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  • カテゴリ:一般
  • 発行年月:2001.6
  • 出版社: 新潮社
  • サイズ:20cm/164p
  • 利用対象:一般
  • ISBN:4-10-447101-1

紙の本

いつか王子駅で

著者 堀江 敏幸 (著)

雲を引いて駆ける名馬の幻影さながらに、一両編成の逃げ馬が、王子駅に向かって走り去る−。都電荒川線の沿線に根をおろした人びとと、あてどない借家人の「私」の日々を描き出す、滋...

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いつか王子駅で

税込 1,430 13pt

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商品説明

雲を引いて駆ける名馬の幻影さながらに、一両編成の逃げ馬が、王子駅に向かって走り去る−。都電荒川線の沿線に根をおろした人びとと、あてどない借家人の「私」の日々を描き出す、滋味ゆたかな長篇。【「TRC MARC」の商品解説】

著者紹介

堀江 敏幸

略歴
〈堀江敏幸〉1964年岐阜県生まれ。明治大学助教授。著書に「おぱらばん」(第12回三島由紀夫賞)、「熊の敷石」(第124回芥川賞)、「郊外へ」「書かれる手」「回送電車」など。

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評価内訳

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紙の本

文学ってこういうものだったのよね

2004/02/08 23:54

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ろこのすけ - この投稿者のレビュー一覧を見る

三島由紀夫賞受賞の「おぱらばん」、芥川賞受賞作品「熊の敷石」読了以来、すっかり堀江ワールドの虜になってしまった私。

どの作品をとってもその「文学」の品格に酔わされる。
品格ある文の運び方、プロットの組み立て方の妙もさることながら、それに相反するかのように、登場人物は下町の市井の人であったり、移民だったりと、登場人物は隣人のような温もりを感じさせ、優しいまなざしの堀江文学に読者は魅了され、いつのまにか虜になっていく。

さて、この長編「いつか王子駅で」は
正吉という「左肩から上腕にかけてびっしりと彫られた紺青の龍の刺青が湯上がりに火照った肌からひときわ色濃く浮き出し、小柄な身体を拭くために両腕を動かすたびところどころ金を蒔いたふうに龍の胴体がうなって顔見知りの常連客たちをも黙らせるほどの迫力がある…」

という昇り龍の刺青がある印章の彫師、正吉が渋い味をだし冒頭から読者への呼び水を引き出す。

そして主人公の大学講師
「私」が昇り龍の正吉さんと知り合ったのは、東京の路面電車の走る町に越してきて、ちょうど半年ほど経った春先、偶然立ち寄った、定食も出すカウンターだけの小さな居酒屋「かおり」でのことだった。食後の珈琲を頼んだ「私」に、「居酒屋で珈琲を注文するたあ大した度胸だが、もずくを食ったあとに珈琲を飲むなんて無粋な真似は控えたほうがいいな」と声がした。「珈琲アリマス」とお品書きにあったので頼んだまでの話だが、男は一目見てその筋と思えたので黙っていると、彼も珈琲を注文しており、「なあんだ、あなたもですか」と言葉を返したのが始まりとなる。

そして堀江ワールドの別の魅力、本に関する情報が散りばめられていて魅力。
 詩人オーデン、横光利一、ジャック・オーディベルティ『モノラーユ』、島村利正『残菊抄』『清流譜』『奈良登大路町』『妙高の秋』、マーク・トウェイン、安岡章太郎『サアカスの馬』、岡本綺堂『半七捕物帳』、徳田秋声『あらくれ』、小林多喜二『蟹工船』、絵本『スーホの白い馬』などが素材として扱われていてそれを小説にからませて進んで行くあたりはもう見事と言うほかに言葉がみあたらない。

渋い魅力の刺青のある正吉が消えてしまったままになっていて小説が終わっていて、読者は一体彼はどうなったのだろうか?と続編をつい期待したくなる。

都電荒川線界隈の描写、競馬の回想シーン、本の感想、情報などを小説の中にからませて、どこを切り取ってもそこだけでも成り立つ匠わざ。
とにかく文体に品格があって、読ませる「文」。
筆力、文章の素晴らしさに痺れてしまう堀江ワールド。

