- カテゴリ:一般
- 発行年月:2002.1
- 出版社: ソフトマジック
- サイズ:20cm/203p
- 利用対象:一般
- ISBN:4-921181-39-X
紙の本
ア○ス (レヴォルトコミック)
著者 しりあがり 寿 (著)
友だちがほしいという私のキモチはいつも誰かにつつぬけで、その誰かは私がトモダチにしたいと思う誰かを鳥につつかせたり…。剝き出しになる世界の悪意、無力感と戸惑いに襲われる「...
ア○ス (レヴォルトコミック)
このセットに含まれる商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
商品説明
友だちがほしいという私のキモチはいつも誰かにつつぬけで、その誰かは私がトモダチにしたいと思う誰かを鳥につつかせたり…。剝き出しになる世界の悪意、無力感と戸惑いに襲われる「私」の錯乱。『ユリイカ』連載。【「TRC MARC」の商品解説】
あわせて読みたい本
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
この著者・アーティストの他の商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
紙の本
これはホントに重要な本で、ヒザでまるまる猫にちなんでネコの本とする。
2003/06/16 23:08
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:アベイズミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
夜中に目が覚めることがある。
何かに、誰かに、揺り起こされて目が覚める。と、この所、理由や理屈で解釈しようとしていたけれど、もうやめにした。夜中に目が覚めることがある。それだけでいい。
久しぶりに、本当に久しぶりに、漫画読んで、震えた。痺れた。それがこの本である。受け取った分だけ返したい。それが出来たら、それをもってバラ色の人生としてもいい。そんなことを、今、本気で考えている。
アタマが痛い。こめかみも胃袋も脈を打ち悪寒とやらで体中がぞくぞくしている。夕方過ぎに行った銭湯のせいかもしれない。目を閉じて長いこと水にカラダを浸けていた。閉じた瞼は赤みを帯びて、世界がぐるんぐるんと音を立てて回り始めるのを感じていた。桶の音やら子どもの声やらが、ぐわんぐわんと歪んで聞こえて。さらに世界は音を立てて回り続ける。いつも、瞼が軽く痙攣を起こすまでそうやっている。そして、ゆっくりと目を開く。その度に世界は不思議で仕方ない。色を失ったこの世界は、本物だろうか? 目を閉じる前と、おんなじモノだったのか? ワタシにはすでに記憶がない。誰に確かめる術もなく、不審な目つきで辺りを見渡す、すっぱだかのワタシ。目を閉じる前の世界も、開けてからの世界も、何処か嘘臭くて仕方がない。その時の奇妙な感覚を今この本を読みながら思い出した。
随分遠回りをしてしまった。
感想を書くのが、私のコトバで書くのが、もったいなく。もちろんそれは、読み進めるのも同じで。わざと、うるさい部屋で本を広げる。話しかけられて少し休む。猫に、餌が欲しいとまとわりつかれて少し休む。何か飲みたくなって少し休む。ジャスミン茶とプーアール茶を一杯ずつ飲む。その間も面白いほど集中が途切れていない。むしろそうやって自分をじらす。じらしてやる。その度にこの本に引きつけられていくのがよく分かる。
TVで大好きな番組が流れ始める。邪道で悪趣味と言われた屏風絵が流れる。250年前のその絵の持つ、禍々しくさえあるそのエネルギーに、見入ってしまう。その色そのひだその顔付き。誰とも何とも調和がとれない。その絵のすさまじさに部屋ごとの空気が支配される。その空気が心地よい。頭痛はさらに激しさを増し。しかし、少しも意識は途切れず、読みかけのこの一冊を、目の端でアタマの真ん中でしっかりと捉えている。 私は片時もこの本から離れていないのだ。
この本は、少しあざとく作ってあるかもしれない。解釈されてしまう本なのかもしれない。意味を求められたり、そのために嫌われてしまう本かもしれない。
それでも、私はそれを良しとしない。触ってなぜて眺めて捲って。誘って誘われて。そうやってすべてを慈しんで読んでいくのがぴったりの本だから。
この本は美しい。すらっとした線と余白と書き込みとトーンの影とその配分と。それら一体が、くちゅくちゅに混ざり合って、単体では醸し出せない得も言われぬニオイを醸している。
