「honto 本の通販ストア」サービス終了及び外部通販ストア連携開始のお知らせ
詳細はこちらをご確認ください。
このセットに含まれる商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
あわせて読みたい本
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
この著者・アーティストの他の商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
紙の本
思い込みの美学
2002/05/30 02:00
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:じゃりン子@チエ - この投稿者のレビュー一覧を見る
正義が肯定できなくなって、ヒーローは死んだ。かつてヒーローと呼ばれた人種は次々に自分勝手な思い込みヤロウになった。と、思っていたら今度は自分勝手な思い込みが売りのヒーローが出現した。その名は大文字さくら子、東大法学部卒業、26にして一橋署の署長に就任。無敵のキャリア美人である。
牛丼の食べ方で人間の器をはかる、と豪語するさくら子は圧倒的な頭脳と権力を持っているのに、ケチだ。ファミレスで食事をするときには、「セットのみ」を注文し(当然不可)、子供と駄菓子を賭けて賭博をする。そして、権力者なのに人情家。駄菓子屋のおばあちゃんを助けてやったり、病気の母親のいる家庭にお金をあげたりする(しかも、悪役から巻き上げて)。そんな、彼女の行動原理は“美学”。だから「醜い…」「器が小さい」といってスケベ警官やライバルキャリア女性を叩きのめす彼女は、正義の味方と同じようなことをやっていながらとてつもなく自由でいられる。正義は葛藤から免れないけれど、美学は言ってみれば個人の生き方の反映だから、 大義や社会的な規制に縛られなくてすむのである。
高橋のぼるはかつて「リーマンギャンブラー・マウス」で女体盛りとギャンブルに賭ける男を、清々しく描いた。しかし、さすがに女体盛りではヒーローにはなれない。マウスの欠如を補う意味でもさくら子は無敵な女なのだ。
そして、エリートでありながら庶民派という矛盾した人物像を描くのに高橋のぼるの絵は、妙に適している。彼の描く美人は鼻がかぎがたで、厚ぼったい唇を持つ。なんとなくお水っぽい。さくら子もその例に漏れず、エリート警官なのにいかがわしい顔をしている。このアンバランスな外見は、彼女の矛盾した人物像を非常に魅力的に反映している。思い込みだって、美学! 言ったモンが勝ち! 権力持ってるモンが勝ち!な存在でありながら、精神性において庶民というさくら子は完璧な現代ヒーローと言えるだろう。