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「五年の梅」「霧の橋」と讀んできて、今囘はこの「喜知次」。
乙川優三郎の本はいつだつてしつとりとした餘情がある。
この作品は、一言で云へば、少年が大人に成長してゆく、いわゆるビルドゥングスロマンである。
藩内の派閥抗爭の中で、肝腎の行政が疎かにされてゐることに疑問を持つた主人公・小太郎は、家の世襲の「祐筆」職を嗣がずに郡方の職に着かうとする。
そして、土地改良のために、土木や、治水の勉強を始める。
少年から大人への移り變りは、樣々な出來事の中で、それとなく、時にははつきりと描寫されてゐる。
「ついさつきまで立つてゐた向う岸には、台助や猪平と過した安逸な日々があり、こちら側には道もない野がある。引き返すことはできず、これから先は自力でそれぞれの道を切り開いてゆくしかない。」
喜知次は小太郎の家に幼い時に貰はれてきた、血のつながらない妹に主人公がつけたあだ名である。
これが作品の題名になつてゐるのだが、喜知次もまた自分の決めた道を歩いてゆく。
ほのかな思ひをこの義理の妹に抱いてゐた主人公の氣持ちが、この題名にもあらはれてゐる。
2003年11月15日讀了
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読後感は、切なすぎるくらい最高です。全然、見当違いかも知れませんが、宮崎アニメを見終わったときの、何か寂しい感じに似てます。イイ本だけど、精神状態によってはツライです。
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題名のわりにこの喜知次はあまり登場しない、でもすごく重要…って最後に解説読んで、より納得…
大雑把に言ってしまえば、不条理で悲しい話。でも前向きで、盛り上がりはあまりないのに引き込まれる…だから好きなんだけど
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前回読んだ時代物、
藤沢周平の「蝉しぐれ」とイメージが被ったが、
読み進めるにつれ、
前者とは違う形の友情とほのかな恋慕が見えた。
大きな山場はないが、ジワジワと感じられるのは、
どうしようもない「身分」の差や不条理な政治的人脈。
そして切ない想い。
何より読み終えたとき初めてわかる、
タイトルの秀逸さ。
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今回は藩政などと少々難しい内容でした。そしてまたもや忍耐の美徳さを全面に出してくる内容で…。物悲しいのだけれど、そこを満たす空気に惚れ込んでいます。
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派閥争いの激しい、百姓が貧困に喘ぐ藩の、三人の若者の物語。
幼い頃から、最終的には主人公が四十代になるまで描かれます。
タイトルは、主人公が義妹である花哉につけた名前。
この妹は、そんなに登場してくるわけではないけれど、確かな存在感を持っており、確かに「ヒロイン」として息づいています。
ストーリィは、藩の改革がメインですが、最後にはヒロインである喜知次に帰結してゆくのです。
そのときのせつなさ、それでいて爽やかな読後感が、胸をいっぱいにしてくれます。
そして、この作者の文章のうつくしいこと。
ちょっとした描写も丁寧で、情景を思い浮かべることが容易です。
会者定離の物語……久しぶりに、こういう上質な小説を読んだ気がしました。
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財政難に揺れる東北地方の小藩を舞台に、祐筆と呼ばれる事務官僚の家に生まれた長男の成長を描く物語。閉鎖的な封建社会に反発を覚える少年時代から、喜知次と主人公に渾名される義妹との仄かな恋愛感情を絡めつつ、藩政の改革を目指す青年時代、藩を支える高等官僚として成長した40代の日まで、丁寧な筆致で一人の人間の成長が描かれる。
知人に勧められて手に取った初めての乙川優三郎氏の本。ハッピーエンドの物語ではないが、主人公の清々しい生き様からか、何とも言えない爽やかな読後感がある。青春です。
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派閥闘争が渦巻く東北の藩。小太郎(弥平次)は、抗争の犠牲となった猪平と自立心の強い台助との交流を通じて、武士として藩政改革に目覚める。友情と恋を絡め、若者の成長を描いた長編。
人生の苛烈さから言えば父を暗殺され復讐の鬼と化した猪平、人間的魅力から言えばしなやかに己の志を遂げた台助の方が主人公にふさわしい気がしたが、やはり善良で未熟な小太郎こそ最も身近に感じられた。
小太郎が義妹花哉(愛称・喜知次)に抱くほのかな想いの描写がなんともみずみずしい。最後まで二人が結ばれなかったのがやり切れない。
巻末の縄田一男の解説では、山本周五郎の『さぶ』を引き合いに出し、小太郎の意識を眼醒めさせ藩政改革へと向かわせる喜知次=花哉こそが主人公である、と述べられる。
しかし、「花哉が主人公」は言い過ぎであろう。魚の名でもある「喜知次」は、4人が幸福に過ごした時代を象徴する記念碑としての意味合いが込められた題ではないかと思った。花哉を指す固有名詞としてとらえるなら、ひたむきに生き、また周りをも生かす人間の尊さが示唆されているのではないだろうか。
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タイトルは「喜知次」だけど、内容は3人の若者の生き様とかの方が楽しかった。
幼い頃は身分に関係なく友達だったのに、世の中に翻弄されてそれぞれが望む望まないに関わらず違う道をたどっていく。
でも心の中にはそれぞれの友への思いがあって、この3人の友情に関しては読み応えがあった。
喜知次はタイトルだけど、あまり印象に残らなかった。かな?
