紙の本
放火、ナイフ殺人などの陰惨な事件が続く街で、ホームレスと少年が出会う。矢口敦子の新しき代表作
2001/10/03 22:16
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:葉山響 - この投稿者のレビュー一覧を見る
矢口敦子は特異な推理作家である。そのことは家族をテーマにした秀作『家族の行方』(第五回鮎川哲也賞最終候補作)や『人形になる』(女流新人賞受賞作)などの作品を読むと明瞭に感じ取れるだろう。ミステリと文芸の境界に位置するような作品を得意とする彼女だが、『償い』は文芸としての側面は勿論のこと、ミステリとしても彼女の最良作と呼べる仕上がりを見せている。
あまりにも辛い過去に耐え切れず、医師としての自分を捨ててホームレスとなった男。彼は火災の第一発見者となるが、その火事は放火の可能性が濃厚だった。街では障害者、高齢者などの「社会的弱者」ばかりを狙う連続ナイフ殺人をはじめ、ホームレス狩りやウサギ殺しなどの陰惨な事件が続発しており、刑事は男に捜査の協力を求める。一方、男は図書館でひとりの少年と出会うが、この少年が後に男を凄まじい混乱と苦悩の淵に叩き込むことになるとは予測できなかった——。
これまでの矢口敦子は、エキセントリックとまではいかないが、変わった性格あるいは変わった境遇に置かれた人物を多く描いていたという印象がある。本書にも「人の心の悲しみが声となって聞こえてくる」と語る不思議な少年が登場するが、その人物造形は以前の矢口作品の登場人物たちよりも、かなり厚みを増しているように感じられた。少年や主人公のほか、中年の刑事や若き警察署長の造形にも味があり、一人ひとりの輪郭がくっきりと立ち上がっている。主人公の過去をゆっくりと浮かび上がらせる展開も効果的で、もともと展開の上手い作家だが、とりわけ今回は気迫が籠もっているように感じられた。
また、本書はミステリとしても丁寧な処理が見られて好ましい。気付いてしまえば簡単なことだが、強烈なインパクトにより真相とは違った方面に目を向けさせる詐術が効いている。
すべてが丸く収まるハッピーエンドが用意されているというわけではないが、闇の中に一筋の光明を与えるようなラストも暖かな印象を残す。エモーショナルな力作であり、矢口敦子の新しき代表作と呼ばれるべき作品だろう。 (bk1ブックナビゲーター:葉山響/ライター 2001.10.04)
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医師は子供の病死と妻の自殺を経てホームレスになり、郊外の街に流れ着く。ある火事をきっかけに巻き込まれてゆく連続殺人事件の
犯人は、かつて自分が命を救った少年ではないのかと苦悩する医師。二人の絶望と救いとは…。
個人的にはオチに微妙にしっくりいかんものがあるのだけれど、他の話も読んでみたくなる位には面白かった。読後感が悪くなかったからかもしれない。
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妻子を失ってホームレスになった元エリート医師。
かつて彼が救った少年は、孤独な「殺人鬼」になっていた?
どうしようもない人生の孤独が漂います。それでも人は生きていかなければいけない・・・。
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妻と子を亡くし、エリートから転落、ホームレスとなった日高は、
今までの自分を捨て、当ても無く町をさまよう日々を送っていた。
そんな時、日高が塒とする町でいくつもの殺人事件が起こった。
刑事と知り合いになった日高は探偵の役目を与えられ、
いろいろと調べているうちに、
日高がかつて誘拐犯から命を救った少年と出会う。
15歳に成長したその少年もまた、心に深い闇を抱えていた。。。
そして日高は、もしかして彼が犯人では?と疑問を抱くのだった。
自分が救った命が、殺人鬼と化していたのか。。。?!
複雑な思いで、事件を探る日高。。。
果たして真相は。。。?
日高の過去が少しずつ明かされていくのも気になるし、
明るく振舞いつつも陰のある少年も気になるし、
弱者が狙われる殺人事件も不可解。。。
すべてが、読者をひきつけるので、いっきに読めました。
感動のミステリーです。
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読みやすかった。
本書はミステリーって感は少なかったかな?
スローテンポで読み終えたって感じです。
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初めて読む作家さん。サクサク読めます。ミステリーって感じではないかな。
なかなか普通におもしろかった。
2009.3.21
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主人公、日高英介のキャラクターが良い
幸福? 不幸?
