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商品説明
大正リベラリストの良心を現代に生かし、社会的行動に進み出た稀有な作家・広津和郎の評伝。彼はどうして松川裁判の批判にその晩年を捧げたのか。その由って来る道筋を、出生の時期まで「後戻りして」探る。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
坂本 育雄
- 略歴
- 〈坂本育雄〉1928年東京生まれ。慶応義塾大学文学部卒業。高校教諭、鶴見大学文学部教授等を務めた。著書に「広津和郎論考」「夏目漱石」など。
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紙の本
卓抜な批判精神でリベラルな生涯を貫いた廣津和郎のみごとな七十年
2001/11/06 22:16
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投稿者:近藤富枝 - この投稿者のレビュー一覧を見る
子供の時から私は廣津和郎の名を知っていた。なぜなら叔母が本郷菊富士ホテルに嫁いでいて、いつも下宿人の廣津和郎のことを話していたからである。彼は前後九年にわたりホテルを仕事場として使っていて、ホテルからは家族同様に思われていた。
叔父叔母をはじめホテルの人たちは廣津さんを尊敬し大切にしていたけれど、一つだけ困った廣津さんのくせを言っていた。それは女性関係にだらしのないことで、かなりさまざまのトラブルがあり、彼がホテルを去ったのもそれが原因と聞かされている。
私は『本郷菊富士ホテル』を書くときに、廣津和郎の松川裁判における真実追求へのあの努力の尊さと、女性関係の複雑さと矛盾なく受け入れることができず苦しんだ。そして今でもその疑問は消えていない。本書こそそのことへの解答を与えてくれるものと予感してひもといたのである。
廣津の文筆活動は翻訳からはじまるのだが、若き日の彼の選んだ作品がすでに松川裁判批判に赴く萌芽を持っていたという著者の指摘は鋭い。なかでもチェホフの『六号室』を廣津は特に重視していたという。裁判の間違い、裁判官や警察官や医師への不信、個人の人格は認められず、無罪潔白な人間が市民権を奪われたり、罪人にされたりする…という『六号室』の問題提起はそのまま松川事件をはじめ当時多発した再審事件につながるものである。さらにこれは現代の世相の問題点と酷似しているではないか。
若き日の『六号室』などの翻訳、その後の評論や私小説などを通して、廣津の貫いたリベラリストとしての姿勢を著者は細述している。と同時に宇野浩二、芥川龍之介、志賀直哉との友情を描くことも忘れない。
本書により日本の近代にさらなる汚点を加えさせなかった廣津のあまりに見事な生涯を再認識することができた。青春の日の恋の彷徨はリベラリストとしての彼の一面と理解しなければなるまい。 (bk1ブックナビゲーター:近藤富枝/作家 2001.11.07)