可哀相ではあるけれど。。ね。
それにしてもこの時代の背景を読むにつれ、今の日本の権力闘争にばかり力を注ぐ政治家達とダブってしまった。
今の日本にも維新のような革命が必要なんじゃないか。という気がした。
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まず冗長さが目についた。もっと短くすればよりスピーディーで濃厚さが生まれたと感じる。
そして主人公と表題の人物との関係の浅さ。解説者は何処か必死になってその関係性を説いているが、少々無理がある。少し前に読んだ『蝉しぐれ』と比較すれば一目瞭然。
何にしろ良作を最近読んでしまったのがこの作品の運のつき。
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義父からもらったシリーズ。
初めて読む作者。直木賞候補作品。
江戸時代小藩の裕福な武家の嫡男の成長を描いていた。
おもしろかった! 他の作品も読んでみよ。
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藤沢周平の名作「蝉しぐれ」を思わせる作品です。少年三人と幼い恋の少女一人。主人公は藩の復興を目指し少年から青年へ。そして盛りを過ぎ始めた頃の少女との再会。物語りの大きな流れも似ていますし、全体を通して感じられる清冽でしっとりした雰囲気も似ています。
もちろん単なる物まねでは無く、一つの世界が出来上がり、素晴らしい作品になっています。
この人の文章はよほど私の性に合うのでしょうか、適度な湿度感と手触りの良さを感じさせ、物語にどんどん引き込まれていきます。
ただ、この作品の最後には大きな「傷」が有ります。最終章につなぐための伏線ですが、そのために丸々一章が安出来なメロドラマになってしまいました
そこさえ上手く処理できれば「蝉しぐれ」に比肩し得る作品になれたかも。とても残念です
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予備知識なしに勧められて読み始めたら引き込まれて2日で読了。東北の藩の元服前の侍の若者3名の青春群像劇、藩の改革派と保守派の確執、暗殺陰謀、義妹への想い、といったプロットが巧みに織り交ぜられて話がすすむ。複数の登場人物のキャラや置かれた立場の描き方も秀逸。広げた風呂敷を本の終盤に一気に回収する手法も見事。いい話だった。
オークランドに飛ぶ飛行機を成田で待ちながら読了。
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上町63マスター推薦本
付箋
・喜知次 ありふれた魚 成魚はアカジとも呼ばれ
・五年、六年先のことがひどく遠いことのようにも、すぐそこにあるようにも思われた
・酒はゆっくりとやれば体にも馴染むし味わいも深くなる
しみじみとそんな人生もあるのかと一筋の愛を貫いた女性の強い気持ちを感じることができた
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身分は違えど仲の良い少年3人の成長、藩内派閥抗争による父親の死と仇討ち、兄と義妹の恋心、この3つの軸が絡み合った長編大作、411頁、一息に読了。 乙川優三郎「喜知次(きちじ)」、1998.2刊行、2001.3文庫。3つの軸ではありますが、主題は、12歳の日野小太郎(後の弥平次)と6歳で日野家に養子に来た義妹・花哉(かや)(小太郎に喜知次と呼ばれていた)の2人の「浪漫」に間違いないと思います!