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紙の本
考えるきっかけを与えてくれる
2001/06/08 18:17
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投稿者:安原顕 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は『週刊文春』に連載中「ニュースの考古学」の、500篇近い時評コラムの中から「小論文の作成に供しやすい82篇を厳選したもの」である。大半は週刊誌や単行本ですでに読んでいるが、彼の書くものは、考えるきっかけを与えてくれるので再読した。全体は「基礎編 小論文を書く」「実践編 何をどう書くか 1文化論及びエッセイ風に」「2時事論文として」から成っているが、ここでは書き下ろしの冒頭の文章、「キーワードに反応せよ」「メディアは偏向していると思え」を紹介しておこう。著者は、ハワイのホノルル沖で起こった米国原子力潜水艦グリーンビルと、愛媛県宇和島水産高校の実習船えひめ丸との「衝突事故」(九人が行方不明)を俎上に乗せ、読者に「キーワードに反応せよ」と書く。グリーンビルには16人の民間人が乗船していたが、その内の2人は浮上訓練の際、操舵席に坐って浮上レバーを操作した。そして著者は、この民間人らは「戦艦ミズリー保存会のメンバー」との情報に反応できたかどうかが「勝負の分かれ目」と書く。戦艦ミズリーとは1945年9月2日、この甲板上でマッカーサー元帥と外相重光葵が降伏文書に調印した船だ。著者は日本軍の真珠湾奇襲から50年後の1991年12月8日、ハワイで行なわれた「真珠湾奇襲50周年」の行事に出席、ついでに戦艦ミズリーも見学する。というのは、50周年を期してこの戦艦、解体されると発表されていたからだ。5階建てのビルに相当する甲板までの階段を、汗を吹き吹き登りながら著者は、1945年夏の東京湾で、隻脚の重光葵がステッキを頼りに重い義足を引きずり、喘ぎ喘ぎ、長い階段を登った姿を想像する。ようやく甲板に辿り着いた重光は、コップ一杯の水を所望するが拒否される。アメリカではいまなお、日本軍に奇襲された12月7日(米国時間)を「汚名の日」として記憶し続け、保存会のメンバーらの努力で解体を免れた戦艦ミズリーは、「卑怯なジャップ」の奇襲を忘れぬための記念碑になっている。著者はこうした背景をまず押さえた上で、「故意に事故を起こしたのではないにしても、近くにいてもかまわない。どうせジャップの船なのだから」との気分が、艦内のゲストたちに横溢していたのではと想像する。最後に著者は「デフレ・スパイラル」にも触れ、日本人は金の使い方が下手だと書く。GDP(国内総生産)は500兆円、その内の300兆円が消費、さらに100兆円は「物語消費」(贅沢品)に使われているが、この「物語消費」を、さらにしろと提唱する。しかし、ぼくに言わせれば、無教養かつ超貧乏な日本人にとって、この贅沢品の消費ほど難しいものはないような気がする。ちなみにぼくは、ハイエンド・オーディオに蕩尽している。