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紙の本
「ウォームハート・アンド・コールドヘッド」
2002/02/18 09:41
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:小田中直樹 - この投稿者のレビュー一覧を見る
史上初に近いデフレ・スパイラルを経験しつつある今の日本で、まっとうな処方箋を提示できるとしたら、それは経済学者しかないはずだけど、経済学の評判ってあまり良くない感じがする。つまり、かなりの経済学者は象牙の塔にこもり、アクチュアルな関心を失ってる。政策提言をしてる経済学者だって、理論優先で現実が見えないか、なんだか現実的な動機から理論的じゃない提言を繰り出して、どっちにしろあまり使えないって思われてるんじゃないだろうか。でも、「経済」っていうのはもともと「経世済民」つまり「世をおさめ、民をすくう」って意味だ。つまり、経済学者には「ウォームハート・アンド・コールドヘッド(温かな心と冷静な頭脳)」が求められてるわけだ。
だから現実的な関心と理論的な誠実さを兼ね備えるっていうのは経済学者の必須要件だけど、実際にはとても難しいことだ。だから、そんな経済学者はとても稀だろう。そして、数年前にノーベル経済学賞を受賞したアマルティア・センさんは、その稀な経済学者の一人らしい。しかもセンさんの業績は、狭い意味での経済理論にとどまらない。一方では、発展途上国(地域)の経済発展の途を探求して政策を提言し、様々な国際機関に影響を与えてきた。他方では、経済学を超えて、人間が幸福に生きる条件を探求し、倫理学や政治学や哲学の領域にも越境してきた。この本によって、そんなセンさんの営みの一端に触れられることになったわけだ。
この本は、とくにアジア諸国の発展を念頭に置いてセンさんがおこなった四つの講演を集めたものだ。具体的には、理想的な経済発展とはどのようなものか、東アジアの経済発展戦略のメリットは何か、自由と経済発展の関係はどうなってるか、民主主義を広めるにはどうすればいいか、といった問題を論じる。これらテーマを見るだけでも、センさんの思想が狭い経済学に留まらないものだってことがわかるだろう。
この本のメリットは次の二点。
第一、センさんの仕事は、これまで日本ではそれほど知られてなかった。でも、国連や世界銀行をはじめとする国際機関の政策に影響を与えてきたことを考えると、経済学者じゃない人も、少しはかじっておく必要があるんじゃないだろうか。そんなセンさんの思想に、新書というかたちでアクセスできるようになったことは大きい。この講演集は日本で独自に編まれたものらしいけど、とすると、これは編集サイドの大ヒットだと思う。こういう骨太な企画を見ると、まだまだ新書も捨てたものじゃないって気がしてくる。
第二、内容については、普通僕らは「経済発展」について、市場経済を導入すればいいとか、経済が発展するためには民主主義や自由権は邪魔になるとか、国内総生産が増えればいいとかって通念を持ってる。でも、センさんによれば、市場経済がちゃんと機能するには、国家をはじめとする様々な制度が必要だ。民主主義や自由権が保証されてなければ、経済は発展しない。経済発展は手段であり、最終的な目標は一人一人が人間らしく生きられるようになること、つまり「人間的発展」にある。こんな風に、広い視野を保っておくのって、とても大切なことだと僕は思う。
編集上の問題を一つ。この本は講演集だからさらっと読みとばすこともできるけど、広く深いセンさんの思想を本気で理解しようと思ったら、結構大変だろう。この本を読み終わったあと、僕はちょっと消化不良状態だった。だから、もうちょっと解説がほしかった。この本の訳者解説(大石りらさん)は、結構わかりやすいけど、スペースの関係からか急ぎ足気味なのだ。結局、他の本も読まなきゃいけないってことなんだろうか。[ご意見はここまで]
紙の本
貧困の克服
2002/05/07 16:21
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:よしあき - この投稿者のレビュー一覧を見る
いろいろ考えさせられた一冊だった。たんに経済のシステムにたいする考えを述べているのではなく、その先にある、システムの影響を必ず受ける人間についても触れているセンさんの考えには、多くの経済学者の金銭そのものについての考えだけに比べると非常にヒューマニスティックなものを感じ、また、経済学そのものの本来の姿を見たような気がした。たしかに経済を優先するのもいいが、やはり人間を軽視してはいけないのだ。
紙の本
貧しさの原因は何なのか
2004/01/29 21:04
