紙の本
蓬萊洞の研究 (講談社ノベルス 私立伝奇学園高等学校民俗学研究会)
著者 田中 啓文 (著)
私立伝奇学園民俗学研究会を次々に襲う理不尽な事件に古武道の達人女子高生・諸星比夏留と民俗学の天才高校生・保志野春信が挑む。学園伝奇ミステリの傑作。【「TRC MARC」の...
蓬萊洞の研究 (講談社ノベルス 私立伝奇学園高等学校民俗学研究会)
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商品説明
私立伝奇学園民俗学研究会を次々に襲う理不尽な事件に古武道の達人女子高生・諸星比夏留と民俗学の天才高校生・保志野春信が挑む。学園伝奇ミステリの傑作。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
田中 啓文
- 略歴
- 〈田中啓文〉1962年大阪府生まれ。神戸大学卒業。93年ファンタジーロマン大賞佳作を得て作家デビュー。著書に「水霊」「禍記」など。ゲームソフト「かまいたちの夜2」の脚本も手がける。
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紙の本
さあ、みんな、息を吸って、笑いましょう。この本、カバーは爽やかジャニーズ系だけど、あけてびっくり、駄洒落ミステリ。そんなのってアリ?
2003/06/09 20:53
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
実は、この本を手にした時、全く期待していなかった。瀬田清の手になるカバーと本文のイラストが余りにもコミックスそのものだったから。ところがこれが大誤算。これって鳥山明の世界じゃない、って思わず首クキクキ。
舞台はS県の片田舎にあるマンモス学校、私立田中喜八学園高等学校、略して田喜学園。こういうの、略すかな? え、私なら田八学園とするな、いや、しないか。それはともかく、入試もなく学費も安いことから、落ちこぼれや嫁に貰い手のない娘が落ち延びてくるという、人呼んで平家の落人学園。そんなことは、どこにも書いていないけれど、風変わりな生徒が多いことは事実。おまけに七不思議があるというので有名だという。
その食堂で注目を浴びる少女がいた。容貌については余りかかれていない。彼女がこのシリーズの主人公 諸星比夏留、学園の新入生。身長155センチ、少年のような体つきの少女。ただし、食べる、食べる、食べる。歩くブラックホールとは、かくやといった印象である。家が、太ることを基本とする古武道〈独楽〉の宗家で、諸星弾次郎の娘。吹奏楽部に憬れる古武道の達人娘である。ついでに言っておくと、弾次郎は京極夏彦の文庫本のような体型で、にこちゃん大王をおっきくしたみたいな男なそうな。
ハーメルンの笛吹きもかくやとばかり(古いね、この文章)、フルートの音色で彼女を民俗学研究会に誘い込んだのが、日本史の嘱託教師薮田浩三郎。その部長が、レズの噂がある伊豆宮竜肝、京極夏彦ばりの妖怪・伝説・伝承の知識を誇る女性。その同級生で古代史・歴史・古文書、時代小説のオタク白壁雪也。スレンダーな容姿でポニーテールが愛らしい美貌の犬塚志乃夫。魔女に憬れるオカルトマニアの浦飯聖一。比夏留と同じクラスで既に民俗学誌に論文発表している民俗学の天才高校 保志野春信が主な登場人物。いやあ、名前だけ見ていると時代小説そのもの。これは八犬伝か!
彼らが出会った事件というのが、いやはやなんとも。苛めにあっている肥満少年 三津目徹がシーナという言葉を残して失踪した。学園に隣接する「常世の森」で続出する失踪者、雨の降る日に徘徊する怪物、洞窟の白骨は「蓬莱洞の研究」。学園祭の屋台で焼きそばを作ることになった比夏留、彼女が初めて経験する学園の秘密行事とは「蛭女山祭」。その最中に現れる巨大な怪物が「大南無阿弥洞の研究」。いわくありげな旅館での合宿。発生する連続殺人と前代未聞抱腹絶倒空前多分絶後の解決で「黒洞の研究」。
ともかく笑った。舞城王太郎、ウィンスフィールド、村上春樹の新作と同じくらい笑える。諸星比夏留が美人として描かれず、ブラックホールそのものとして描かれているのが、とても心地よい。読んでいて思ったのが、一つは森博嗣のVシリーズ。もちろん小鳥遊練無と犬塚志乃夫の類似。でも、話全体は横田順爾の往年のハチャメチャSF。ま、向こうは、もっと収拾のつかない奇妙奇天烈責任放棄悲劇再来みたいな、不条理風な所があったが、田中の作品はもっと前向き。
少なくとも論理の筋道が、かーすかに見える。本格伝奇と学園小説、おやじギャグの融合実験。伝奇ファン、青春小説ファン、駄洒落ファン、学園小説ファンに捧ぐと作者の案内があるが、まさにその通り。一体誰だ、こんなばかばかしい本を出したのは!って、これ褒め言葉です。笑ってください。
紙の本
「妖怪ハンター」かと思ったら「栞と紙魚子」だった
2003/03/25 17:36
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:成瀬 洋一郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
田中啓文は駄洒落の作家だ。少なくとも最近の作品はことごとく、壮大なスケールのSFであろうと背筋が寒くなるホラーであろうと、駄洒落でオチをつけてしまっている。そんな駄洒落で結末つけたらもったいない…といわれそうな傑作でも駄洒落にもっていってしまう。そんな彼が学園青春物に伝奇小説の要素を加えたという作品に挑んだ。
主人公は太りたくても太れない拳法家の娘。彼女は成り行きから民俗学研究会に入ることになり、学校裏の樹海の怪異、孤立した村で発生する連続殺人など、さまざまな怪事件に巻き込まれることになる。そして彼女が訳の分からぬまま、ほとんど力ずくで事件を解決したところで、民俗学研などくだらないと入部しなかった天才少年が解説を加え、見事に謎解きしてしまうのである。
この連作形態の中篇集の根っこの部分は「トンデモ」である。一見もっともそうながら、ちょっと考えれば根本的におかしいことが容易にわかる類のネタがオチに使われているのだ。たとえるなら、太古の文明によって生み出されたとされる古代文字が、明治期に設定された都道府県の数に対応していると主張するような感じだろう。ところがそれを作者は承知の上で強引に自分のペースに引きずり込み、成立させてしまうのだ。
確かにこれは学園小説だ。個性あふれる教師や生徒たちが、「部活」を口実に騒動を起こす軽快なストーリーだ。
確かにこれは伝奇小説だ。あり得ざる事件が起こり、幻の生き物や古の呪いが人々を翻弄する物語だ。
確かにこれは田中啓文の作品だ。こういうネタを使い、こういう展開にしておいて……わざわざこういうオチをつけますか?
言霊の凄さを実感したい人は読んでみて欲しい。騙されたと思って……。