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虹の天象儀 (祥伝社文庫)
虹の天象儀
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著者/著名人のレビュー
東京・渋谷にかつてあ...
ジュンク堂
東京・渋谷にかつてあった「五島プラネタリウム」の閉館。
プラネタリウムを支えてきた上映技師は、目の前に現れた不思議な少年に
導かれるように、昭和22 年にタイムスリップします。
消えゆくカールツァイス製のプラネタリウム。
キーワード「思い」を映す満天の星空、思わずほろりとして暖かくなるお話。
瀬名さんの本のもうひとつの特徴が「本が、別の世界への扉を開く」ことで、
この本を読むと織田作之助の世界につながるんです。
紙の本
プラネタリウムが作り出す星空の記憶。星空の記憶につながる「想い」。人間の思いの深さ、美しさが広がるSF。
2010/01/01 10:33
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者の作品は「パラサイト・イブ」「ブレイン・ヴァレー」など大作も多いのだけれど、この小品は小さいながら凝縮された美しさを感じさせるものである。bk1にも何年かに渡り幾つかの書評が書かれているのは、やはり感じさせることの多い作品であることのあらわれだろう。
2001年に閉館された渋谷のプラネタリウムという実在の出来事を題材にしてタイムスリップを扱っているのだが、プラネタリウムというのは「時間移動」させる手段としてはとても良い選択だと感じた。プラネタリウムは操作する者の思い通りの時間・場所の星空を再現する。見上げればその時間・場所にいるのとまるで同じ空間体験ができるし、そして、星空とはとても心を揺さぶるものであるから。
導入部、主人公のプラネタリウム解説の文章を読み、初めて親に連れられてプラネタリウムに行った時の事がまず鮮烈に思い出された。そして、星空の美しさなど最近は感じたことがなかったのに、美しさの記憶がはっきりとよみがえって来た。星空が美しいと感じるのは、とても原初的な反応のようである。たとえそれがプラネタリウムでつくられた星空であったとしても、星空は美しい、そう感じさせるものがある。
星空だけでなく、機械の美しさの描写も、とても読ませてくれる。昔見に行ったプラネタリウムも、本書に登場するものと同型のものであった。その形が表紙に描かれているが、あのボルトや歯車、ネジで組み立てられた、クモの脚が生えた宇宙船のようなとても「機械機械」した形も記憶に深く残っていて、主人公の説明にいちいちうなずきながら読んでしまった。
部品を解体しながら、装置の原理を説明していくところは、手作りの機械の美しさが伝わってくる文章である。解体していくと製作者のサインがあった、と言う記事の引用は、(実際にそうであったのだろうが)フィクションであっても機械好きには共感できるところではないだろうか。「ものづくり」の原点のような、職人の意気込み(この場合は日本人ではなくサインしたのはドイツ人なのであるが)があふれている。
プラネタリウムが作り出す星空の記憶。星空の記憶につながる「想い」。お話では作家の織田作次郎を登場させ、「思いは残る」と言う言葉から「人間の想い」へとつないでいく。「人の思いはどこへ行くのだろうか」と。
SF的な時間の錯綜が分かりにくい、と思われる部分もあるかもしれないが、さまざまな想いを起こさせる美しい作品である。
紙の本
瀬名秀明の提示する「生きる意味」
2009/03/29 22:56
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:悠々楽園 - この投稿者のレビュー一覧を見る
五島プラネタリウムがなくなる、というニュースは聞いた気がする。さほど思い入れのある施設でもなかったのでよく覚えていないが2001年のことだそうだ。この小説の主人公はその五島プラネタリウムで投影された星空を解説する人物であり、物語は閉館の日の最後の説明の場面から始まる。
彼は星空を、宇宙を、そしてプラネタリウムを愛していた。そして何よりも愛していたのは、カール・ツァイス製の投影機だった。彼にとって「投影機の仕組みを知ることは宇宙を知ること」と同じだった。
だからこそ、自らの手で閉館の準備を進めながら、彼の「思い」はその投影機に「残」ったのだった。その思いは、彼の前に生きた別の人間の残した「思い」と時間を超えて呼応する。そういう風に全く違う時代を生きた幾世代もの思いが受け継がれていく。
瀬名秀明は本作で、いつか必ず死ぬ運命にある人間という存在が生きることの意味の1つを提示している。「死んでも懸命に生きた思いは残る」。その思いが場所を変え、ときには形を変え、次の世代にDNAと同じように受け渡されていく。それは人の記憶にとどまらない。時代の風景やモノの中に--たとえばプラネタリウムの映写機にも--人知れず刻み込まれてあるにちがいない。このアイデアの素晴らしいところは子供がいない人--若くして亡くなった子供だって--にも生きる意味になりうるというところだと思う。
物語は、その残されてきた思いを逆にたどるように次々タイムスリップしていくSF小説とも読める。
戦争直後の昭和21年にタイムスリップした主人公は靴磨きの少年の肉体を借りている。その場面を読んだとき、なぜだか、とても恐ろしくなった。一列に並んで「磨きましょう! 磨きましょう!」と合唱し、客に蹴り上げられ、思わず逃げ出す主人公の少年。腹を空かし残飯を求めて廃墟の町をさまよう姿は、私にはとてもリアルに感じられ、「その時代に生まれなくて本当によかった」と思った。作者の描写の正確さのせいかもしれない。