文学ってこういうものだったのよねなどと思わず独り言がこぼれてしまう。

堀江さんってどんな人なのだろうか?
あってみたい…などともう恋してしまいそう…

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紙の本

荒川から淀川へ回遊魚はゆく

2002/08/09 16:30

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:栗山光司 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 王子界隈は水の匂いがする。無為に待つことの快楽の日々に住み慣れて、10年以上も逃げ水を追い駆け、逃げ馬となり、東の荒川ならぬ西の淀川に居を構えてから、追いすがってやって来た「いつか王子駅で」の叙情に溜息ついた。そんな自分の想いを重ね合わせて読めば、消えた正吉はここに西の水の畔に徘徊していると、自分に向かって指呼していた。島村利正の「残菊抄」から菊花賞へと飛躍するこの本は雑誌「書斎の競馬」に連載された芥川受賞作品「熊の敷石」で表舞台に登場する前の作品であるが、単行本として発売されたのは受賞後で8章から11章は書き下ろしである。そうであって見れば、受賞前後の事情がこの本にある彩り与えているのだろうか。 王子駅から尾久の荒電線路沿い辺りがこの小説の舞台である。ここに登場する人々は川端康成「川のある町の話」の物語にも、私の住んだ90年代の王子の風景にも徳田秋声の「あらくれ」にもすんなりと、鎮座する。おそらく、昭和を遡って通り抜け、そこから延々と持続する下町の人々の「旋盤ハ二刃ヨリ芳シ」との瀧井孝作に横顔がそっくりな職工の林さんの美意識が咲ちゃんにも受け継がれている磁場だからであろう。翻訳の請負仕事で賃稼ぐ、先が見えずとも、安岡章太郎の「サアカスの馬」のごとく(まアいいや、どうだって)と確信犯的につぶやきつ、舞台に登場するや、大化する背中の窪んだ馬の栄光は「私」にとって、大切にしまっておいたテンポイントの物語とオーバーラップする。文壇にデビューする作者の衒いを感じるのは私の穿ち過ぎか。 銭湯で健康ぶらさがり器にぶらさがり、健康に留意しなくてはとつぶやく昇り龍の刺青した彫り師の正吉さんと知り合い、居酒屋「かおり」で女将さんの点てた珈琲を喫しながら、問わず語りに回遊魚としての同族の匂いを嗅ぐ。知的極道の「私」はある日、ちんちん電車に乗り込んだ正吉さんを追い駆けて見失う。正吉さんを思いやりながら、「私」は段々と王子の狐の綺(あや)に深入りしてゆく。
 中井久夫によると下町とは「ありあわせの入れ物に土を盛って家々の前に植木を生やすところ」とあるが、ひとつ加えれば、近くに銭湯があるところであろう。ここ、私の淀川のベットタウンは駅前に41階のマンションを建造中であるものの銭湯は一軒もない。ただ、菊花の競馬場は目と鼻の先である。週末ともなれば、馬に夢見る男達で混雑する。その中に正吉さんがいるかも知れない。私の王子も風呂なし鉄骨アパート、安家賃であった。隣人達はマレーシア、中国、イラン、フィリピン人と、一人暮らしの年寄り日本人達であった。思えば、彼等も流れて流れる回遊魚であった。そうなれば、私も回遊魚の哀しき宿命でこの王子に帰って来るかもしれない。 淀川に合流する桂川、木津川、宇治川の三川合流公園は飛鳥山に負けない桜舞う地であるが、マイルスの「いつか王子様がやって来る」にスイングしながら、やっぱし、王子を懐かしんでいる。先日、この近くの県で行政が日本語を話せないガイジンの団地入居応募を拒否するといった下町の美意識に反する悪常識がまかり通ったが、いつの間にかような排他がこの国のものになったのであろうか。 全球化(グローバリズム)を体現するのは町屋であり下町であり、長屋風情の「連ある街」は蓮座に花咲く花の町である。この小説の風景を堪能するには田村隆一とアラキーの共著「花の町」が良い。三ノ輪から早稲田までの電車通りのあれこれが過去でなく今の風景として迫ってくる。

