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商品説明
昭和元年から約20年の日本の絵本の歴史をまとめる。生活・文化全てを統制下におき侵略戦争への道を突き進んでいた時代に、絵本はどう発展していったのか。当時の主な出版社、シリーズ、ジャンルなどの具体的な情報も提供。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
鳥越 信
- 略歴
- 〈鳥越信〉1929年兵庫県生まれ。早稲田大学卒業。岩波書店勤務、早稲田大学教授、大阪国際児童文学館総括専門員を経て、聖和大学大学院教授。児童文学研究者。著書に「子どもの本との出会い」など。
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紙の本
執筆者コメント後編
2002/09/30 13:39
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:宮本大人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
もう一つのポイントは、戦時児童文化統制の影響です。
昭和12(1937)年の「支那事変」以後の日中戦争の泥沼化は、国の物的・人的資源の総動員を必要とするようになり、将来の人的資源として、子供の存在が大きくクローズアップされることになります。このあたりについては、複雑な論理と色んな方向性をもった力が関わり合っているので、第1章をご覧いただきたいのですが、国家が、学校だけでなく、子供の生活のあらゆる局面をコントロールしようとし始めるのです。
その中で、昭和13(1938)年に「児童読物改善ニ関スル指示要綱」という、子ども向け出版物全般に対する検閲のコードが定められます。この「指示要綱」の影響が、絵本の世界にも及び、絵本の題材の選択や表現方法などに劇的な変化がもたらされます。当時は「絵本」の一種とされることの多かったマンガ本(いわゆる「赤本漫画」)は激減し、弱くて卑怯な敵軍をやっつけてバンザイバンザイといった調子の戦争描写も影をひそめます。そして、「銃後」の守りとして農作業にひたむきに取り組む人々を描いた絵本などが増えることになります。戦争の進行に従って、戦闘の場面を描いた絵本は減っていくのです。
この本の多くの章が、「指示要綱」以降の統制との関わりの中で、版元や編集者、作家、画家たちが、どのように仕事をしたかを検証する形で組み立てられています。その中には、戦後、丸木位里とともに「原爆の図」を描くことになる丸木俊(この当時は赤松俊子)の仕事や、横山隆一らが旗揚げした「新漫画派集団」の一員であり、この第2巻の表紙にも使われている作品を残した小山内龍の仕事、現代詩人として知られる吉田一穂が編集と「詞」を担当した仕事など、かなり水準の高いものを見出すことができます。戦後に先駆けるような翻訳絵本の仕事も発掘されていて、驚かれる方も多いのではないでしょうか。
また、「指示要綱」以降、マンガ本が減っていくのに伴って、マンガ家が(コマ割も吹き出しもない、今日言う意味での)絵本を手がける例が増えます。小山内龍は最も成功した例ですが、ほかにも多くのマンガ家の仕事をこの本の中に見出すことが出来ます。もちろん、竹内オサムさん担当の第7章では、マンガ形式の作品、絵物語形式の作品が多数取り上げられます。この「主婦之友絵本」シリーズは、田河水泡、島田啓三、石田英助、大城のぼる、新関健之助、倉金良行など、当時の人気マンガ家たちによる描き下ろしで、マンガ史的にもきわめて重要な意味を持つものと思われますが、今まで全くと言っていいほど紹介のなかったものです。
第1巻に引き続き、評価の基準や記述のスタイル、分析の視角等々は、各章ごとに、かなりのばらつきがあります。しかし、こうした状態は、この本の主題の厄介さに対応したものだとも言えます。今後さらに批判・検証されるべき問題を多々含んではいますが、はっきり言って、画期的な内容だと思います。絵本の歴史や、「手塚治虫以前」のマンガ史などに興味のある方にとっては、必読の1冊です。また、日本の近現代の歴史・文化・社会と「戦争」との関わりに興味のある人にとっても、ぜひお読みいただきたい本です。不協和音の只中で、一音一音を聞き分けようとすることのできる読者との、出会いを待ち望んでいる本だと思います。
紙の本
目次
2002/03/08 15:43
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:bk1 - この投稿者のレビュー一覧を見る
序章:十五年戦争下の絵本 鳥越信
第一部 言論統制下の絵本
第1章:戦時統制と絵本 宮本大人
第2章:絵本に見る戦争 巴憲子
第3章:絵本に見るアジア 寺前君子
第4章:出版統制による絵本の変遷——金井信生堂刊行絵本の場合 大橋眞由美
第5章:子どもの暮らしと赤本絵本 川北典子
第二部:意欲的・実験的な絵本への試み
第6章:コドモヱホンブンコ——童画家たちの活躍 竹迫祐子
第7章:漫画家による絵本——主婦之友社のシリーズ 竹内オサム
第8章:「講談社の絵本」の功罪 阿部紀子
第8章(1):講談社の絵本——偉人伝 勝尾金弥
第8章(2):講談社の絵本——昔話 西田良子
第8章(3):講談社の絵本——知識 瀧川光治
第9章:日本最初の科学絵本シリーズ——東京社の「小学科学絵本」 瀧川光治
第10章:絵本の質的向上をめざして——鈴木仁成堂の出版活動 道端香苗
第11章:新しい絵本観のめばえ——新日本幼年文庫 棚橋美代子
第12章:帝国教育会出版部と《帝京の絵本》 香曽我部秀幸
第13章:「少国民絵文庫」について 村川京子
第三部:絵本のさらなる広がり
第14章:キリスト教と絵本 福島右子
第15章:翻訳絵本の十五年間——西から東から 石川晴子
第16章:世界のおはなし絵本——「絵噺世界幼年叢書」を中心に 丸尾美保
第17章:企業と絵本 平岡弘子
第18章:絵本作家の登場——小山内龍 森井弘子
第四部:絵雑誌の流れ
第19章:十五年戦争下の絵雑誌の流れ 中村悦子
巻末資料:「児童読物改善ニ関スル指示要綱」、参考文献、索引等