人は最後のときには、幸福でなけりゃ、笑って死ねれば、どんな人生にマイナスがあったとしても、そこですべてプラスに逆転するんだ。
どんな人間だって、価値がないといえば言えるし、あるといえばいえるものだ・・・
「どうして救急車を呼ばなかったんだ」「他者の心を傷つけたものは、どうやって裁かれるべきなのだろう」「僕の罪はどうやって償えばいいんだろう」
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大学病院に勤め、出世レースの真っただ中にいた『日高英介』は、家庭を顧みることなく仕事に没頭していたあげく息子が病死し、妻が自殺した。ホームレスとなった日高は、かつて幼児を助けた町で火事に遭遇し警察の取り調べを受けることとなる。一風変わった老刑事と知りあいになった日高は、この町で多発する事件にかかわるうちに、13年前自分が助けた少年と再会する。
以降、内容に触れます
何か過去のありそうな野宿者の男が火事遭遇するところから話は始まります。まだ数十ページを読んだだけですが、「これは面白そうだぞ」と直感しました。そしてそれは裏切られることなく、ぐいぐいと読み進めていけました。やはり登場人物に魅力があると違いますね。
自分の子より患者を優先した結果息子が病死し、不用意に責めた妻が自殺してしまう。しかも、命を救った患者が結果的に酷い障害を患うことになった現実に打ちのめされ生活を、個人を捨てた男が、かつて医者として一度だけ無償で助けた少年『草薙真人(まこと)』と再会する。他人の鳴き声が(心の)聞こえるという真人は「不幸な生なら死んだ方が幸せだ」と主張するものの優秀な好少年で、日高が思うように二人のシーンはとても温かでした。なので一層芽生えた疑念が当たらないように願ったくらいです。真人もだけど、日高の心情を思うとやるせなくなっちゃうから・・
結局のところ、最悪の想像は外されましたが、真っ白という訳でもなく・・まあ罪に問われるとしたら友人の一件だろうけどそれも曖昧な書かれ方だしね。
過去に性犯罪の被害者になりかけ、命は助けた(助けられた)のもも、事件の影響で家族の状況は悪化し、お母さんは精神を病んでしまってるし・・ほんと切ない。彼らが悪い訳ではないのに、ちょっとした落ち度はあったかもしれないけど、責められるべきようなことではないはずなのに、被害者及び家族の人生が狂わされるのは、ほんとうにやるせないです。
「どんな人であっても、不幸の真っただ中で死ぬなんて、そんな悲しいことさせちゃいけないよ」「生きることが償いだ」一度自分を殺してしまった日高の言うことだからより響きます。この再会が前へと進むためのものになったのが救いです。
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医師からホームレスになって、連続殺人事件を調べることになる
って内容が面白いかなと思ったんだけど、
実はあんまり記憶に残っていない...。
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内容(「BOOK」データベースより)
36歳の医師・日高は子供の病死と妻の自殺で絶望し、ホームレスになった。
流れ着いた郊外の街で、社会的弱者を狙った連続殺人事件が起き、日高はある刑事の依頼で「探偵」となる。
やがて彼は、かつて自分が命を救った15歳の少年が犯人ではないかと疑い始めるが…。
絶望を抱えて生きる二人の魂が救われることはあるのか?
感動の長篇ミステリ。
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真人は犯人なのか、最後まで日高と一緒になってどきどきした。
にしても日高さん、元医者か、てっきり元刑事かと思った。
会話の応酬が的確すぎ。
好奇心で動くといっても積極的すぎなような気も・・・。
次々と明らかになる人間関係が複雑に絡み合いまくってて
とくに真人の事件の後日談はちょっとつらすぎ。
泣き声が聞こえるとゆーのは彼にとっては本当なのかも。
あらゆることが悪い方に悪い方にいっちゃってて
なんでこーなるんだーっと叫びたくなるほど。
重い荷物を背負ったまま歩き続けるしかない。
真人も日高も。
でも不幸なら死んだ方がまし、と思ってしまうのも確かにあって。
生きることこそ償い。
でも償いきれることなんてきっとない。
それでも生きてていいんだと
人はどうして思いたいのか。
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中盤はおもしろい。
しかし後半はちょっと無理がある展開だったかな。
なんか読了感はもうひとつ。
“ひとの体を傷つけたら罪になるけど、心を傷つけたら罪になるのか”
の作者のメッセージは、あまり響かなかったです。
日高、真人の心があまり重く感じない。
そのほかの人の心も普通かな。
いや、今、異常すぎる事件が多いので相対的に話中の人たちの心が大変にみえなくなったのか・・・。
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少し前にNHK BSプレミアムで放送されたドラマの原作。エリート医師からホームレスに転落した主人公を谷原章介が演じ、最近の地上波では少なくなった重苦しいストーリー。
序盤から中盤にかけては引き込まれたものの、後半は個人的には少し残念な感ありでした。
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「人の心を殺しても、罰せられないのですか?」。絶望を背負って生きるホームレスと、15歳の「殺人鬼」。二人の魂が、救済される日はくるのか?
かなり、重い内容の小説だった。でも、だれもが、「これでよかったのだろうか?」、「相手を、傷つける言動を、とったのではないだろうか?」と、後悔することがあるだろう。傷つけたり、傷ついたり、それもまた、「人間」と、「猿」との、違いのひとつかも?しかし、最後に、主人公と、少年が、「大切なもの」を、見つけることができて、よかったと思う。
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生きることが償い。意外な結末。主人公二人は、これからも辛い思いを抱えながら、でも生きて行くんだろうなあ。
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医師をやめ、野宿者となった主人公日高は、幼少期に助けた少年と再会する。二人の周りで次々に起こる死亡事件。自殺か他殺か?犯人は誰なのか?
そして、日高と少年が直面する償い、それはただ生きることだった。
テレビドラマ化された作品ということを読み始める直前に知りました。
なので、主人公日高は、ドラマの配役谷原章介さん以外には思えず、読み進めました。
重いテーマでしたが、随所に散らばる伏線に、先が気になり、一気読み。
なるほど、の最後、読後感は良かったです。
続編があるとのこと。
それもまた読んでみようと思います。