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商品説明
西暦2100年、1機のX線観測衛星が発見したブラックホール・カーリー。それがすべての始まりだった−。火星、エウロパ、チタニア、変貌する太陽系社会を背景に、星ぼしと人間たちのドラマを活写する連作短篇集。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
林 譲治
- 略歴
- 〈林譲治〉1962年北海道生まれ。臨床検査技師を経て、「大日本帝国欧州電撃作戦」で作家デビュー。著書に「焦熱の波濤」シリーズ、「兵隊元帥欧州戦記」シリーズなど。
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紙の本
エンターテインメントとして上等
2002/08/26 00:27
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:のらねこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
かなりしっかりしたハードSFですが、それ以上にストーリテリング的に非常によくできたエンターテインメント作品集として評価したい。
「人工降着円盤」から膨大なエネルギーを取り出し、それを元にして人類が太陽系に進出した未来、というバックグランドは緻密に構築されていると思うし、収録されているそれぞれの短編の中で、そうした設定はたしかに効果的に利用されているのだけれど、年代記風に配列された、異なる時代を舞台にするそれぞれの物語が、ときにミステリ風の「謎解き」をメインとしていたり(ウロボロスの波動)、火星政府の要人を暗殺しようとする側とそれを阻止しようとする側を交互に描くスパイ・スリラー風の作品であったり(ヒドラの氷結)して、まずもって「小説として」バツグンに面白いのだ。
もちろん、作中のAADDの組織形態ユニークさなど、SFとしての仕掛けや大技、小技は随所に散りばめられてはいるのだけれど、そうした細かい部分をすっとばして読んでも、かなり楽しめる出来となっている。
紙の本
著者コメント
2002/12/08 18:43
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:林 譲治 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「自分で一番書きたい物を書いてください」
SFマガジンの編集者との最初の打ち合わせでこう言われた時、最初に浮かんだのはやはり宇宙を舞台としたSFでした。
宇宙を人々が生活の場とした時、そこにはどんな社会が生まれるか。否応なく高度なテクノロジーを生活に取り入れなければならない時、テクノロジーはそうした社会や文化をどう変えて行くのか。
宇宙という地球とは異なる環境で、地球とは異なる社会を築いた人々。それでもやはり彼らは人間であり、人間として宇宙でさえも変えられない部分がある。
そんな宇宙における生活というものを描いてみたい。それがその時に考えたことでした。この短編集はSFマガジン誌上で行ってきたそうした試みの記録でもあります。
紙の本
優れたハードSFであるがゆえに、総合的な人類のドラマになっている
2002/07/30 22:15
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:喜多哲士 - この投稿者のレビュー一覧を見る
小型ブラックホール、カーリーが発見され、そしてそれが太陽に衝突することが明らかになる。太陽系に住む人々は、カーリーの軌道を改変しそれを新たなエネルギー源として利用するプロジェクトを立てた。地球を離れて活動する人々と、地球に居住する人々との間には意識の差が生まれ、やがては対立するようになる。宇宙に入植した人々の組織AADDでは、カーリーを調査すると同時に地球外生命体の可能性を探る科学者が現れ、それがまた新たな計画につながっていく。それをよしとしない地球人は、プロジェクトの中心人物への暗殺者を次々と送りこむ。しかし、それら暗殺者もまたAADDに繰りこまれ、次の世代を育成する要員の一人とさえなっていく。やがて、カーリーの中に生命体が存在するという可能性が発見され、計画は新たな段階に移行しようとしていく。
宇宙開発や研究の過程には、もちろん人間が行うことであるから、極めて人間的な問題が次々と発生する。偏見、裏切り、そして対決。
例えば本書のエピソードの一つである「ヒドラ氷穴」では、AADDの責任者を暗殺しようとする地球側の女性と、それを阻止しようとするAADD側の女性との知恵の限りをつくした逃亡と追跡が描かれる。その手に汗握る展開や予想を裏切る結末など、人間の営みとしての宇宙開発ならではの好短編といえるだろう。そしてそれは、旧世代と新世代のカルチャーギャップの物語でもあるのだ。
本書はブラックホール・カーリーをめぐる短編をオムニバス的につなぎ、最後に全体像を明らかにしていくという構成をとっている。そこにはミステリ仕立ての作品もあれば、冒険小説風のエピソードもある。主役はあくまで人間と、そして彼らが作り出す組織なのだ。そして、その組織に対する鋭い考察は、長年架空戦記というジャンルで組織と戦争について物語を書き続けてきた作者ならではの透徹した視点に支えられているのだ。
宇宙に進出した人間のメンタリティの変化を年代記風に描くことにより、作者は独自の文明論を展開している。優れたハードSFであるがゆえに、総合的な人類のドラマになっているのだ。
さらに、スタンダードに進められたかと思うと、異端としかいいようのないひねりが加えられたりもする。その振幅の大きさに尽きせぬ魅力を感じるのである。 (bk1ブックナビゲーター:喜多哲士/書評家・教員)