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商品説明
やさしい夫がいる幸せな家庭。そのうえ、小説家としても成功し、何にも不足のない日々だったのに…。何の意味もない、偶然の出逢いが、すべてを壊してゆく−。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
新井 素子
- 略歴
- 〈新井素子〉1960年東京都生まれ。77年第1回奇想天外SF新人賞に佳作入選。78年「あたしの中の…」で作家デビュー。著書に「おしまいの日」「チグリスとユーフラテス」ほかがある。
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紙の本
新生新井素子である。途中までまで驚きをもって読む。それから、あれれどうして?と思い始める。ここまできたならもっと突っ走ればよかったのに
2004/11/15 19:55
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
「大好きな夫に勧められて書いた小説が、新人賞を受賞。幸せ一杯の新婚家庭に忍び寄る悪意、悲しみの果てに妻が決心したことは」サイコ・ホラー。
あとがきを除けば、まさに新生・新井素子。ノンストップで、男の悪意が一人の人妻を狂気に駆り立てる。
主人公は後藤明。れっきとした女性。30歳で身長178cm、ウエスト58cm、体重54kgという体型は、どちらかというと中性的。明は中2の時に既に身長は170cmを越え、固い字面の名前からも男と間違われることもしばしば、様々な悲喜劇が大学まで続いた。そんな彼女の文章を最初に認めたのが大学の文芸サークルの沢木公人、現在大手出版社に勤める夫である。
と言っても二人が結婚したのは、つい最近、明が30歳になってからのこと。それまでは沢木から回される仕事をこなす、フリーのライターだった。今では本を2冊出してはいるものの、この世界では無名に近い。そんな彼女に、夫の公人は大学以来「小説を書くべきだ」といい続けている。
公人は極めて手のかからない夫で、おまけに子供は当分授かりそうに無い。そんな中で暇を自覚した明は、小説を書き始める。出来上がった原稿を読んだ公人は、妻に新人賞に応募することを勧める。そして幸運にも受賞、その本はベストセラーとなってしまう。一躍人気者となった彼女への取材、その会場となった喫茶店に受験に失敗した18歳の浪人生がいた。男の悪意が、一人の女性を追い詰める。
この広島出身の、全て人のせいにしてしまう傲慢なマザコン男市原裕司が、実に酷い。こういった人間を描いただけでも、新井素子は凄い。人の幸せを羨み、辱めることで溜飲を下げる下劣さ。だから、エンディングの甘さが気にかかる。あまりに容易に人間が改心し、仲間内で許される。ここにリアリティを感じないのである。中盤までの緊張感が嘘のようである。
小説の第二章に、「…人は、状況によって“下品”な文章を書いてしまう。どんなに“高潔”な人が書いても、それでも“下品”になってしまう、そんな文章が、世の中にはある。…“私”が前に出てくると。いつだって話は“下品になる要素を内包してしまう」と手記を否定的に扱う文章がある。
実は、これは小説にも言えることだと思う。自分で酔ってしまう、小説に頻繁に自分が出る。主人公の価値観から美意識まで全てにそれが見える。それが多様で、奥が深ければ気にならない。しかし、そうでないときは。
この文を読んでから、あとがきを読んで欲しい。私は、こういう部分が見えた作家の文が読めなくなってしまったが、それがよくわかる。
この本は、新井素子31冊目の本だという。こんな小説を書くようになったんだという驚きと、まだこんなことを言っているのかという諦めみたいな気持ちで読み終わった。しかし、本文はやはり凄い。文章がすっきりしているせいで、どんどん読んでしまう。彼女の作品を、ノンストップという感覚で読み終えたのは初めてのことである。
紙の本
ひょっとしたら実際にありうるかも?
2002/12/20 11:37
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:あんぱん - この投稿者のレビュー一覧を見る
ハッピーバースディ
パステル調のかわいい装丁と題名から想像していた通りの明るい話だと思って読み進めて、ようやく気付く、このお話がダークな話であることに。
やられた!と思ったけど、読み始めると止まらない面白さだ。
作者のあとがきをみると希にみる難産だったそうだが、読み終わっても、実にすっきりと統一されていて、リズム感があり、まるで一気に書き上げたかのような印象を受ける。
ストーリーは、一見、平凡で幸せな主婦である「あきら」が夫の勧めで書いた小説が賞を取り、一躍有名人になるというまさに幸せの絶頂!なところに、一本のイヤガラセの電話が、かかってくるところから始まる。
主人公は多分に夫である「きーちゃん」に依存している性格で、このイヤガラセの電話やストーカー行為が続いていくことや、賞を受賞後の第一作が思うように描けないこともあいまって、どんどん精神的に追いつめられていく、そんななか、不慮の交通事故で夫が死んでしまう。
とうとう、主人公の精神は崩壊をきたし、電話の犯人に復讐を決意するが、その結末は…。
最後は、もちろんハッピーエンドというわけにはいかないが、救いはあるし、意外とさっぱりしていてよかった。
そして、最後まで読んでやっと題名の本当の意味がわかる。
紙の本
最悪のタイミングで出会った2人の不幸な関係
2002/12/07 05:07
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:山村まひろ - この投稿者のレビュー一覧を見る
大好きな夫との幸せな結婚生活。編集者である夫からの勧めで書いた初めての小説が新人賞を受賞し、黄金の日々を向かえた梧藤茗こと「あきら」。
片や、合格間違い無しと信じた大学試験に失敗し、暗い浪人生活を送る裕司。
なんの関係もなかった2人が、最悪のタイミングで出会ってしまい、暗い情念に囚われた裕司が、あきらにストーカーまがいのいやがらせを始め、追い討ちをかけるようにあきらは不幸のどん底へ。そして…。
え〜〜と…新井素子です。ええ、新井素子。
新井素子はデビューのころから追いかけてきて、大好きな作家で、この独特の文体をも愛していたはず、なのですが…今回はちょっとキツかったですね。
三人称なのがどうもダメだったみたいで、同じような言い回しが続くとなんとなく煩くなってしまって「くどい!」と感じる個所がいくつかありました。
あきらが、そして、復讐される裕司が、それぞれにどんどん追い詰められてゆく場面などは、読んでるほうもかなりしんどかったです。
でも、精神を病んでしまったあきらが「書く」ことに目覚め、裕司へのバースディプレゼントと称して世にも恐ろしい小説を書き始めるあたりは、目の前の霧が晴れてゆくような気がし「これこそ、新井素子!」と思わずガッツポーズ。
新井素子の小説を読んだあとで文章を書くと、つい文体が「新井素子」化してしまいそうになるのがちょっと恐くて、こうやって感想を書きながらも、かなり用心しています。
書くことが好きで好きで好きで、書き続ける…誰に読んでもらうためでもなく文章を紡いでしまう、そんな「あきら」は、どこか新井素子の影のようでもあり、そしてまた、ついつい山のような日記を書いてしまう私自身でもあるのかもしれません。