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紙の本
総論賛成、各論反対
2001/11/04 12:01
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投稿者:小田中直樹 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ちょっと前だけど、今の三十代以下の人々は支払った分の年金を受け取れないって新聞記事を読んだことがある。僕はまだ三十代なので、つまり、支払い損組に入るわけだ。でも、最近、新聞であるイギリスの経済学者が「下の世代は上の世代が残してくれたものを利用して生活してるんだから、支払い損って側面ばかり強調するのは不見識だ」みたいなことを述べるのを読んで、それも一理あるって気もした。年金とか保険とかの社会保障って、本当に難しい。しかも制度が複雑で、よくわからないときてる。こんな僕みたいな社会保障の素人を読者に想定して、社会保障の沿革と概略を簡潔に説明し、今後の課題を指摘し、それを解決するための方法を提唱するために書かれたのがこの本だ。
著者の竹本さんによれば、社会保障を含めて、制度は与えられるものではなく人々が作り上げるものだ。だから、皆が社会保障の素人って状態はまずい。社会保障は僕らのための制度だから、それについての基本的な知識を共有し、皆で議論し、問題点をクリアしてくことが必要なのだ。そんな基本的な姿勢にたって、竹本さんは日本の社会保障を「森を見て木を見る姿勢で記述」(二四三ページ)した。社会保障は、分野で見ると医療、年金、福祉の三つに、目的で見ると社会保険と公的扶助の二つに、そして財源で見ると保険方式と税方式の二つに、各々区別できるけど、この本はそれらのメリットとデメリットを数え上げ、そのうえで社会保障にとってもっとも大切なことは何かを考え、それに沿ったかたちで将来の社会保障のあり方を提示する。
この本のメリットは次の二つだ。第一、日本の社会保障について、全体的な見取り図を大まかに提示したこと。ここで僕が「大まかに」っていったのは悪い意味じゃなくて、「素人にもわかりやすく」って意味だ。年金制度を例にとると、賦課方式と積立方式の違い、厚生年金と国民年金の違い、厚生年金の一階部分と二階部分の違い、これらの違いが生まれた理由、こういったことを知っておくと、国会などでおこなわれる年金制度改革論議が何を問題にしてるのか、わかるようになるだろう。
第二、社会保障を考えるときに大切な点を明確に指摘したこと。たとえば、社会保険の目的は貧困に陥るのを防ぐこと、公的扶助の目的は貧困になった人々の生活を保障し、自立を促すことにある。サラリーマンを対象にする厚生年金が二階建てになってるのは、自営業者と違って、退職すると収入源がなくなるからだ。そして、社会保障制度にとって大切なのは人々を安心させることにあるから、人々が信頼できる制度か否かが重要になる。これを竹本さんは「国民の期待権」(二四二ページ)って呼び、社会保障の領域にふさわしい改革は、この権利を侵すような急進的なものではなく、漸進的で地道に積み重ねられる改革でなければならないって結論する。たしかに「信頼」の問題を抜きにした議論は、とりわけ社会保障を考えるときには無責任なものになるから、竹本さんの結論に僕も賛同する。
ただし、竹本さんが提示する具体的な改革案(消費税の福祉目的税化、民間活力の導入)には問題がある。民主社会では人々の合意が重要だって理由で社会保障に税金を投入するのを認めながら、民主社会では声の大きい人が勝ちやすいって理由で福祉目的税化を主張するなど、議論がぶれる。高齢化社会では所得税のひずみが大きくなるから消費税を社会保障の財源にするのは「十分根拠がある」(二一六ページ)とか、民間事業者は「効率的で質の高いサービス」(一六二ページ)を供給できるとかって主張するけど、そう判断する理由が書いてない。だから、具体的な次元の話になると、竹本さんが批判する「小さな政府」論との違いがわかりにくくなる。ちょっと説明不足。[小田中直樹]