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紙の本

ふむ。

2004/06/05 14:28

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:yama-a - この投稿者のレビュー一覧を見る

 「今までこの作家を知らなかったとは」という無念さよりも、「この作家に巡り合うのが、この作品の良さが解るこの齢になってからで良かった」という安堵感のほうが強い。
 割合だらだらした文体は、時々読み返さないと繋がりがよく分からなくなったりするが、文章自体は非常に堪能で語彙も豊か。たまに辞書を引かなければならない単語に出会うほどである。
 1章から7章までは、初出が『書斎の競馬』という雑誌だったそうで、なるほどこの小説は競馬小説であるとも言える。が、実のところ競馬小説などではなくて、競馬の話はいっぱい出てくるが、競馬小説という形式を借りた何かなのである。同様に、文中に島村利正をはじめいろんな小説が登場するが、その手の近代小説評論のようで実は近代小説評論の形を借りた何かなのであり、路面電車や王子近辺の写生文の形を借りた何かなのである。それが何なのかはよく判らないのだが、ただ、その何かこそが堀江敏幸の言わばエッセンスであることは間違いない。
 凡そ浮世離れした感じの文章で、ストーリーも一向に完結しない。話はどんどん逸れて行く。主人公自体がバスや路面電車や自転車に乗ってどんどんどこかへ逸れて行く。書かれるテーマもころころ変わる。そして、競馬や近代小説や路面電車などの風景から自在に逸れて行く、その逸れて行き方こそが堀江敏幸なのではないかなどと、妙な感慨を覚えてしまう。妙に心に残る小説なのである。妙な書評になってしまったが…。

by yama-a 賢い言葉 のWeb

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紙の本

引き摺られるような名調子の文体、心地良い人情のあったかみ、文学オタクの土台からにじみ出てくる滋味が魅力。あまり知られていない本をさりげなく教えてくれるのもいい。

2001/09/06 12:13

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:中村びわ(JPIC読書アドバイザー) - この投稿者のレビュー一覧を見る

 書き出しの10行めまで句点がない。そういう特徴をアピールするような、いかにも「文学」「文体」を意識させる文章は鼻についてイヤなのものだけれど、堀江さんの文章には自然な調子が備わっていて、ちっとも嫌味がない。むしろその名調子で一気にぐいっと引き摺られていく。引き摺られていった先には、魅力的な人物たちが待っていて、その人物たちが語り始め、動き始めると、もうとりこにさせられてしまうという魅力ある小説なのだ。

 そんな人物の一人目として語られていくのが正吉という昇り龍の刺青がある印章の彫師で、腕がいい。人もいい。印章の彫師なんて渋い職業だなあと思ったところで、私は先日読了したばかりの和田芳恵という情痴小説家を思い出す。独自の死生観で書かれた不思議な小説世界は、堀江さんの散文『回送電車』で教えられたものだった。なるほどなあと納得。事ほど左様に、堀江さんの文章には、日本文学や海外文学のディープなところまで読み込んでいる人ならではの滋養がにじみ出している気がする。教養というものは、このように輝きを放つのだと思う。

 その正吉と親しく付き合うようになるのが、この小説の主人公で、大学の非常勤講師兼翻訳業。住まいの周辺を昼間ぷらぷら歩く余裕があるものだから、徐々に地元に根を張っていく。地元というのが都電荒川線の走る王子界隈で、飛鳥山、滝野川、尾久といった地名が出てくる。

 王子生まれで家が馬の仕事をしていたという人に話を聞いたことがあるけれど、電車の車庫で見た夕焼け、花で覆い尽くされた飛鳥山(今も花見のメッカ)、その横の緑豊かな渓谷みたいなところなど故郷らしい故郷があった場所らしい、半世紀前には…。その故郷の片鱗を知る地元の人たちは、人情味あたたかに今も庶民としてのささやかな暮らしに喜びを見出しているのである。主人公と正吉が出会った居酒屋「かおり」の女将さんしかり、その店の常連さんしかり、主人公の大家さんである町工場を経営する米倉さんしかりである。

