羊毛、糞は絶対に欠かすことができないものである。だから遊牧民と羊も「共生」関係にあるといえる。
著者が本書の中で問題にしている、いわゆる社会の中でマイノリティと呼ばれる人々はマジョリティの人々と「共生」関係にあるといえるだろうか。私たち日本人は社会の中で、身体障害者、精神障害者、HIV感染者、少数民族といった人々と1個の「生命」を介して「共生」しているだろうか。私たちは外国人、部落の人々、異なる宗教を信仰する人々、同性愛者、女性に対して差別することなく「共生」しているだろうか。
著者は「共生」を「共に生きる」という意味として用いている。だから先の述べた生物学的・人類学的用語としての「共生」とはちょっと違う。本書では、マイノリティの人々もしくはこれまで虐げられてきた人々が、社会の中で差別されることなく、マジョリティの人々と何ら変わらない生活を送るための法律が模索されている。
著者が現役の弁護士というだけあって、マイノリティの人々の差別問題が具体的な裁判を通して語られている。雑誌に無断でアイヌ民族の人々を掲載し、あたかも現在は滅んでしまったかのように取り扱った出版社をアイヌ民族が訴えた裁判。同性愛者への差別の解消を目的とする団体が公的な宿泊所で拒否されたことから、東京都教育委員会を訴えた裁判。セクハラを受けた女性が職場を訴えた裁判。朝鮮国籍を隠して就職活動をしていた学生が、在日朝鮮人だと明確にしたら内定を取り消されたことを訴えた裁判など。これらの経緯をみていくと、依然としてマイノリティに対する社会の根強い偏見や差別があることがわかる。決して過去の話ではない。マジョリティのマイノリティに対する無思慮や無理解が偏見を生み、それが社会的な差別へと発展してしまっている。その現状が本書には凝縮されている。社会で人間が、本質的に「共に生きていく」のはそう簡単なことではない。
理想的には、人間を含む地球上のすべての生物種が「自然」と「生命」を介して「共生」関係にあることである。そうすれば社会問題はもちろん、環境問題なども起こるはずがないからだ。こうした大きな視点からも「共生」を考えてみてはどうだろう。 (bk1ブックナビゲーター:挾本佳代/法政大学兼任講師 2001.01.13)