正直に言うと、この小説のSF的な手法に気付くまでの前半部分はあまり面白いと思わなかった。もう少しで放り出すところだった。しかし、誰も助けてくれない切ない時代を生き抜く少年の姿がリアルに感じられた瞬間から、この小説はがぜん面白くなった。
表題の「虹の」の意味も、少なくとも私には、まったく予想できない形で明らかになる。科学的な素養の幅の広さに「へえー」と感服するばかりである。
紙の本
プラネタリウム・クラシックス
2001/11/02 03:18
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:渡部義弥 - この投稿者のレビュー一覧を見る
プラネタリウムというのは、不思議な装置だ。宇宙という人類未踏の場所を紹介するモダンなものなのに、不思議なレトロさが漂う。それも当然で、1923年にプラネタリウムは登場してから80年にもなる。テレビなどよりよほど古いメディアなのである。
本書は、モダン・レトロの象徴だった、東京渋谷にあった五島プラネタリウムが第一の舞台となる。そして、第二の舞台は東京への空襲で焼けた銀座の東日天文館、さらにバイプレイヤーとして夫婦善哉で有名な昭和10年代の人気作家、織田作之助が登場する。なぜ織田作かは未来の読者のために秘密にしておく。
本書は、上記のレトロな道具立てを使ったレトロ・ファンタジーである。しかし、読んでいくとクラシック(懐古)ではなく、クラシック(定番)なのである。主人公が語る枝葉はともかく、これはあらゆるプラネタリウム、ひいてはあらゆる表現装置の原点にも相通ずる。
小説に対して「学習効果」で評価するのは間違っているかも知れないが、少なくも、何かしらの装置を作り、あるいは使って表現をしていく人にはインプレッションがある作品だといえる。
もちろん、プラネタリウム担当者は必読であろう。古典はどの世界にも大切なのだ。21世紀にかかれた小説だが、プラネタリウム担当者にとっては、プラネタリウム・クラシックスである。
紙の本
時空を超えて
2002/03/07 10:09
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かずね - この投稿者のレビュー一覧を見る
閉鎖する渋谷の五島プラネタリウム。このプラネタリウムで投影機の整備と解説員をしていた主人公は閉館後のプラネタリウムで不思議な少年と出会います。そして、会いたい人の所へタイムスリップするのです。
「誰に会いたいですか?」と聞かれて私は時空を超えていったい誰に会いたいのでしょうか? タイムスリップすることで、1つの“思い”が心に残り、…その思いが現在につながっていく。とても不思議な巡り会わせの物語です。読み終わった後、小さな、そして暖かな感動が待っています。
紙の本
ノスタルジアを感じさせるプラネタリウム小説
2001/11/11 14:12
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:青木みや - この投稿者のレビュー一覧を見る
ツァイス型投影機が映し出す星空の美しさ、不思議さで多くの人々を魅了した渋谷の五島プラネタリウムは、2001年3月12日、惜しまれながら閉館した。投影機の技術者から解説者への道を歩んだ「私」はツァイス型の機能と星空に誇りを持っていたが、もはや解体に出すしかない。片づけようとしていた「私」のところに、プラネタリウムを見たいという少年が訪れる。
解説をする「私」に、少年は言った。
「古い機械を動かすと、昔にタイムトラベルするような気がしない?」
奇妙な感覚が「私」を包み、身体が大きく揺れた。
瀬名秀明の小説はこういう思い入れの強いものが似合うような気がする。プラネタリウムで映し出される幾通りもの星空はたった一台の投影機が担っている。今更ながらその性能はすごいことなんだなと知った。プラネタリウムの裏方である人々の夢や憧れがすごく伝わってくる。本書によって、星空が好きでプラネタリウムを愛し、カール・ツァイス投影機へを誇りにした人々の思いは残る。プラネタリウムとタイムスリップというネタはなにかノスタルジアを起こさせる。
ただ、動機付けの書き込みが弱いところがあり、織田作之助への拘りなど、ところどころ展開が唐突に感じられるのが惜しい。でも、この一途でひたむきなアンバランスさ(という言い方はおかしいけど)、が瀬名作品の魅力でもあるのかなぁと思う。もどかしさを伴うさわやかさ、かな。
【青木みや】
紙の本
思いが残る…
2001/11/21 12:47
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:セツナ - この投稿者のレビュー一覧を見る
どの角度からも、どんな星空さえも再現するメカニズムを備えた≪投影機≫という機械に込められた、知識と熱意が凄く伝わってくる。そして、そんな情熱と技術の高さに惚れ込み、技術者として丁寧に、心を込めて手入れをし続ける主人公。閉館まで一日も投影機の故障を理由に休むことなく動かし続けた、職人としての誇りが良い。
そんな彼が、時空を越えて旅する物語。織田作之助氏の作品に描かれたエピーソードと“思いが残る”という臨終の床で残したとされる言葉に翻弄され(?)昭和二十年前後の二つの時代を飛び交うのですが、どうも最初に時空を越えたときの周りの反応が薄い。しかし、日本最古の星図を見て興奮したり、投影機に触れ、直してしまうあたり、彼の思いが上手く出ていて、微笑ましい。
そして、題名にも使われている“虹”が夜空を彩るシーンでは原色の虹が、目の前に現れたように浮かんで来ました。
「思いが残る」この言葉の真実、そして、時空を越えた者の心が集約されていて印象的です。