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商品説明
「なんか事業をやらないか」という父親のひとことをきっかけに本屋経営を思い立った著者の、はじめの失敗から理想の本屋をめざした店作り、地域の人々との交流などを描いた奮闘記。巻末に小説も付す。【「TRC MARC」の商品解説】
収録作品一覧
青雲編・わだば社長になる! | 川辺佳展 著 | 8-25 |
---|---|---|
暗雲編・本屋て、なんや? | 川辺佳展 著 | 26-57 |
鰯雲編・神戸元町下山手 | 川辺佳展 著 | 58-95 |
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紙の本
お気に入りの本屋さんありますか?
2002/05/30 07:18
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:読ん太 - この投稿者のレビュー一覧を見る
昨今の不況、本離れ、書店の大型化、ネット書店の出現など色々な理由から、年間で何千という書店が廃業に追い込まれている。私の住む神戸も例外ではない。ポツポツと店をたたむところが後を絶たない。その中には、何度か本を買い求めたお店も含まれていて、「不便になるなぁ。」「時代の流れというものかなぁ。」と寂しい思いがした。
『烏書房』という本屋が、2001年10月に閉店した。「不便になるなぁ。」とは思わなかった。元々便利な場所にあったわけではなく、元町から鯉川筋という通りをテクテク歩いて登らなければたどり着かないお店だった。わざわざ行く道すがらがワクワクとなるような本屋さんだった。「時代の流れというものかなぁ。」とは思えなかった。『烏書房』が潰れてしまうような時代の流れなら、この時代はどこかが狂ってきていると思って悔しかった。私が『烏書房』を知り、すぐに虜になってしまった後3カ月の出来事である。
『街の本屋が「カア!」と啼く』は、前出の『烏書房』の店主であった川辺さんの手記である。副題が「からすの本屋熱血風雲ボンボンビンボ録」となっているように、支払いに追いまくられながらのビンボ(貧乏)な毎日が綴られていて大笑いしてしまう。ビンボの様を読んで大笑いとは何事!と眉をひそめる向きもあると思われるが、『星を売る店』を作り続けた川辺さんの周りには、ビンボも恐れをなして逃げていくような(実際は逃げて行ってはくれなかったのだが)、飛び切りの人達が集まっている。そして、その人達を交えたエピソードは、最高に楽しくて最高におかしくて最高に暖かい。
とうとうお金が行き詰まって、本を仕入れることができなくなったので閉店を余儀無くされた『烏書房』。閉店の日、川辺さんは一人涙しながら片付けを…、しなかった。地元はもちろん、全国津々浦々から『烏書房』を愛する人々が押し寄せ、最初で最後の「本屋で飲む会」が盛大に行われたのだ。
本書には、川辺さんの手記の他に太郎吉野氏執筆の短編小説が4編収められている。川辺さんは小説家でもあり、小説を書く際には「太郎吉野」という名に変身する。後半に収められている『平成くだんがたり』『猫寺』と読み進めていくと、前半の手記は遠いかなたに飛んで行ってしまい、それぞれのストーリーにぐいぐいと引き込まれた。
『平成くだんがたり』では、ド田舎にマイホームを持った悲哀の漂う家族と、そこにやって来たおかしな顔をしたテッチャンという牛の物語をファンタジックに描いている。現実感とファンタジーの振りかけ具合、混ざり具合がたまらない。このたまらなさ加減は、『猫寺』でも同様である。
『烏書房』のことは頭からすっかり抜け落ちて、太郎吉野の世界にどっぷりつかりかかったところで紙がつきた。「あぁ、残念。」と思っているところにふと思い出したのが、本の間に挟み込まれていた『まぼろし文庫』という豆本である。「これは何だったのだろう?」と開いてみると、あった! ありました。太郎吉野氏の短編がまだあった! 『猫と地下足袋』と『おかん箱』の2編が、かわいらしい豆本にチンと並んでいた。本体を横に置いておいて、豆本にいそいそと取り掛かった。全く「いそいそ」という表現がぴったりの心持ちだった。
『烏書房』はなくなってしまったけれど、川辺さんはこれからも私に満点の星空を見せてくれることだろうと思う。
おひとつくださいな。川辺さんにもらった星は、ポケットに入れても輝きが消えることはなかった。