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:蝉丸 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ブラジルや中東、インドを旅行する私は、どうしても貧困を目の前に突きつけられる。資源が豊かなのに、なぜ貧しい? この本に答えを求めたところ、著者セン博士は専制的な体制下では飢餓が発生し、民主的体制では起こらないことを指摘。北朝鮮もしかり。大衆が訴えることができ、それに応じて、政治も答える義務が生じ、政権党が変わるという体制が貧困克服の基本。だぶった話もあるが講演を載せているのでやむを得ない。アジアからの視点ということからも推薦します。
紙の本
2002/02/17朝刊
2002/02/21 22:16
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:日本経済新聞 - この投稿者のレビュー一覧を見る
アジア人で初めてノーベル経済学賞を受賞した経済学者の最近の講演をまとめた。本書を貫いているのは「人間の安全保障」重視の姿勢だ。
著者はそれを「人間の生存、生活、尊厳を脅かす脅威を包括的にとらえ、これに対する取り組みを強化する考え方」と定義する。冷戦後、内戦型の紛争が頻発し、国境を越えた“人道的介入”を支える論理として使われたが、本書の問題意識はより幅広い。九〇年代後半のアジア通貨危機で露呈した、韓国などの経済システムのぜい弱性も、人間の安全保障が浸透していなかったからだ、と指摘する。
働いた者が富を得る市場経済の経済的インセンティブに加え、言論の自由や参政権など政治参加の権利を保障する政治的インセンティブを整備する重要性を説く。通貨危機で大量の解雇が発生したのは、貧しい人々の政治力が十分でなかったことも一因と見る。これまで著者は、多くの人が満足する経済はどうあるべきか、との視点から、個人の政治・経済的能力の伸長に力点を置いてきた。その考え方に連なる主張だ。
日本が直面する様々な問題を考えるにあたっても示唆に富む。アフガニスタンの復興は、人々の能力伸長に重点を置いたものになるのか。あるいは、大量失業時代を迎え、雇用の安全網は整備されているのか。著者は東京での講演の最後をこう結ぶ。「これからの未来においてなされるべきことは山ほどあります」。その言葉には確固とした哲学がにじみ出る。
(C) 日本経済新聞社 1997-2001
紙の本
目次
2002/01/20 22:35
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:bk1 - この投稿者のレビュー一覧を見る
基本は、人への優しさである
——アジアで初めてノーベル経済学賞を受賞したセン博士が提唱する、これからの世界像とは?
(本書オビより転載)
【目次】
日本のみなさんへ p.3
◎危機を超えて ——アジアのための発展戦略—— p.13
アジアとその発展についての一般的理解
未来を創るための過去の評価
経済発展とさまざまな制度の相互補完的な関係
制度と自由
日本の経験——公共活動と個人のチャンス
人間的発展——東アジアの戦略
東アジアの戦略と中国・インドの比較
過渡期における危機と権利の剥奪
最近の東アジア、東南アジアにおける危機
危機から学ぶべき第一の教訓——発展における脆弱性
第二の教訓——分裂する社会
第三の教訓——人間の安全保障と公正
第四の教訓——民主主義の役割
第五の教訓——人間の安全保証とアジア危機と貧しい人々の声
結びの言葉
◎人権とアジア的価値 p.61
アジア的価値と経済発展
一枚岩的なアジア観
自由、民主主義、寛容
秩序と儒教
自由と寛容
アクバル大帝とムガール帝国
理論と実践
国境を越える介入
見解のまとめ
◎普遍的価値としての民主主義 p.101
インドの経験
民主主義と経済発展
民主主義の機能
価値の普遍性
文化的差異についての論争
議論の決着
◎なぜ人間の安全保障なのか p.135
生存のための安全保障——健康、平和、寛容
日常生活と生活の質
情報とエコロジー
尊厳、平等、連帯
グローバリゼーションとグローバルなコミットメント
国際的な取り決めとグローバルな構築
未来の課題と遺産
◎アマルティア・セン 人と思想 (大石りら) p.151
I. シャーンティニケタンの子供時代
II. 経済学と哲学の橋渡し
III. 人間的発展とは何か——人間の潜在能力アプローチと行為主体〔エージェンシー〕
最後に
註 p.181
邦訳文献リスト一覧 p.189
【アマルティア・セン】
1933年、インド・ベンガル地方生まれ。ケンブリッジ大学経済学博士。98年ノーベル経済学賞を受賞。合理的な人間はみずからの利益を最大化するように行動するという人間観を批判し、貧困と開発に関する経済学的研究の他、哲学・倫理学などの関連分野にも健筆を奮う。
邦訳書:
『合理的な愚か者』 勁草書房
『貧困と飢饉』 岩波書店
『自由と経済開発』 日本経済新聞社
『不平等の再検討』 岩波書店
『集合的選択と社会的厚生』 勁草書房
『不平等の経済学』 東洋経済新報社