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紙の本
とても滑稽な「自由」の探究
2002/06/30 10:31
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:あおい - この投稿者のレビュー一覧を見る
ジェイムズ最後の完結した長篇小説にして、その最高峰といわれる複雑な小説。が、難解難解といわれているわりに、読みはじめるとこれはコメディである。めちゃくちゃ面白いというかかなり笑える。翻訳もいいし、これは『鳩の翼』よりもオススメできるんじゃないかと思う。
ジェイムズは自作がまったく読者に理解されていないと思っていたらしく、自分の作品にしつこいくらい注釈や解説を加えているのだが、そういう作家にありがちなことに、もっぱら作家的な視点から執拗に批評を行っている。ジェイムズのもっとも関心のあったキーワードは「伝統」あるいは「習慣」だったようである。あるいは「伝統」によって形成される「習慣」と、そこでの個人の倫理、あるいは自由の問題と言い換えてもいいかもしれない。近代小説史の復習になってしまうが、個人の優位が客観性のレヴェルで崩壊するのに併せるかのように小説の語りに「視点」という方法論的な概念を意識的に導入したのがジェイムズであり、その方法論が純化・過激化されて「意識の流れ」につながるわけなのだが、ジェイムズは寧ろ「語り手」という荒唐無稽な概念に機能的に注目している。面白いのは、この機能的な注目が、彼の「習慣」と「自由」の主題系と実に緊密に関係しているところである。非人称の語り手が「透明ではない」(何らかの習慣に属している)というのがジェイムズの複雑さであり、そこで言葉の自由と人間の自由とが「同じもの」として探究される仕組みになっているのだ。それを読まずしてジェイムズを読むことは出来ないが、同時に、その探究を洗練されたドラマ(僕には前述したようにそれは「喜劇」の要素が強いように思われるのだが)として提出していることも忘れてはならない。