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- カテゴリ:一般
- 発行年月:2002.3
- 出版社: 岩波書店
- サイズ:20cm/250p
- 利用対象:一般
- ISBN:4-00-002643-7
紙の本
ワークシェアリングの実像 雇用の分配か、分断か
著者 竹信 三恵子 (著)
失業率が過去最悪の記録を更新する中で、今最も注目されている「ワークシェアリング」。果たしてその実体は? 日本の先進的な実践例や欧州の挑戦をきめ細かくルポし、あるべき「仕事...
ワークシェアリングの実像 雇用の分配か、分断か
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商品説明
失業率が過去最悪の記録を更新する中で、今最も注目されている「ワークシェアリング」。果たしてその実体は? 日本の先進的な実践例や欧州の挑戦をきめ細かくルポし、あるべき「仕事の分かち合い」の実現の方途を考える。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
竹信 三恵子
- 略歴
- 〈竹信三恵子〉1953年生まれ。朝日新聞社に入社し学芸部次長、総合研究センター主任研究員等を経て、現在、企画報道室所属。著書に「日本株式会社の女たち」「女の人生選び」ほか。
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紙の本
出来の悪い社会主義
2002/05/21 12:10
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:荻野勝彦 - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者は朝日新聞のジャーナリストであるという。題材のタイムリーな捉え方、副題の「雇用の分配か、分断か」などワーディングの巧みさ、独自の取材にもとづく事例紹介、達意の文章による読みやすい記述など、ジャーナリストらしさの随所に出た本といえそうだ。
しかし、巧みなワーディング、読みやすい文章にもかかわらず、ページを繰るたびに違和感が強まってくるという感を禁じえなかった。ワークシェアリングが実体のない絵空事に思えてきてしまうのだ。
著者は、日本における「ワークシェアリング」は「雇う側の都合に合わせて雇用を上から裁断」し、安定して良質な仕事を不安定で悪質な仕事に分割する「雇用の分断」であると断罪する。そのうえで、生活の質の向上と雇用の安定を備えた「雇用の分配」を、「働く当事者による自発的な分け合い」として実施すべきだと主張する。出来の悪い社会主義のような意見だが、著者は真剣らしい。実際、いかなる内容の短時間労働であっても、生活が支えられるだけの賃金が支払われなければならないという主張は随所に出てくる。公的福祉とあわせて、ではなく、「賃金で」なのだ。
これは評者には違和感の強いものではあるが、もちろんこうした考え方もあっていいと思う。しかし、もし、これを実現するとしたら、高度な業務に長時間従事している人の賃金水準を相当程度引き下げなければならないだろうし、株主への配分を大きく削るといったことも必要になるだろう。こうしたことまで必要となることを明言したうえで、それが現実的なのか、あるいは国民経済にとって望ましいことなのか(評者はそうは思わないが)を正々堂々と議論すべきではないか。
次になんとも違和感を覚えるのが、日本での取り組み事例について、いずれも雇用を守る、あるいは増やすという善良な意図に立って、労使が真剣に取り組んでいるものであるにもかかわらず、著者の主観的な価値観にもとづく色眼鏡を通じて、何やかやと難癖をつけて否定しようという態度が露骨に見えることだ。さすがに著者も気がさしたらしく、エクスキューズの記述もあるが、労使がともに良かれと信じて取り組んでいることをこうまで悪しざまに書かれたら、当事者はたまらないだろう。
もう一つの違和感は、この本はワークシェアリングの本というよりは女性労働問題に近い、という点にあるのではあるまいか。実際、この本には、非常勤社員が差別されているのは不当であるとか、介護のホームヘルパーの移動時間がカウントされないのはけしからんとか、それ自体は重要な問題なのかも知れないにしても、ワークシェアリングとは直接関係のないエピソードが目立つ。
もう一つ指摘しておきたいのは、最後の最後になって唐突に精神障害者や引きこもりの就労支援のNPOといったかなり特殊な事例を持ち出してきているところである。それをもって、非営利ならば「生身の人間が持っている能力や生活を生かせる構造」をつくることができる、ということが言いたいらしい。これらはそれ自身は事例としてたいへん優れた取り組みであるし、心情的に反論しにくい材料であることも事実である。しかし、少なくとも政策論としてはあまりにも幼稚で情緒的に過ぎるだろう。もっとも、そういう読み手を想定した本なのかも知れないが。
なお、紹介されている事例に関しては、なかなか参考になるものが数多く含まれている。スウェーデンやオランダの取り組みについて、成功している部分だけではなく問題点についてもかなり踏み込んで指摘しているのも好ましい。色眼鏡を通している(特に日本の事例)ことを承知で読めば、けっこう役立つ本であるとも言える。とはいえ、やはり現状の正しい理解や現実的な政策論のために資する本であるとは言えないと思う。[荻野勝彦]