 この本を読むと、物語や文体だけで「ああ、文学の正統って確かにあるんだな。堀江さんはそういうところの薫陶を受け、それを引き継いでいくんだな」という感じがする。品がよく味のあるものを読ませてもらったという満足感も高いが、もうひとつこたえられない魅力は、本に関する情報である。
 詩人オーデン、横光利一、ジャック・オーディベルティ『モノラーユ』、島村利正『残菊抄』『清流譜』『奈良登大路町』『妙高の秋』、マーク・トウェイン、安岡章太郎『サアカスの馬』、岡本綺堂『半七捕物帳』、徳田秋声『あらくれ』、小林多喜二『蟹工船』、絵本『スーホの白い馬』などが素材として扱われている。

 また、競馬の名レース、名馬についての記述も楽しめる。テンポイントの最期を見守った人たちからの手紙には泣ける。そんな意外な魅力も加わっている。堀江さんに、手の内をもっともっと明かしてもらいたいものだと思う。

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紙の本

これぞ文学という気品にあふれており、いく通りにも楽しめる佳品

2003/03/31 14:20

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:katu - この投稿者のレビュー一覧を見る

たとえば、すぐれた市井小説として楽しめる。
時間給講師や翻訳の仕事をしている主人公は、「電車道」と呼ばれる都電荒川線沿いのアパートに住んでおり、荒川線の魅力をこう述べている。

しかし荒川線の真骨頂は、庚申塚あたりから飛鳥山にかけての民家と接触せんばかりの、布団や毛布なんぞが遠慮なく干してある所有権の曖昧なフェンスに護られたながいホーム・ストレートにあり、(中略)渋滞でないかぎり東北新幹線の高架下までの公道との併用軌道を相当な横Gを乗客に課しながら下っていくわずか1,2分の下り坂がもたらす原初の快楽を満喫できるのは、あの由緒正しい花屋敷のジェットコースターを除いてほかにない。

主人公を取り巻く人びとも魅力的だ。紺青の龍の刺青のある、人呼んで昇り龍の正吉さん。正吉さんと知り合った小さな居酒屋「かおり」の年齢不詳の女将。主人公が間借りしている部屋の大家さんである米倉さんとその中学生の娘の咲ちゃん。主人公は家賃を値引きしてもらう代わりに時々咲ちゃんの家庭教師も務めているのだ。米倉さんの工場の唯一の従業員であるベテラン旋盤工の林さん。林さんはその信条を「旋盤ハ二刃ヨリ芳シ」という警句にして仕事場に貼っている。

根無し草のような主人公の、つかず離れずといった彼らとの交流が読んでいて心地いい。物語の途中でふっと姿を消してしまう正吉さんの「不在の在」とでもいうべき存在感も全編をおおっており印象深い。

たとえば、すぐれた競馬小説として楽しめる。
本書の1章から7章までは「書斎の競馬」という雑誌に掲載されていただけに、なかなか「濃い」描写も堪能できる。たとえば、居酒屋「かおり」の名前が昭和49年の春、阪神の芝1600メートルを駆け抜けたタカエノカオリから来ていること正吉さんから聞いているうちに、キタノカチドキといった野武士のような馬が好きだったと、回想モードに入っていく。

そういえば、タカエノカオリもキタノカチドキと同年に活躍して、どちらも武邦彦が乗った馬である。忘れもしない、私が生涯初の当たり馬券を出したのはその年の神戸新聞杯で、場外馬券売り場にいく親父の知人に頼んで連勝複式を買ったあのレースでも、わが野武士は中団から最後の直線にむかったとたんに口を開け、もはやこれまでかとやきもきさせたものだ。

競馬に疎い人間にも、クモワカ、ワカクモ、テンポイントの「母子三代にわたる演歌さながらの筋書き」には惹きつけられるだろう。

たとえば、すぐれた書評小説として楽しめる。
パラフィン紙かけの名人である筧書房という古書店の主人筧さんの話の章では、筧さんから買った島村利正の『殘菊抄』を紹介し、一方で咲ちゃんの宿題の題材として安岡章太郎の『サアカスの馬』が登場する。黒電話の修理を頼んで電話会社の人間を待っているだけの曇天の気ぶっせいな日に読んでいたのは徳田秋声の『あらくれ』であるし、デパートの古書展で「財布の中身と相談し、生活の成り立ちぐあいを慎重に計算したうえで選んだのは」やはり島村利正の『清流譜』といった具合である。
引用もたっぷりされているので、渋い作家たちの作品をつまみ読むことができる。

