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商品説明
ゲームソフトの開発に携わる矢木沢は、ある日を境に激しい幻覚に苦しめられるようになる。しかも、その幻覚は回を重ねるごとに進化し、威力を増し、巨大な恐怖の濁流となって矢木沢を翻弄していく。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
竹本 健治
- 略歴
- 〈竹本健治〉1954年兵庫県生まれ。『幻影城』に連載した「匣の中の失楽」でデビュー。著書に「囲碁殺人事件」「将棋殺人事件」「トランプ殺人事件」「ウロボロスの基礎論」など。
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紙の本
正直言って、薀蓄小説ってのが嫌いだね。その部分がどうしても小説から浮いちゃってね、妙なトンデモ本風になることが多いんだよね。ま、強烈な支持者がいるのも分かるけど
2004/01/03 21:17
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
「コンピュータ・ソフト開発の資料集めに、会社の地下倉庫に向かった矢木沢は、幻覚を見る。原因を探る彼に協力を申し出たのが大学受験を控えた女性だった」ホラー。実際には、ホラーの色合いは薄くて、伝奇小説といったほうが正しいかもしれない。
竹本は1954年生まれ。22歳のとき『函の中の失楽』でデビュー。ほかにメタミステリの傑作『ウロボロスの偽書』などがあるという。昔、『函の中の失楽』を読んで、これって中井英夫『虚無への供物』を狙ったんだろうけれど、美文が美文にならず若さだけが露呈した作品で、鑑賞に堪えずと判断して二度と読むことは無かった。本の奥付にある作家紹介で「作品を発表するたびに読書界の話題をさらっている」と書いてあって、それはどこの国の話だろうと思ってしまった。いやあ、我ながら何と攻撃的な前振りだろう。
で、装丁が結構凄いなあと思って、読み終わってから確認したら、横尾忠則の担当だった。いつもの横尾の色使いではなくて、全体に赤味がかかっていて、それが何とも言えない雰囲気を出している。小説の内容をうまく表したものだと、読み終わってからは素直に感心できる。
時代は現代。コンピュータ・ソフトの開発と出版をする会社に勤める矢木沢が参加する会議の場から始まる。新しく作るゲームの主題は「神話」。後半の日本編の資料を集めることになったのが、矢木沢と大森の二人。まず彼が当り始めたのが、様々な業界の人間が出入りするサロン。そこで知り合った剣持こそ、そういう知識を得るには最適な人物のはずだった。
剣持が教えた本を探そうと、会社の地下倉庫に降りていった矢木沢は、この世のものとは思えぬ光景に出会い、混乱したまま気を失う。繰り返される意識の喪失と怪奇なイメージ。彼はそのことを知人の多岐川に告白するが、その場に居合わせたのが多岐川の姪で、たまたま北海道から出てきていた真壁岬だった。大学進学を前に態度保留を決め込んだ美人に、矢木沢はときめきを覚えるが。
一方、矢木沢の悩みを知った剣持は、彼に友人の精神科医 天野を紹介する。取材のために出かけた遺跡で矢木沢を襲う幻覚。岬が調べ上げた、彼が勤める会社のあるビルの意外な前身。それに日本神話や、日本人の起源、日本語の特殊性などが絡んで伝奇推理、あるいはホラーの様相を見せ始める。
正直、不器用な作家だと思う。まず、使われる言葉が少しも美しくない。しかも、言いたいのが、小説に姿を借りた日本人特殊論だとすれば、作者の独自な視点が不可欠なのに、ここで述べられる言語論にしても、神話論にしても、すでに人口に膾炙したものばかり。それをまた、主人公たちが小説の中で延々と紹介する。荒巻義雄の空白シリーズ、新しいところでは高橋克彦『刻迷宮』『竜の棺』『総門谷』を連想する。ファンの間では熱狂的な指示をえるけれど、小説の体をなさない、ただただ登場人物が薀蓄を傾ける、普通の読者には拷問に近い作品群だ。
おまけに、話は少しも収斂しない。むろん、それは小説の特権ではある。宙ぶらりんがもたらす不安、話の継続、奥行き。しかし、それが傑作と呼ばれるには、全てのエピソードが中途半端では困る。矢木沢の開発するゲームは、彼の家族は、ゲームの原案の作者は、剣持は、天野は、建物の謎は、どうなったのだろう。これはクレシェンドではなくクエスチョンである。
紙の本
民俗学的雰囲気をまといつつ、謎が謎を呼んでいく
2003/06/19 14:04
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:PNU - この投稿者のレビュー一覧を見る
新ゲームの開発に携わる矢木沢は、社屋地下通路で不気味な幻視を体験する。なぜ自分がこんなものを見なければならないのか、果たして自分は狂っているのか!? 不安にさいなまれつつ、彼はふとしたことで知り合った浪人中の少女とともに真相を探る。謎めいた怜悧な美少女が魅力的、おなじみの精神科医天野さんも活躍。
現実から遊離する浮遊感、リアルで生々しい幻想の描写は素晴らしいが、日本人の精神特性に関するウンチク(言霊、恥、神話etc.)は既知のことも多くて少し退屈に感じる。とは言っても、ここに重要なポイントがあるため読み飛ばしてはいけないのであった。
特徴は活字ならではの変わった画面作り。「鏡面のクー」や「腐蝕」でも使われた手法が、たくさん使われているのだ。ところどころに地の文が練り込まれていたり、よく見ると何かが浮かび上がって見えたり、実は周到に計算された上での演出かもしれないが、その分量が多いので飽きてきてしまうかもしれない。
ちょっとアッサリ目の読後感は、予想に反するものであった。雰囲気は良いので、諸星大二郎の「マッドメン」や「稗田礼二郎のフィールド・ノート」が好きな向きには退屈せずに読めるのではないかと思う。予想できぬ展開の、異様な作品であると言えよう。