紙の本
葬制による創世。ファンタジィが現実にあるということ。
2008/10/07 01:45
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ねねここねねこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
牧野版、『オズ』。それはかように過酷で、そして残酷な美しいもの。
現実と空想世界とのリンク。ファンタジィはファンタジィであるゆえ美しく、現実は現実であるゆえ過酷である。
過酷であり、そして残酷。そして現実世界にファンタジィを垣間見たときから、残酷はその色彩を増していく。
湿度と粘度の増したもの。
色合いを牧野は暗色の赤で示した。
帰っておいで、ドロシー。
現実の隙間から漏れ出た、呼んだ声。
呼応する相補世界。
どちらがしあわせか、なんて、牧野にとっては自明のことか。
せかいにせかいをつくること。
創造、そして創生。あらたなるすべて。
終焉からなる、はじまりのとき。
現実がそして始まる。終えた旅から、残酷な現実が新たに生まれかわる。
醜さと、醜さとそして美しさ。自由を求める人間らしさ。
喜びも、怒りもそしてさびしさも。
劇画で戯画が語られる。戯れのなかからすべてが生まれだす。
二重世界のフェイクとリアル。残酷とやさしさもそして紙一重に。
かつてはすべてが不要だった。
ライオンも案山子もブリキの人形も、はじめて息ができるだろう。
力なきものの躍動と反逆。それは現実世界では、狂気の言葉で語られもする。
生まれかわる。創造と創生。創世の葬制。
やがて混沌へ秩序が生まれる。
とある契機で見出した、微小粒子の集合のように。
不規則なブラウン運動から、収縮し拡張爆発が生じるよう、混沌としての秩序になる。
生まれかわったせかいでは、すべてがやさしく、あかるく、昏く。
ドロシーはオズを夢みて笑っている。
ファンタジィの夢は現実で、残酷な混沌の美しさを描く。
紙の本
ドロシーはここにいる。血まみれのこの世界に。
2002/04/23 05:35
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投稿者:佐々宝砂 - この投稿者のレビュー一覧を見る
まず、平凡な三十代の主婦伸江が主人公として登場する。伸江はいつもの街でいつものように買い物をしようとして、いつのまにか異世界に紛れこんでゆく。しかし現実の伸江はどうやら発狂してしまったらしい。狂った伸江の内的世界での興奮に満ちた冒険と、現実での猟奇的な出来事が並行して描かれてゆく。……と説明しておこう、一応は。ほんとはちょっと違うのだけど、まだ読んでないヒトには内緒。
タイトルに「ドロシー」とあることからもわかるように、この小説は『オズの魔法使い』を下敷きにしている。オズの世界でドロシーが連れていたのはトトとカカシと臆病ライオンとブリキの木こりだが、伸江の道連れはもっとグロテスクで異様だ。コト(一応は犬)、ミロク(実は単なるホームレス)、クビツリ(実は首吊り死体からもぎとってきた腐った手首)、地蔵(実は<ブリキ人形>とあだ名されている痴呆老人)、この三人(?)とともに響子はオズノ王がいるという地をめざして進んでゆく。オズの世界に道標として黄色いレンガ道があったように、この異世界にも黄色い道しるべ(実は盲人用の黄色い点字ブロック)があって、そういう細かいお遊びもたのしい。
しかし単に『オズの魔法使い』グロテスク・バージョンというわけではない。異世界そのものが非常に魅力的で、へんてこりんなものがたくさん出てくる。雄も雌も裸の女そっくりのヒトニウマ、そのヒトニウマと人間との混血で頭のかわりにすぼまったイソギンチャクのような口を持つ唾女(つばめ)、傷つけると血液でなく漆を分泌するウルシビト……しかし、異世界での冒険と現実での出来事とが同時進行で描かれているため、読者は単純に異世界の楽しさを満喫するのではなく、幻想の裏返しである流血の惨事をも見せられることになる。最初のうちはいちいち舞台裏を見せられているような気がするが、実はそうではない。本当は何が起きていたのか? ということは、最後まで読まなくてはわからないのだ。
ラスト・シーンでは、サザエさんの主題歌にのって戦慄すべき血みどろの光景が繰り広げられる。今私は「戦慄すべき」と書いたが、正直なところ、戦慄しなくちゃいけないよねと思いながら私はちっとも戦慄なんかしなかったのだ。むしろとても愉しくてサワヤカで晴れ晴れ……してしまったのだった。あとがきで著者が言うには、「この物語を愉しいと感じるか恐ろしいと感じるかで、あなたのつらさの度合いが測れるような気がしないでもない」のだそうだ。もちろん、愉しいと感じるヒトのほうが人生つらいのだ。でも、私、そんなつらい生活送ってるわけじゃないけどなあ……すごくいい小説なんだけど、このあとがきだけは言わずもがなではないかしら。
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インパクト大。
どこにでもいる、むしろいすぎて怖い普通のオバさんを見る目が変わる。
血みどろファンタジー。
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筆者恒例、独特の世界観が面白い。
奇妙な世界に住む奇妙な人々を巡る奇妙な物語。
夢見る現実。
非常に味わい深いが、独特の文章は人を選ぶのも確か。
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『王の眠る丘』のようなファンタジー世界が良いです。主人公の内なる妄想世界と、現実とのリンクが面白かったので、終盤の展開はちょっと腑に落ちない感じがしました。でも、読み始めたら止まらなくなるほど面白いです。
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これ読んだの何年も前ですが、未だに印象に残っています。狂った主婦の妄想世界というか。
オズが大好きなのもあって面白さ満載でした。
まずオズのストーリーを知らないと面白さも半減かも。
痛い痛い主婦だけどそうなるまでの過程も面白かったです。