町並みの描写、人と人とのふれあい、競馬の回想シーン、本の感想などが、渾然一体となり、ひとつの物語として流れていくので、とくに前述のようなことは気にせずに流れにまかせて読み進めてゆけばいい。ただ、読み終えてあらためて気づくのは「いつか王子駅で」というタイトルが、その物語の終わり方もあいまって、余韻を残す実に味のあるタイトルであるということである。主人公は「いつか王子駅で」どうしたいのか、誰に逢いたいのか。そんなことを考え始めたときにはもう読者の胸の中には続編ともいうべき新たな一編が紡ぎだされていることだろう。

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紙の本

読書の喜びがここに

2002/09/14 20:51

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:山本 新衛 - この投稿者のレビュー一覧を見る

▼路面電車の走る町に住んでいると言うと、必ず、ステキですねと返ってくる。何がステキなのか、深く問いつめないのがつつましい紳士の努めというものだ。▼広島に移り住んで約一年。路面電車を特別視する感覚からようやく解放されつつある。チンチン電車という単一的なイメージから、運転手の気分で暴走もするたくましい本質が見えてきて、より一層の愛着をもつ。▼堀江さんというと、衒学的な匂いが鼻につくと敬遠するむきもあるかと思うが、初の長編である本作は、東京で奇跡的に生き残った路面電車・都電荒川線沿線を舞台に、気っ風と人情を描いて、過去のイメージからは遠い。▼精米店の老主人は、普段はただ「でんしゃみち」と言っている荒川線を、気心の知れた客には、独特の節回しで「おーでん」と言い換えている。といった観察から、おーでんの沿線解説がまたスゴイのだ。▼「荒川線が特殊なのは、専用軌道が圧倒的に長く、しかもかなりのスピードを出すという一点にあるのではないかと思う」と喝破する視点に思わず感動すらする。その描写力に痺れること間違いなし。▼学者の描く下町ものでは、四方田犬彦の『月島物語』(集英社文庫)も見逃せない一冊である。併読をお薦めする。▼生粋の江戸っ子であった故・野口冨士男は、生前、「早稲田からでている路面電車を都電と言っちゃいけません。レールに囲いが付いた都電なんて、ありゃしない。あれは<王子電車>というんです」と言ってはばからなかったそうだ(小林信彦『出会いがしらのハッピー・デイズ』より)。ここにもこだわりの御仁がいた。▼私が広島に左遷された2002年に。

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紙の本

都電荒川線ぶらり各駅停車の旅

2001/08/01 08:59

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:たけのこ - この投稿者のレビュー一覧を見る

 ちょっと気どった感じも鼻につくが、読みだすと銭湯あり、町工場あり、都電荒川線の荒川区内から北区王子にかけての、あの独特な下町感覚をぞんぶんに味わうことができた。これは路面電車の走る町に引っ越してきた翻訳家で大学非常勤講師の〈私〉が出会う、街と人びと(コミュニティ)の物語なのである。

 近所の居酒屋で知り合って、競馬の話で意気投合した印章彫り職人の〈正吉さん〉。食後に本格的なコーヒーを出してくれる、その居酒屋「かおり」の〈女将さん〉。土地柄にあまり似つかわしくない近代文学関係を専門とする古書店主の〈筧さん〉。そして〈私〉が住む部屋の大家で、みずからも腕のいい旋盤工である町工場主の〈米倉さん〉と、娘の〈咲ちゃん〉。たった一人の従業員で、職人気質の〈林さん〉。故郷を「棄てて」東京に出てきた〈私〉に、都市の人間関係はとてもここちがいい。

 しかしある日〈正吉さん〉は、大事な届け物があると言って出ていったきり姿を消してしまう。〈私〉に〈正吉さん〉が消えたゆくえを探すあてはなく、ただ帰りを待つしかない。その間、〈筧さん〉の店で手に入れた小説を読みふけったり、〈咲ちゃん〉が学校から持ち帰った国語の教材(安岡章太郎の「サアカスの馬」)の解釈について思いをめぐらせたりなどしている。また連想はサーカスの馬から悲劇の名馬・テンポイントにおよび、1978年1月、小雪がちらつく京都競馬場での日経新春杯の事故から死亡にいたるまでの経緯が熱く語られる。

