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商品説明
峡谷行きのバスに乗り損なった根山は、予定より早い時刻に東京へ戻った。時間つぶしに入った美術館で声をかけてきた見知らぬ女は「のぶ子」と名乗り…。名匠・泡坂妻夫が仕掛ける謎の万華鏡。表題作ほか10編を収録。【「TRC MARC」の商品解説】
収録作品一覧
風神雷神 | 9-34 | |
---|---|---|
筆屋さん | 35-56 | |
胡蝶の舞 | 57-98 |
著者紹介
泡坂 妻夫
- 略歴
- 〈泡坂妻夫〉1933年東京生まれ。家業の紋章上絵師の仕事を継ぐ。「DL2号機事件」で幻影城新人賞佳作、「乱れからくり」で日本推理作家協会賞、「折鶴」で泉鏡花文学賞、「蔭桔梗」で直木賞受賞。
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紙の本
この本のデザイン、その核となる紋を泡坂自身が手掛けている、そう知るだけで頭がさがる。おまけにその内容ときたら、切なさと秘められた官能が何ともいえなくて絶品
2003/08/18 20:49
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
夫の書棚に、泡坂妻夫がデビューした頃の、幻影城という書店からでたフランス装の本があるらしい。ただし、どこに埋もれているかは分からないそうだ。その本、各頁をペーパーナイフで切りながら読むらしいが、惜しくてアンカットのままだというから、勿体無い。昔はこの装丁を知らない読者から、不良品だと苦情が相次いだというのだから、それもまた面白い。
この本も、違った意味で洒落ている。白磁を思わせる清潔な意匠の本の扉を開くと、「職人気質」「奇術の妙」「怪異譚」「恋の涯」の四つの部屋がある。そこには、室名にふさわしい数編の短編が綺麗に置かれている。カバーの紋の意匠は、いつものように泡坂自身の手になるものだが、実に華麗。佳城の全集本の紋も良かったが、今回の、磁器に金を乗せたような清潔感溢れる豪華さは、内容ともども絶品としかいいようがない。ちなみに出たばかりの文庫のデザインは、違った意味で華麗だけれど、紋の美しさと気品という点で単行本に敵わない、というのが私の印象。
衣紋掛けに掛けられた着物の紋。その高さが左右で異なっていることに気付いたことから、昔の恋の真実が浮かび上がる「風神雷神」。江戸時代、不思議な手妻に魅せられて弟子入りした男と昔の師の子供達との心の行き違いを描く「胡蝶の舞」、盆栽の写真を撮るうちに怪しい世界に惹き入れられて行く「思いの梅」。すれ違う心と、秘められた官能、溢れる和の情感。
『奇術探偵 曽我佳城全集』で推理小説ファンから最高の評価を受けた作家の短編集。人間の心の奥底に優しく光を当てながら、どこか艶かしい世界を描き出す。ユーモアあふれる亜愛一郎や、叙述に技巧の粋を尽くすヨギ・ガンジーシリーズでもない、男と女をしみじみと描く作品集。『蔭桔梗』『斜光』『折鶴』『ゆきなだれ』につながる作品だ。
今では連城三紀彦や赤江漠より、この人の文に濃密な情緒を感じてしまう。藤田宜永の『艶紅』もタイトルや扱う世界は似ているが、格が違う。ひょっとすると宮本輝より上手いかもしれない。ジャンルで本を買う人は、泡坂を知らないか、知っていても選ばないかもしれない。
でも、この人を読まない手は無い。下手な喩えだけれど、宝の山を前にして肝心のお宝に気付かないようなものだ。幻影城でのデビュー以来泡坂を追いかけているという夫のお墨付き。半村良と同じく、全集が出たら絶対買うべき作家の一人だそうな。納得である。
紙の本
こういうのを「職人芸」と呼ぶ
2001/05/25 01:33
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:政宗九 - この投稿者のレビュー一覧を見る
私がまだ古今東西のミステリをむさぼるように読み始めた頃、泡坂妻夫の「亜愛一郎シリーズ」に代表される初期作品に魅了されたものだ。が、そのうち普通小説に近い作品を中心に書くようになって「泡坂もつまらなくなったなあ」と思ったものである。しかしそれは、読者である私が「若い」だけだったのかも知れないな、と思えてきた。この短篇集を読んでの第一印象だ。
ミステリ的にはそんなに驚くものでもない。のだが、例え単純なトリックであっても「見せ方」というか、レトリックが巧いので、つい引き込まれてしまうのだ。この人の文章の巧さ、ということに(恥ずかしながら)今頃ようやく気付いたのである。特に「胡蝶の舞」、これは、もう職人芸の領域である。感動した。
かといってミステリ的に全然駄目かというと、そうでもなくて、例えば「凶器の消失」トリックが面白い「赤いロープ」、動機が初期作品を思わせる「比翼」「記念日」「好敵手」はお薦めである。「比翼」「思いのまま」には、思わずハッとするラストも待ち受けている。ハッとすると言えば「風神雷神」、さり気なくも衝撃的なことが二つ待ち受けている。
2000年の『曾我佳城全集』が話題になりすぎたのでこの短篇集にスポットが当りにくいだろうが、読んで損はない作品であった。