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これは珍しくふんわりした雰囲気が好きね。会社の色白デブ女があのモチみたのに見えてモチの方が可愛いわ。と気づいてしまいました。
ギャグっぽくしてるのが良かったなぁ。
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平凡な主婦が、ある日赤い靴をはいて不思議な世界で冒険する。筋はオズの魔法使いだけど、ホラー文庫というからにはそんなファンタジーな内容ではない。主人公の視点の世界と、現実でおきている事実を同時進行で読んでいると読んでいるこっちまで不思議な気分になってくる
☆一個ないのは、終わり方が個人的にはいまいちだったから
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ホラー。
オズの魔法使いをモチーフにしていても、仏教を主体にしちゃったので、どこが??ってところもあります。が、オズらしいです。
簪(かんざし)町に住む、平凡な主婦伸江。
ボケた義理の母の世話をしている彼女は、ある日義母から「小津(おず)さんから」といわれてハイヒールを貰う。
それを履いた彼女は妄想の世界に入り、殺戮を繰り返す。
ライオンという名前のついている老いた浮浪者。首吊り自殺をしようとしていたら、伸江に手助けされて殺された青年教師の手首(妄想世界ではクビツリという名で、アンデッドとして登場)、精神病院にいたらしいブリキ人形と呼ばれる体の動きの角張った老人。妄想の仔犬(餅みたいなスライムみたいな)コト。
妄想部分のファンタジーは生臭いながらも、無夜は好きだな。きしょいところがなんか良くて。現実よりも俗っぽい。
妄想世界の最大の敵非天を倒して帰還するのは伸江ではなくてドロシー。平凡に抑圧された主婦の妄想の集合体。それが帰還すると、主婦達は夫を殺しだす。
分厚いわりに(P491)一気に読める本でした。この種の世界が無夜は大好きなのでした。
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主人公が非現実の世界で成長する過程と相反して、現実の世界で巻き起こしている行為の残酷さの差が良かったです。
でもあのオチはいかがなものか。
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なんだか無性にタイトルが気に入ってしまった一冊。妄想電波系ダークファンタジー。ひたすら不気味で気持ちの悪い「オズの魔法使い」。だけど不思議に楽しい話だったりするのが妙。ていうかそう思ってるの私だけだったりして(笑)。
異世界と現実とがだんだん交差していって、妄想が現実に溢れ出す様はホラーだといえなくもないけれど。あえて「ダークファンタジー」という形容をしたい作品。
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虐げられる現実と独特なファンタジーをリンクしながら行き来する不思議な読書感の作品。
後半の展開の加速感がすごかった。妄想と現実が巧みに交差されていった先、妄想が現実を蹂躙する。
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角川ホラー月間。何だこの本?
一介の主婦が、ビールを買い忘れて買いに行く際、ふとめかしこんだドレスとハイヒールを履いてしまったところから、異世界に放り出され、元の世界に戻るため「オズノ王」を目指す。一方で…。
一方でってなんだ一方でって?となるのがこの本の醍醐味でもあり、よくわからないところでもある。
ネタバレにもならないだろうから書くと、異世界の「伸江」というドロシーの世界と、現実の方の「ライオン」というライオンの世界。どちらもで、「オズの魔法使い」を進行させようとする。どちらもナイフで首を掻っ切るような世界だが。
「伸江」の世界は、筒井康隆の影響なのだろうか、それとも「不思議の国のアリス」または「家畜人ヤプー」の世界なのだろうか。なかなか魅力的な世界であり、実は記憶であり。記憶をネタにするのであれば、もう少し門番だとか、過去の思い出などを具現化できなかったものだろうか。せっかく最初の方で、呪文的なものを作ったのも生かされずにいるのはもったいない。
「ライオン」の方は、ホラー文庫らしく、怖くはないが血がいっぱい出るような話。深さはないのだが、視点を「ライオン」にしてみたり「大和田」にしてみたりするので、非常に胡散臭くて、片側が見えないスリリングな展開となる。
しかしなあ、オチがこれでよかったのかなーと言うのが一番の難点で☆減点ポイント。また、全体にもうちょっと丁寧な表現で引っ張ってくれないかなあと思う部分が多く、それができなくて詩のようにバラバラと改行しまくって書くのも減点。お陰で情報が落ちまくっているし。
最後に、「屍の王」でも有ったけど、あとがきにごちゃごちゃ書くのはやめて欲しい。「読み方」を指南するようなあとがきなので、作品自体を面白くなくしている。
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妄想と現実を交互に読ませるお話。
オズの魔法使いを変態にした感じ笑
タイトル、内容、表紙に惹かれて読み始めましたが、どの要素もしっくりきます。
初牧野作品でしたが、他にも読んでみたくなりました。
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作家買いで入手して以来、なぜか食指が動かずに(あらすじがただのスプラッタ風に感じられたせいか?)ずっと積んでいたのだが、このたび初めて通読。
結果、面白かった。
この独特のカオスな異界感、そして社会の中の弱い人やつまはじきにされがちな人に強くフォーカスされた内容は、さすが牧野先生の一言。
現実を妄想が浸蝕するラストは、逆にそうであるがゆえにこのお話をファンタジーに押しとどめてしまう効果もあるわけで、賛否が分かれそうではあるが、あとがきを読めばそれも納得か。
異形キャラのかわいらしさや、ところどころに挟まれる笑いと感動もとてもよかった。
調べたら若干プレミア気味らしいので、ちゃんと読めてよかった。