そして、ワタシは分かってしまった。この本を読んで。ワタシにトモダチが出来ないのも。それでも欲しがるのも。出来たと思えばこの手で叩きつぶすのも。こんなに「さみしい」のも。ワタシのせいなんかじゃないってこと。ワタシのこのノウミソのしていること。頭蓋骨に閉じこめられたこの淋しいノウミソの仕業だってコト。
すがすがしい発見をして、意気揚々と連れ合いにこのからくりを打ち明ける。救いのない結論だねぇと彼が笑った。
そう、救いがない。だけど私は気付いてしまった。救いがないということは、本来とてもすがすがしく、笑い出さずにはいられないくらいに、スバラシイ事だってコト。
紙の本
若手作家最大のライバル、それはしりあがり寿だ
2002/04/16 22:15
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:安原顕 - この投稿者のレビュー一覧を見る
コミックは嫌いだが、「昨今の小説、あまりにつまらない!」と中条省平に話すと、さそうあきら『富士山』(小学館・一四五〇円)、しりあがり寿『ア○ス』の二冊を推薦された。前者は「樹海」以外、小説にもありがちなモチーフが多く、さほど感心はしなかったが、『ア○ス』には仰天かつ感動もした。過激でアグレッシヴな稀有なる小説、吉村萬壱『クチュクチュバーン』(文藝春秋)にも通底する悲惨で哀しく、暴力的で不条理に満ちた世界が描かれているからだ。
先日会った田口ランディさんも、この二作品、高く評価しており、『クチュクチュバーン』は、「現代の中高生の心象風景であり、彼らはこうした世界に暮らしていると日々実感しているのではないか」と語っていた。この時は『ア○ス』の方は未読だったので意見は訊かなかったが、おそらく『クチュクチュバーン』同様の感想を述べたような気がする。
『ア○ス』の主人公は日々「素っ裸」で過ごす痩せた女の子である。彼女は「友達」が欲しくて町に出るが、いつも、うまくいかない。
冒頭の「旅立ち」の文だけでも書き出しておくと、こんな具合なのだ。
〈その朝 私は… 目がさめたとたん ある重要なことに それはホントに重要なことであり これを思いついた朝を永遠にとどめるため わんわん まどの外でないた犬にちなみ「犬の朝」と名づけた。さて、部屋の中をはいまわる私は影ぼうしで カーテンに頭をつっこんで そこはたいへんホコリくさいことを確認 私はこうして私を私たらしめている その私のあいまいな記憶をたどると… 学校の体育館をすっぽりおおう巨大な白い壁や 毛がまばらな三人の男や(そのうちの一人は私を愛しているのに…)そーゆー全てのどーだかなんだかわからないもの。「さびしさである」 こーして私はいつも友だちが欲しいのだが そのキモチはいつも誰かにつつぬけで その誰かは、私がトモダチにしたいと思う誰かを鳥につつかせたり、階段の最後の段でつまずかせたり 醜悪な悪口をいいふらさせたり ケーキに毒をしこんだり 夢に出てきて首をはねたり つまるところ… 脳みそであった。
トモダチが欲しいのは私ではなく脳みそ サビシガリヤは ワタシではなくノウミソ。はてしなく、つなぎあうニューロンの白い手と手 だがやがて 頭蓋骨の暗い壁につきあたり 自分が暗黒の中にとじこめられていることに気がつく。「サビシサ」とは頭蓋骨の暗黒の中にほの白くたたずむ脳みそのキモチそのものであり 私なんかは脳みそに捧げる唄なんか作ったのであった。
かわいそうな 脳みそさん みんなと仲良くしたいのに せまい頭ガイコツにとじこめられて さびしくボーッと光っているラララ〜 脳みそは頭蓋骨からのがれられない 脳みそは頭蓋骨からのがれられない 脳みそは頭蓋骨からのがれられない(と考えて私は、壁に頭を三度打ちつける) こうして私は脳みそちゃんのトモダチ探しの旅につきあうことになった。あるはずのないドアをあけて〉。
どうです? 雰囲気くらいは分かってもらえましたか。これはストーリーだけだが、独特の「絵」と組み合わされたインパクトは、この百倍は凄いと思って欲しい。
しりあがり寿の描線は常に揺れ、震え、歪み、輪郭は滲み、顔や情景は曖昧、枠をはみ出しもする。そして、彼女を取り巻く日常は、凶器と死に覆われてもいるのだ。
この作品、ラストに「オチ」があるのだが、ぼくはこれは不要だったような気がする。理に落ちるからだ。その点が、ちょっと惜しいなと思った。