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航路 上
【ローカス賞】NDE(臨死体験)の原因と働きの科学的解明を目指す、認知心理学者のジョアンナは、神経内科医リチャードの研究計画に協力する。だがその実験にはトラブルが続出。ジ...
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商品説明
【ローカス賞】NDE(臨死体験)の原因と働きの科学的解明を目指す、認知心理学者のジョアンナは、神経内科医リチャードの研究計画に協力する。だがその実験にはトラブルが続出。ジョアンナは、みずから死を体験しようと決意するが…。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
コニー・ウィリス
- 略歴
- 〈コニー・ウィリス〉1945年コロラド州生まれ。現代アメリカSF界を代表する女性作家。ヒューゴー賞、ネビュラ賞最多受賞記録保持者。著書に「わが愛しき娘たちよ」「リンカーンの夢」など。
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読んでいるあいだは、あたかも一篇の映画を見るようにくっきりとした映像が浮かぶ
2002/10/28 18:15
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:石堂藍 - この投稿者のレビュー一覧を見る
認知心理学者のジョアンナは臨死体験の研究をしている。彼女にとって、それは死後の世界を証明するものではない。だが、臨死体験者の「遠すぎる」「いま行くよ」といったつぶやきは、何かを暗示するとても重要なものだと感じていた。そんなときジョアンナは、神経内科医のリチャードから声をかけられる。彼は薬物投与によって化学的に臨死体験状態を作り出していると確信しており、その際の幻覚体験の聞き取りをしてくれるその道のプロを求めていたのだ。ジョアンナはリチャードを手伝うことになるが、さまざまなトラブルが発生し、彼女自身が臨死体験を味わう破目に陥る。それは、彼女がこれまで想像していたものとはまったく違う体験だった。あまりにもリアルで、私はそこにいた、としか言えないようなものなのだ。しかもそれは単純な光の体験などではなかった。その正体とは……。
臨死体験を科学的に描くなどと言えば、たいていの人が脳内麻薬か何かの話だろうとあたりをつけるのではないだろうか。それをウィリスはみごとに裏切って、ユニークな説を打ち立て、それを軸にして物語全体を構築している。ほとんどの読者は意表をつかれるに違いない。ミステリ仕立ての物語はスリリングで、二段組で八百ページという分量の多さがまったく気にならない。サスペンスフルなシーンも随所にあって、殊にジョアンナの臨死体験で繰り返される、扉と光のイメージの部分は背筋に寒けが走るほどの緊迫感がある。
多数の登場人物はきれいに描き分けられ、生き生きとしているし、物語もシリアスなだけではなく、ユーモアがそこかしこにちりばめられている。まったくもってコニー・ウィリスのエンターテイナーぶりには感嘆させられる。
読んでいるあいだは、あたかも一篇の映画を見るようにくっきりとした映像が浮かぶのも、ウィリスの技術力の高さを示すが、これは同時に訳者の手腕を示してもいよう。
『航路』は決して読者の期待をはずさない作品だ。考えようによってはあざといとも言える。だが私はそれをウィリスの健全な大衆性の表れとして、称えたいと思う。 (bk1ブックナビゲーター:石堂藍/書評家)
紙の本
いい話なんだろうけれど、主人公の思い込みが激しすぎて、これじゃあ泣けないなあ、なんて思ったりして。私は北村薫の『スキップ』に軍配をあげます、はい
2003/04/19 20:10
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
実は、コニー・ウィリスのことを全く知らなかった。とりあえずヒューゴー・ネビュラ両賞の受賞作家の本であれば読まないまでも、目に留めるくらいのことはしているのに。だから、推薦者に宮部みゆきの名前がなければ、手にすることも無かったに違いない。そういうわけで、殆ど先入観無しに読み始めたけれど、読み始めて正直、途方にくれた。
主人公の名前はジョアンナ。マーシー・ジェネラル病院で臨死体験の研究をしている認知心理学者。彼女が嫌うのは、この研究で有名なマンドレイクという男。すでに『トンネルの向こうの光』という本を出版し、この病院で指導的立場にいる彼は、いち早く、死から帰還した患者たちにインタビューをしては、彼らに「トンネル」「光」「天使」といった決まりきったイメージを植え付けていく。
ジョアンナは、誘導によって得られる臨死体験ではなく、患者の生の体験談を求めている。彼女に協力を求めてきたのが、病院で同じ研究をしているリチャード。彼は臨死を薬の力で疑似体験することで、真相に迫ろうとする。しかし彼らのセッションに応募してきた人々は、既にマンドレイクの影響下にあるか、考えがあって参加しようとする人々ばかりだった。セッションは始まったが、サンプル数が増えないことに悲観したジョアンナは、自ら被験者になることを決心する。友人のヴィエルの反対を押し切って〈潜った〉彼女が見たものは。
真相を巡って繰り返される実験。被験者や入院患者との会話に翻弄されながら、自分を支配下におこうとするマンドレイクの手を逃れ、ジョアンナは迷路のような病院を右往左往する。最初の内はロマンスめいていた内容が、病院内のドラマ、患者と医者の話に纏まるかと思えた瞬間に、小説は予想外の展開を見せる。ここまでが、実に長い。しかし、ここからがノンストップ。
リチャードと交際しただけで研究に参加する看護婦ティッシュ。ER勤務で、過酷な勤務を続けながらジョアンナのことを気遣う友人ヴィエル、小児科にウィルス性内膜炎で入院中の饒舌な少女メイジー、事件の鍵を握る主人公のハイスクール時代の教師ブライアリー、アルツハイマーの伯父の世話をする姪のキット、58と言う謎の言葉を残し死んだ男グレッグ、自称空母ヨークタウンの乗組員で饒舌な被験者ウォジャコフスキー、脳脊髄縁で昏睡状態のまま生還を望まれるカール。彼らの話が延々続く。
死後の世界や臨死体験に興味のある人はともかく、私のように予備知識無しに読み始めた人や、作者が著名なSF作家だからとこの本を選んだ人は戸惑うはずだ。頻繁に切られるポケット・ベル、患者の饒舌、アルツハイマー患者の意味不明の会話、目前で亡くなった患者の残した言葉、自分の見た世界を確信する臨死体験者の経験談が延々と続き、リチャードまでもが実験に冷静さを失っていく。
最初に書いたけれど、私は作者が男か女かも経歴も知らなかった。だから、ジョアンなの心理の描き方から、男性が女性の科学者を批判的に描く作品かと思いもした。あとがきで、コニー・ウィリスが女性で、ヒューゴー、ネビュラ賞の最多受賞記録を持ち『ドゥームズデイ・ブック』『リメイク』の作者で、ご主人が物理学者だと知ったとき、全く何という読み方をしたのだろうと思った。それほどに、ここで描かれるジョアンナは愚かしい。
本村加代子装画、大久保伸子装丁の上下本は、色合いが何とも優しく、日本の小説では絶対に見ることの出来ないような爽やかなもの。この本は立花隆『臨死体験』との連想で読むよりは、グリムウッド『リプレイ』を思った方がいいかもしれない。ともかく圧倒的に面白くなるのは下巻の後半。ここまで辿り着けば、あとは一気。ただし、あとがきにある「涙」には、あまり期待しないほうが良い。訳者の大森望の言は少し大げさ、もっと知的でクールな本だ。できれば映画で見たい。