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商品説明
思想は現在といかに格闘しうるか。旧来の論文中心のスタイルを排し、思想家の現在的な魅力を対談、エッセイ、新訳テキスト、豊富な図版で浮き彫りにする、ヴィジュアル版入門書。シリーズ2冊目ではマルクスを取り上げる。【「TRC MARC」の商品解説】
収録作品一覧
マルクスと哲学 | 今村仁司 著 | 1-10 |
---|---|---|
いまマルクスの可能性を問う | 三島憲一 対談 | 11-39 |
ヘーゲル弁証法と哲学一般にたいする批判 | マルクス 著 | 43-69 |
著者紹介
今村 仁司
- 略歴
- 〈今村仁司〉1942年生まれ。東京経済大学教授。著書に「アルチュセール」「交易する人間」「ベンヤミン『歴史哲学テーゼ』精読」など。
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紙の本
思想の不毛の時代にマルクスの多様な可能性を探る
2001/07/09 15:15
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:佐々木力 - この投稿者のレビュー一覧を見る
マルクスなどは、ソ連邦の解体以降、時代遅れになっただけではなく、犯罪的な役割を果たしたので何で問題にされるのか、と考える向きが現代日本の圧倒的な思潮なのではないだろうか。このような思潮を前提として、世は競争至上の声と景気浮揚の期待で満ち溢れている。が、その競争で落ちこぼれた者がまったく沈黙しているならともかく、抵抗の声を上げるようになったら、いったいどうなるのか。そして、景気の浮揚を待望するまでは、たとえば、倒産や失業を必然とする社会とはいったいなんなのか。私たちの科学技術や、社会はそれほど貧しく程度が低いものなのか。こういった問いに、人気の小泉内閣のブレーンや、民主党の指導者がはたして答えうるというのか。
本書は、マルクス主義というよりは、マルクス個人の思想の多様な可能性を探った論集である。清新な文献案内や、編者の今村氏と三島憲一氏の対談など気骨ある反時代的な試みが数多く企画されている。マルクス入門としてはこれで十分、といった見方もありうるかもしれない。私はそういった考えを必ずしも否定しはしない。だが、私は本書に何かしら抜本的な物足りなさをも感ずることを余儀なくされた。
本書の企画には良くも悪くも編者である今村氏のマルクス観が反省しているようだ。今村氏の巻頭の「マルクスと哲学」がそのすべてを予知している。今村氏は、けっして単純にマルクスを哲学者としてとらえているわけではない。それはそれでいい。しかし、マルクスを21世紀初頭のいま、それもソ連邦も消滅してしまった現代の観点から、現代的思想家として蘇生させるのには成功していないように思われる。そのためには、ヴィヴィッドに近代資本主義と格闘したマルクスのアクチャアリティを甦らせねばならないのだが、本書で提示されているマルクスはいかにも観念的でしかない。
けれども、その文章の迫力ではっと思わず緊張させる文章が本書には収められている。藤本義一氏の「マルクス理論を信奉する」と題するエッセイである。藤本氏とは、あのテレビなどでのなじみの有名な関西のタレントで作家である。大学時代、マルクス経済学を学んだ彼は、近年、自らの理論に自信がもてなくなり、マルクス主義を放棄した学者たちの軟弱さに腹が立っているという。その理由のひとつとして、勤労者の賃金の設定の仕方にはマルクス経済学の搾取理論がものの見事にあてはまる現実が続いているから、というのである。藤本氏はエッセイをこう締め括っている。「マルクス経済理論は揺ぎもしないものだ」。私は、藤本氏の意外な気骨につい拍手してしまった。ともあれ、本書はマルクスへの入門書としておおいに役立つ。現実との接点を欠いた理論など宗教と同じ、たわごとにしかすぎない。その接点の探索が読者に委ねられているのが惜しまれる。 (bk1ブックナビゲーター:佐々木力/東京大学教授 2001.07.10)