 専用軌道を疾走する荒川の路面電車、消えた〈正吉さん〉、名馬テンポイント号、そして陸上競技大会で200メートル走に出場するという〈咲ちゃん〉……《職人の手仕事》であるとか、《下町人情・家族愛》とかいったものへのあこがれとともに、そこを《すり抜けて、駆け抜けていくもの》への愛着もまた、テーマの一つであるのか。
【たけのこ雑記帖】

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紙の本

文章の力とは凄いものだ。痺れること間違いなし。

2001/08/02 18:15

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投稿者:安原顕 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 『おぱらばん』(青土社)、『熊の敷石』(講談社)の世界が好きな読者は、痺れること間違いなしの、堀江敏幸、初の長篇小説『いつか王子駅で』が出た。全11章の内7章までは雑誌『書斎の競馬』(飛鳥新社)に掲載、11章までは「書き下ろし」とのことである。「やはり正真正銘の極道者だった時代があるのだろうか、左肩から上腕にかけてびっしりと彫られた紺青の龍の刺青が湯上がりに火照った肌からひときわ色濃く浮き出し、小柄な身体を拭くために両腕を動かすたびところどころ金を蒔いたふうに龍の胴体がうなって顔見知りの常連客たちをも黙らせるほどの迫力があるのに、まるで生きているようなその龍の昇天を助けようというのかひとしきり水滴をぬぐい取ると、脱衣場に備えつけてあるぶらさがり健康器の下に立って鉄棒競技の開始を告げる姿勢で気をつけをしながら顔をあげ、ひょいとバーにつかまったままながいこと背筋を伸ばしているのだったが、無事に着地をすませると、順番待ちをしている様子の客たちにたいしてなのかそれとも自分自身にたいしてなのか、健康に留意せねばな、と低くつぶやき、そういうときだけ留意なんて言葉を使うものだから、まわりの人間はふっと感心してしまうのだった」。小説の冒頭だが、見られるように実に息の長いフレーズで始まる。「私」が昇り龍の正吉さんと知り合ったのは、東京の路面電車の走る町に越してきて、ちょうど半年ほど経った春先、偶然立ち寄った、定食も出すカウンターだけの小さな居酒屋「かおり」でのことだった。食後の珈琲を頼んだ「私」に、「居酒屋で珈琲を注文するたあ大した度胸だが、もずくを食ったあとに珈琲を飲むなんて無粋な真似は控えたほうがいいな」と声がした。「珈琲アリマス」とお品書きにあったので頼んだまでの話だが、男は一目見てその筋と思えたので黙っていると、彼も珈琲を注文しており、「なあんだ、あなたもですか」と言葉を返したのが始まりとなる。後に南雲正吉という名と知る。堀江敏幸が大の競馬ファンだとは知らなかったが、本書には競馬の話も頻出し、中には感動的な逸話も出てくる。また、古書店蔦書房で買った島村利正の短篇集『殘菊抄』(1957、三笠書房)の話になるや、例によって志賀直哉の序文付き、解説は師瀧井孝作といった説明も入り、堀江敏幸文学の真骨頂を示しもする。4章は、「私」が間借りをしている大家の米倉さんと、時折勉強を見てやっている大家の娘の咲ちゃんの話になり、ここでも娘に語る仕方で、安岡章太郎の短篇「サアカスの馬」の話も出てくる。5章は「正吉さんが消えてから一週間が経った」で始まり、結局正吉さんは最後まで行方しれずのままで終わるのだが、読者としては、「風の便り」程度でいいので、「正吉さんのその後」につき、ちらりと触れて欲しかった。小説のラストは、「私」と大家夫妻が、咲ちゃんの200 メートル競争を見ているシーンと、阪神競馬場で競争馬が疾走するシーンとをダブらせたところで終わっている。この終り方、とてもきれいに纏まっている。狐につままれたような不思議な小説だが、すべて超リアルゆえ、読者は納得してしまうのだ。文章の力とは凄いものだ。

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2006/02/25 09:31

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